表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/92

Lesson3 初級試験(2)

 学科試験は、ものの30分で終了した。

 もともと、基礎的な魔法の手順や材料についての試験だから、真面目に修行をしていれば、大抵合格するのだ。ナナルとシモンヌは余裕の表情でソファに寝転がっている。


「大方、予想通りってとこか」

「基本的な事ばかりたし、これなら大丈夫ね」

「そうでもなさそうなのが、一人いるけどな」


 机に突っ伏して頭を抱えているのはコレットだ。


「うぅ、やはりあそこはブルーベリーだったのでしょうか。いやしかし、裏をかいてコケモモだったのかもしれません。そうなると…」


 ブツブツと呪いのような言葉を吐いているのが聞こえてきて、二人は顔を見合わせ、吹き出してしまう。


(あれは、もしかして「ジャムに必要な材料」の事かしら)

(干渉呪文の『ジャム』と果物の『ジャム』を勘違いしてるよな)

(でもコレットちゃんらしいよ)

(魔法使いにあるまじきボケじゃないか?)

(まだ私たち見習いだもの)


 二人でひそひそ話をしていると、ガバッと飛び起きたコレットが叫ぶ。


「やはり、クラブアップルで合っているのです!間違いありません」

「何が間違い無いんだね」

「あ、サエナ婆様」


 天に向かって拳を突き上げるコレットの後ろで、いつのまにか忍び寄っていたサエナ婆がしっぽを振っている。彼女がそんな仕草をするのは、よっぽど楽しいことがあったか、これから楽しいことがおきるか、のどちらかだ。


「さて、全員学科試験に合格したから、実技試験に移るよ」

「ええーっ!?」

「うるさいね、何驚いてるんだい」


 ナナル、シモンヌの大声にサエナ婆は眉をひそめた。

 いや、眉はないのだが。


「いえ、だってコレットちゃん…色々と勘違いしていたし」

「そうそう、ジャムの問題とかな」

「なにおう!私の、渾身の回答にケチをつけるのですか」

「一番アホな回答だろ」

「黙れ、ナナルンパッパ」

「なんだと、チビザマス」


 騒ぎ出した受験生達を横目に、定位置のソファに身を埋めたサエナ婆は、大きな欠伸を一つしてから、ピコピコとしっぽを揺らした。


「ジャムの問題ねぇ…久しぶりに正答を見たせいで、機嫌が良いよ」

「久しぶり?」

「そう、久しぶりにね」

「でもジャムっていえば、クミンに大トカゲの尻尾に逆さエビですよね、簡単な問題じゃ…」

「半分正解だね」

「え」


 魔法詠唱を邪魔するジャムの呪文は、色々な素材を組み合わせて作成されるわけだが、その呪文効果というか成功率はあまり高くない。なぜかというと、必要な素材が一つ欠けて伝承されているからだ。

 その素材が最後に入る事で、成功率100%の強力な呪文に姿を変える。

 しかし、魔法使い達にとってあまり好ましくない呪文であるが故に、恣意的にねじ曲げられて伝承されていた。


「そういうわけで、コレットだけ正答なんだよ」

「そんな話、初耳だぜ!?」

「私も聞いたことないのに…コレットちゃんが知ってるなんて」


(あ、危なかった。当たったのです)


 もちろん、コレットがそんな伝承級の魔法に詳しいはずがない。師匠に「ジャムを作って」と言われてコケモモジャムを作ったとき、ブラウニーが一緒に「美味しいジャム」の作り方を教えてくれたのだ。

 その時は、「こんな不味そうなものお師さまが食べるわけないわよ」とブラウニーに文句を言ったのだが、意外にもテレーズは嬉しそうに受け取ったのだ。むろん、食べなかったが。


 だから、なんとなくそっちのジャムを答えに書いたのだが、それが良かったらしい。


「コ、コレットちゃん、さっき何入れたって言ったっけ!?」

「忘れました」

「デコ、もう一度だけ教えてくれよ、な、な?」

「ナナルッコラです」

「このやろ、ケチくさいぞ」

「どうせ、私は魔法使いにあるまじきボケですし」

「げ…聞こえてたのか」


「さあ、そろそろ実技試験を始めるよ」


 頃合いと見て、サエナ婆が試験内容を発表した。

 毎年の恒例で、実際の依頼から見習い魔法使いにも出来そうなものが選ばれ、試される事になっている。この場合依頼料は無料となるので、依頼側にもメリットがあるのだ。

 そして、今年の依頼内容もそう難しいものでは無かった。


『髪を赤く染める薬を作ってもらいたい』


「という依頼だよ」


 サエナ婆がそう告げると、全員が一斉にコレットを見た。期待に満ちた目で。


「ば、バカにするんじゃありませんよ!いくら私だって紙のペーパーと間違えたりしないですよ」


 あからさまに舌打ちをしたナナルは良いとしても、シモンヌまで残念そうにしていたので、ギロリと睨む。


「シモンヌまで、私がドジっ娘だと思ってるのではないでしょうね」

「えっ」

「なんですか、『えっ』って」

「私はコレットちゃん大好きよ?」

「はぐらかしましたね、明らかに」


 うふふと微笑みを浮かべながら、他の受験生達に続いて実験室へと向かうシモーヌだったが、ほんの少しその場にとどまっていれば、違う反応をしていただろう。コレットが、困ったようにぼそりと呟いたからだ。


「それにしても、()を朱く染めるなんて…壮大で詩的な依頼ですね」

今でも試験で落ちる夢を見ます。

怖いですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ