Lesson6 西の遺跡の忘れ物(15)
「もう、いやだー!」
「落ち着け、諦めるな」
「えぐえぐ」
『パルセノキッサス』でリビングデッドを絡め取るが、一瞬動きを止める事が出来る程度で、すぐに体吹き出す煙によりツタが腐敗してしまう。出しても出しても枯れていくツタを見て、コレットの心も折れる寸前であった。
「十分足止めできてるぜ。無理するな」
グレッグは慰めるが、少しずつ押されている現状に焦りを感じていた。何しろリビングデッドは痛覚がない。切りつけても、ノックバックすることなく向かってくるのだが、これが非常に怖い。その上、感染するタイプもいるのでかすり傷でも致命傷となりうるというオマケ付きだ。
結果して慎重にならざるを得なくなり、一体にかける時間が必然的に長くなってしまう。たった十数体のリビングデッドでも、大苦戦である。
そしてほどなく、お化けの類が何より怖いコレットは容易く限界を迎えることになる。
「出しても、腐る。出しても、腐る。出しても…」
「コレット、大丈夫か?」
「こ、こうなったら、焼き尽くしてやるデス」
「ちょ、コレット…さん?」
「あはははは!張り切って焼き尽すが良い」
「やばい、コレットが壊れた」
「『ギガント・ネルンボ』!」
コレットの目は完全に飛んでいた。
床一面に『ギガント・ネルンボ』(蓮のお化け)が咲き乱れる。
それは急速に成長し、枯れた後に種を作り出す。もともと堅い種を作り出す蓮だが、ギガント・ネルンボのそれは、爆発するというオマケ付きだ。
それはもう、盛大に爆発するので、王都では危険種に認定されて栽培が禁止されているほどである。
その種は光に向かって射出される性質を持つため、コレットは光源を作り出すための『魔法』を詠唱する。
「集え、輝きの魔素。我の指し示す場所を…場所を…」
「どうした」
「なんだっけ」
「あほーっ!!」
フィサリスちゃ~んと間延びした声で巨大なホオズキを呼び出し、中から赤本を取り出す。悠長に「どこだっけ」などとページを開いているコレットを、二人の男は必死に護った。
「てめっ、魔法使いなら、初級魔法くらい、覚えてやがれっ」
「見習いですから~」
「くおぉのやろぉ」
あえて剣の腹でブッ叩くようにしてリビングデッドを吹き飛ばしながら、クダチは吠えた。
「早くしろぉ!」
「暗くてよく見えないんですよね…あ、あったあった。いきますよ~」
魔法で頭が一杯なのか、恐怖のせいでネジが抜けたのか、いつものノンビリした調子で返事があった。
「集え、輝きの魔素。我の指し示す場所を照らしたまえ」
「短っ!」
呪文は複雑なものだから、忘れても仕方ないと思っていたグレッグだったが、耐えきれずに突っ込みを入れる。
だが、彼らは間違っていた。
その時とるべき行動は、突っ込みを入れる事ではなく、即座に物陰へ身を隠す事だったのだ。
リビングデッドの背後に煌々と輝く光球が発生した直後、床一面のギガント・ネルンボの花が、一斉にそちらへ向く。もちろん、コレットはすでにベッドの下へ滑り込んでいた。
ドッドドドドド
打ち出される種、種、種の嵐。
リビングデッド達は体中に種を埋め込まれ、そして次の瞬間に爆発した。一体残らず連鎖爆発の渦に巻き込まれ、粉々に砕け散った肉片が雨霰と降り注いでくる。こうして腐りきった肉片が、容赦なく男たちを汚染していく。
「うぎゃああ」
「げええぇ」
咄嗟に背を向けて口元を覆うが、ボトボトと降り注ぐ肉片が背中をノックする。吐きそうになるのを必死にこらえていると、やがて静寂が訪れた。
「フフフ、大成功ですね」
もぞりとベッド下から這いだしてきたコレットが見たものは、2つの腐った肉ダルマであった。地の底から響いてくるようなうめき声を発している。
「コォレットオォォ」
「ひっ、化け物!」
「ふざけんな、コラァ」
「あ、何だクダチですか…うわ、キモっ」
「コロス」
その後、コレットが大量に造ったホウッツィニア(ドクダミ)から消臭粉を精製し、隣の部屋で着替えた二人に向かって、頭からドッサリと振りかけたとか、なんとか。




