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旅 その5と終わり

朝。


何時かも分からない。


そんな、温かい日差しの朝。


俺達は、少し休憩をしていた。


「見て!!」


三太郎が嬉しそうに、走ってきた。


その手には、ラジオが握られていた。


「ラジオか?」


壱助が聞いた。


「うん!!」


三太郎は、嬉しそうに答えた。


「よくやりました!!これで、今日の日付を知れます!」


陸は、大興奮で駆け寄った。


「そんなに、大事な事か?」


俺は、そう聞いた。


「大事ですよ!これなら、あと何日で着くか分かります!」


「ふ〜ん、どうでもいいな!」


そう言うと、少しぷくれて、ラジオをいじりだした。


やがて、ラジオが流れ出した。



《……ザザ……》


「皆さま、おはようございます。本日は、三月十日・土曜日でございます。

各地で寒さがやわらぎ、そろそろ春の……」


《ブツッ》


《……三月十日、十分前通達……》


「各兵は、本日からの灯火統制に細心の注意を払うこと。

不審な光の見落としがあってはならない。

以上──」


《ザーッ……ガッ……》


「さあ、きょうも一歩ずつ、前へ進んでまいりまっ…!!」


《……ザー……》


そうして、ラジオは完全に、途切れた。


「…………兄ちゃん…怖い!!」


三太郎は、壱助の裾を掴んだ。


「大丈夫、大丈夫だ!」


壱助も怖いはずなのに、慰めていた。


「……三太郎さん!」


「ん?」


陸は、少し難しい顔をした。


「………このラジオの持ち主まで、案内出来ませんか?」


陸は、そう言った。


「うん!良いよ!!」


三太郎は、純粋に答えた。


そして、歩いて行った。


俺達は、その後ろを着いて歩いた。



少し経って、一人の一般兵が横たわっているのが見えた。


逸れたのか、逃げたのか。


身体は、ボロボロだった。


「この人が、ラジオ持ってたんだ!だから、少し借りたの!

でも、さっきまで起きてたのに……寝ちゃったのかな?」


そう三太郎は、はにかんだ。


「…………そうですか…」


「どうしたんだ?」


俺は、陸の行動に違和感を持って、聞いた。


「……僕の叔父でした!」


「え!?本当なのか?」


「はい!このラジオのここに、

この人は、既婚者の名前と、自分の名前を刻んで居ました!

それが、さっき見えたんです!」


そう言って、ラジオの裏の名前を撫でた。


「…………これは、父親に返しましょう!

それまで、僕が持っています!役には、立ちますからね!」


陸は、笑顔を浮かべた。


その顔は、凄く無理をしていた。


「………少しは、休めよ!」


壱助が、心配そうに言った。


「分かっています!」


陸は、ラジオをしまいながら答えた。


「ねぇ……もしかして、亡くなってるの?」


そう、三太郎が聞いた。


俺は、回答に困った。


死んでいるとも、生きているとも言えないと思ったから。


「………死んでいます!」


「ちょっ!!陸!!」


咄嗟に、陸の腕を掴んだ。


陸は、それを振り払いながら、続けた。


「でも、三太郎さんの責任ではありません!!

これは、逃げ腰の叔父が悪いのです!!

臆病者の非国民なんて、無視で良いのです!」


「お前も、最初会った頃、チョコ差し出してきたけどな!」


壱助が、そう言った。


「あ、あれは、良いんですよ!!僕だから!!」


陸は、焦りながら、答えた。


「良くないと思うぞ!!」


俺は、そう答えた。


「貴方だってっ……!!」


三太郎が、急にしゃがんだ。


俺達は、そっちを見た。


「それじゃ、お手々合わせないとなんだね!」


そう言って、三太郎は手を合わせた。


俺達も、真似するように、手を合わせた。


どうか、冥福を祈る為に。


その後、陸の叔父の荷物を漁った。


そして、持てるものは持って、

また出発した。



ーーー

やがて、鹿を見た。


俺達に気付くと、一目散に逃げ散った。


その姿が、やけに今の俺達と重なった。


弱い者は、捕食者から逃げ隠れる。


悲しくもあり、それが摂理だと感じた。


ーーー

夜。


薄暗い、夜。


皆で、ご飯を食べた。


陸が言うに、明日には、呉市に着くらしい。


早いものだ。


9日で、着いてしまうのかと思った。


皆が、楽しそうにはしゃいでいる。


普通に笑い合っている。


嘘みたいだ。


皆、辛い戦争の中で生きているはずなのに。


皆、大切な人々を失っているのに。


「なんですか?隆平さん!!

そんな暗い顔して!」


「………別に、何でもない」


「何だ?腹、減ってるのか?」


「……してない…」


「お兄さん!僕のあげようか?」


「駄目ですよ!三太郎さん!!

隆平さんを、甘やかすと、もっと欲深くなりますよ!」


「……お前は…!!俺を、何だと思っているんだ!!」


「鬼です!!」


「はぁ?そんな訳、無いだろ!」


「そんな事、ありますよ!!

ほら、今も、鬼の様に怒っています!!」


「だ………誰のせいだと、思って………!」


「ん〜、誰のせいでしょうね?」


「全く、早く飯を食べてくれ!」


そう、壱助が急かした。


「いや……陸が!!」


「年上だろ?我慢しろよ!」


「………そうだな…」


俺は、飯を食べ進めた。


そんな俺を、陸はつまらなそうに見ていた。



やがて、皆で寄り添い合いながら、眠った。


俺は、夢を見た。


その夢は、遠い、遥かに遠い。


未来の自分が見えた。


そんな、夢だった。



ーーー

朝の3時。


ラジオを適当に流しながら、荷物を整理していた。


俺は、Kの写真を、無意識に指でなぞっていた。


「あっという間だったな!」


壱助が、急に話し掛けてきた。


俺は、慌ててそれをしまった。


「そうだな………。これから、どうするんだ?

家に来るなら、それでも良いが!」


「良いのか?僕達を養う金なんて、無いだろ?」


「……養う金…あてはある!」


「…………どうして、そんな事言えるんだ?

平民だろ?何処から、持ってくるんだ?」


「どうして、俺が平民だと思った?」


「そりゃ……ボロボロだしな…………」


「わざとだ!服なんて、いくらでも変えられた。

飯なんて、いくらでも手に入った!」


「……何者だ?」


「…………誰にも言わないか?」


「……あぁ、親友だろ?」


「俺は、⬛⬛⬛の人間だ!!」


「それじゃ……こんな生活してないで、済んだだろ……!」


「俺は、自分だけいい生活なんて、嫌なんだ!

そんな人間だ………!」


「………お前らしいな!」


壱助は、笑った。


そんな笑顔は、普通の男の子の様だった。



ーーー

やがて、4時。


俺達は、歩き出した。


まだ暗い道。


でも、俺達の所だけ昼のようだった。


それほど、明るく見えたんだ。


ーーー

朝の7時。


陸がやっと起きた。


「いつまで、寝ているんだ………!

全く、危機感が無いな!」


俺は、そう聞いた。


「う、うるさいですね!!ずっと、眠いんです!!」


「陸君!眠いなら、寝れば?

僕も、昔はそうしてたよ!!」


三太郎は、ニコッと笑った。


「それは、戦争前の話だろ?

今は、いつ起きるかも分からない空襲に、警戒しておけ!」


壱助が、眉間にしわを寄せながら言った。


「もう!兄ちゃんは、厳し過ぎるよ!!」


三太郎は、反論していた。


「お前は、死にたいのか?」


少し強めの口調で、壱助は言った。


三太郎は、それが怖かったのか、

目にいっぱいの涙を浮かべながら、俯いた。


陸は、そんな三太郎を慰めていた。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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