M(ミヤビ) ――私と彼女の心理的距離――
短編シナリオです。
『M ――私と彼女の心理的距離――』
明波愛歌
登場人物
・西野朋子
高校2年生
・蓮池雅
朋子のクラスメイトで恋人
〇 教室
年寄りの白衣を着た物理教師が板書をして、解説している。
西野朋子、ノートに板書を写しながら隣の席をチラッと見る。
視線の先にはコックリコックリと睡魔と戦っている蓮池雅。
朋子はクスッと微笑み板書を続ける。
朋子のM「女の子同士だけど、わたしと雅ちゃんは付き合っている。
2年生に進学して、席が隣になって、仲良くなって……。
まわりの子たちが冗談でわたし達のことをからかい始めた頃、雅ちゃんから告白してくれた」
〇 学校
その全景。チャイムが鳴り響く。
〇 教室
教師「えー、では次の授業は小テストを行うので、勉強してくること」
教師、荷物をまとめて教室をでていく。
雅「(背伸びしながら)やっと帰れるー」
朋子「(驚きながら)あれっ起きたの?」
雅「なんかチャイムが鳴ると目が覚めるんだよね」
朋子「(クスッと笑いながら)なんとなくわかる」
日直の生徒、黒板を消す。
それを見て、
雅「あっ!! ノート取ってない!」
生徒A「なに? どうせ、また寝てたんでしょ?」
雅「あーー、テストやばいんだけど」
クラスから笑いが起こる。
朋子、雅にノートを差し出しながら。
朋子「雅ちゃん、ノートみる?」
雅「サンキュー!! 愛してるーー」
雅、朋子からノートを受け取って抱き、朋子、すこしうろたえながら若干嬉しそうな表情。
ドアが開き担任が入ってくる。
担任「ほらー、終礼やるから席に着いて」
生徒B「せんせー、蓮池さんと西野さんがイチャイチャしてまーす。不純異性交遊だとおもいまーす」
雅「異性じゃないし!!」
担任「はいはい、女子校特有のアレでしょ。
蓮池さんも西野さんに頼ってばかりいないで、ちゃんと自分で勉強してね。
西野さんも蓮池さんを甘やかしすぎないこと」
朋子・雅「はーい」
顔を合わせてにっこり笑う朋子と
雅。
雅「怒られちゃったね」
朋子「(微笑みながら)ねっ」
朋子、雅の指先が黒ずんでいるのに気がつく。
朋子「雅ちゃん、それどうしたの?」
雅「えっ? あ、ああ。ちょっとね」
担任「だから、静かにって!!」
朋子と雅、肩をシュンッとさせてまた笑い合う。
〇 駅前(夕)
帰宅する学生やサラリーマン。
〇 駅前のファストフード店(夕)
テーブル席で向かい合いながら勉強をしている朋子と雅。
雅「(ペンを机に放りながら)あー、物理ってムズ過ぎ」
朋子「ハハッ、公式とか難しいよね。あと単位の種類もいっぱいあって」
雅「そう! 特に単位ね! だいたい、ニュートンとかパスカルとかってあれ名前でしょ?
恥ずかしくないのかって」
笑い合う朋子と雅。
雅、ノートを隅に、『↓74M』と。
矢印の先にはイチャイチャしている大学生カップル。
朋子「(首をかしげながら)74メートル?」
雅「違うって。メートルじゃなくてミヤビ。あたしが発明した新しい単位」
朋子「じゃあ、74ミヤビってこと?」
雅「そうそう。愛の単位ってやつ。メートルは長さだけど、ミヤビは二人が歩んだ愛の距離を表しているわけ」
× × ×
デパートから出てきた中年の夫婦。
雅の声「あれは、お互い指輪もしてるし143ミヤビ」
× × ×
駅前、一緒に下校する初々しい中学生の男女。
雅の声「あれはまだこれからだから15ミヤビ」
× × ×
店内、向かい合ってテーブルに、座っているカップル。男は身振り手振り話していて、女は退屈そう。
雅の声「女の方は完全に気がないな。もう最悪、マイナス500ミヤビ」
× × ×
笑い合う朋子と雅。
〇 電車内(夜)
しゃべりながら帰宅する朋子と雅。
× × ×
雅、電車かホームに降りて振り返る。
雅「じゃあ、家着いたら電話するね」
朋子「うん、わかった。バイバイ」
雅「バイバーイ」
去って行く雅を見る朋子。
朋子のM「雅ちゃんが告白してくれて、わたしは嬉しかった。わたしも好きだったから。でも、分かっているんだ。わたしたちの関係は角砂糖みたいで――」
男と合流する雅――
朋子のM「現実世界の大海原では、すぐに溶けてなくなってしまうものだって。だから、伝えなくちゃ。お塩かお砂糖か分からなくなる前に……」
〇 屋上(夕)
二人きりの屋上で向かい合う朋子と雅。
雅「どうしたの? 急にさ」
朋子「わたしたち、別れたほうがいいと思うんだ」
雅「えっ? そ、それホンキ?」
朋子「私たちの心理的距離はきっと、プラスでもマイナスでもなくて、虚数なんだと思う。存在しないんだよ。
だから、もう、やめにしよ」
雅「えっと、駅で……みたの?」
朋子「(俯きながら)…………」
雅「虚数ってさ、目に見えないだけで、実際にあるって言うじゃん。
それって愛だとかもそうだと思うんだ。
きっと、別の世界で、大切に保管されてるんだよ」
ポケットから箱を取り出し、
雅「大切な物は目に見えないじゃん。それが怖いなら、それが不安なら」
雅、箱を開けて指輪を取り出す、
雅「この指輪がすり減って、なくなるまで、ここのくぼみに愛が埋まってると思ってよ」
朋子「(ハッとして)もしかして」
雅「そうそう、知り合いにつくるの協力してもらってたの。この、どんだけ乙女なんだよ」
笑い合う朋子と雅。
雅、小粒なダイヤを夕日に向かって投げる。
朋子「あっ!! いいの!?」
雅「いいんだよ。もう、宝石は埋まっ
てるから」
朋子と雅、見つめ合ってから唇を重ねる――・
〇 坂道(夕)
朋子と雅は楽しそうに坂道を登っていき、つないだ手の薬指には指輪がある。
その指輪には、何もないはずなのに、くぼみのところが輝いていた――。
(了)
昔すこしだけ書いたシナリオを手直ししたものです。
あかうさ様が小説にして下さって様なので、こちらもどうぞ。
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