表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/92

Lesson5 モータルの競技会(17)

 コレットが柄にごく僅かの魔力を流すと、ブルッと体を震わすかのようにホウキが揺れた。そのまま少しずつ流す魔力を増やしていくと、ヒューンと空気を吸い込むような音が甲高い音色に変わっていく。

 実際には前方から魔力を吸い、後方から噴出しているのだが、『レーズ・ドゥケ』の場合その量が半端ではないため、こんな音がするのだ。

 一気に柄へと魔力を込めると、後方からゴウッと魔力の風が吹き荒れ、『レーズ・ドゥケ』が目覚めた。深紅の粒子が勢いよく排出され、停止の魔法をかけているにも関わらず、ジリジリと引きずられ始める。コレットはゴーグルをしっかりと装着し、前傾姿勢になると、柄を指をはじいた。


「いきますよ」


 コレットの指示と共に強烈な加速を始める『レーズ・ドゥケ』。体が引っ張られ、ホウキが暴れ出す。正面から吹き付ける風圧は減衰されているはずなのに、容赦ない。


「こ…んにゃろー!」


 気合い一発、かろうじて姿勢を持ち直すと、ピットロードギリギリまで使ってなんとか浮かび上がる事ができた。


「ふぅ、飛び立つのを見るだけで寿命が縮まるわい」

「バラークの比じゃないですね、ロベルト兄ぃ」

「ああ、誰だあんな高出力にしたのは。コレットさん大丈夫かな?」


(あんただよ)


 ピットの全員が心の中でロベルトに突っ込みを入れていた時、上空のコレットは嬉しさのあまり、叫びまくっていた。


「いーーーやっほうー!さーいこー」


 ここしばらく嫌な事が続いていたせいもあり、思い切り空を駆け抜けるのが楽しくてしょうがなかった。『レーズ・ドゥケ』は快調そのもの、前方には遮るものが何もな…いや、いた。イーサクが。


「すぐに撃墜してやるですよ」


 ニヤリと笑い、不穏な言葉を吐く。冷静さを取り戻して、ゆっくりイーサクの飛行を観察する。左コーナーが少し苦手と見え、ほんの少し外側に膨らんでいた。

 そうこうしているうちに、ウォームアップ飛行が終わる。コレットは手応えを感じながら、芝生に書かれたスタートポジションへとホウキを着陸させた。


 チェイスのスタートは古典的だ。地面に描かれたラインに従い、16人が両足を付けて合図を待つ。そしてフラッグの合図と共にスタートし、最も早く20周した者が優勝となる。

 次々と選手達がスタートラインへと降り立ってくる中、コレットはブツブツと呟きながら集中していた。


(スタートは暴れてもいいから全開で勝負、第一コーナーは―)


 全員がスタートラインに並び、ビリビリと空気が会場を覆う。充満した魔力で、気分が悪くなるほどだ。


(第一コーナーは、イン側のラデク氏に注意ですね)


 イーサク以上に、三番手のラデクが要注意だ。イン側から突っ込まれたら厄介なことになる。


(あとは、奥の手を使わないですむ事を祈るばかりと)


 スタート前、ピットでおずおずと話しかけてくる技術者達がいた。曰く、奥の手を用意したと。


『ドカンとスピードアップするとか、そういうんじゃないんですけど』

『ホウキの負荷が大きすぎると思ったら使ってください』

『俺たち真面目に考え抜いたんです、遊びなんかじゃないんです』

『ちょっとは、そのアレですけど』


 嫌な予感がしたが、とりあえず詠唱方法とその効果、持続時間を教わった。その上で、一つの疑問が浮かび上がる。

 本当にロベルトはコレを認めたのだろうか、と。

 しかし、今それを問いただす時間は無い。


(まあ、いま考えてもしかたないですね)


 コレットは、大きく深呼吸をすると、前方のフラッグに集中した。

 『レーズ・ドゥケ』の吸気音が、ヒュイィィと甲高く鳴り響く。

 いよいよ、最高に楽しい時間がやって来るのだ!


 白と黒のフラッグがゆっくりと持ち上げられ、そして勢いよく振り下ろされた。


「スタート!」


 一斉にホウキと芝が舞い上がり、決勝戦の幕が切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ