表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/92

Lesson5 モータルの競技会(18)

 第一コーナーを迎える前から、ホームストレート前のメインスタンドは興奮のるつぼと化していた。


「うおおおお!」

「いけーっ、抜かせーっ!」

「寄せろっ寄せるんだ」

「あっ、並んだぞ、マジか!」


 スタートで魅せたのはコレットだった。暴れてもいいから全開、などと考えてはいたが、実際の操作は繊細そのもの。少しのロスもなく魔力を地面に叩きつけ、最短距離で浮遊すると、そのまま一気に加速していった。

 だが、第一コーナーまで距離が短かったのが悔やまれる。あと数十メートルあれば完全にイーサクを抜き去ってコーナーに進入していたのだが、並んだ所でもうコーナーが迫っていたのだ。


(ここは、無理しない)


 併走してコーナーに入れば、次のコーナーは自分がイン側になるのだが、この速度での併走はリスクが高い。コレットは少し高度を上げて速度を緩めると、イーサクの斜め上にピッタリと付けたままコーナーに進入していった。


「ああー、ちくしょう!短すぎるんだよ」

「アブねぇ、完璧に抜かれてたじゃねえか」

「すげえ、あの子面白ぇ」

「チャンピオン、負けちゃイヤー」


 悲喜こもごもといった歓声に包まれ、全てのオペラント達が無事第一コーナーを抜けていった。その様子をロベルトはピットでじっと見つめている。

 一周が終わったところで、ぼそりと呟く。


「予想以上に早ぇな」

「コレットちゃんか?そりゃまあ、元王都技術士長の最高傑作じゃからな」

「そうじゃなくて、レース展開がな」

「ほう?」

「もう先頭集団と最後尾で、あんなに伸びきってやがる」

「む、まだ2周目なのにか」


 巨大スクリーンに映し出された全体図は、アリの行軍にような姿を映し出していた。その隊列は徐々に伸び始めている。


「いくらなんでも、トバしすぎじゃないか」

「チャンピオンの調子が良いのかのう」


 そこでロベルトは初めてクスリと笑う。


「いや、コレットさんが突っついてんだよ」

「なんと」


 事実、コレットはイーサクよりも速かった。三周目までは抜きどころを探して、軽く揺さぶりをかけていただけだが、四周目からは本格的に抜きにかかっていた。

 しかしなかなか抜けない。


「くっ、なんていうか。抜きづらいです」


 ホウキでのレースなのだから、高度を変えていくらでも抜けるだろう、と思いがちだが。実はそう簡単でもない。

 ホウキを走らせやすいベストな『ライン』というものがあるのだ。


(ちょっとラインを外れると、乱気流がすごいですし)


 上下左右に微調整を繰り返しながら、イーサクに襲いかかるポイントを探すのだが、しっかりとベストラインを押さえられている。しかし、イラついてラインを外しでもしたら、一気に三位に転落するだろう。

 それに何も仕掛けてこないラデクの事も、不気味だったので不用意に仕掛けることが出来ない。


 膠着したまま、10周目に突入した時だった。

 伸びきった隊列の最後尾に、イーサク達が追いついてしまった。周回遅れだ。

 そしてこの周回遅れの存在で、ようやくレースが動き始める。いかに上手くそれを捌いていくかが、勝負の分かれ目になる。


 このあたりは経験が物を言うのだが、その点イーサクは周回遅れ処理が非常に上手く、勘も冴えていた。一方のコレットは、遅いホウキを処理方法など知らず、何度か行く手を阻まれる。

 そのせいか、今度はイーサクとの差がジリジリと開き始めていた。


(まずいです、これ以上離されると…)


 焦りがなかったといえば、嘘になる。周りが見えなくなっていたコレットは、斜め後ろに迫ったラデクが何か合図をした事にも、全く気が付かなかった。逆にイーサクは何かを感じたのかスピードを緩めた。


(チャンス!)


 一気にイーサクとの差を詰め、ピッタリとその背後にはり付いた。真後ろに付くと魔力の吸収効率は悪くなるが、風の抵抗を大幅に減らせる。一気に抜き去るチャンスだと気合いを入れた直後だった。

 ふっとイーサクの姿が消えた。


 実際には急ブレーキをかけつつ斜め上に逃げたのだが、コレットから見ると消えたように見える。

 コレットの反応が止まったのは一瞬の事であったが、それが命取りだった。

 イーサクの陰から突如現れた二本のホウキが、絡み合ったままコレットの方へと猛スピードで飛来してきたのだ。



「パルセ…」


 咄嗟に唱えた詠唱はホウキとの衝突で遮られ、コレットの意識は一瞬にして刈り取られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ