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旅 その2

やがて、山の途中まで来た。


その内、辺りは暗くなっていた。


「春は、暗くなるのが早いな……」


そう言いながら、辺りを見渡した。


「……………?」


「……?どうしたんですか?」


「………道が、分からなくなった……」


「はぁ!?な、なんて事してるんですか!!」


「仕方ないだろ……こんな山、行く機会も無いんだ!」


「…………はぁ、仕方無いですね!案内します!」


そう言って、陸は前を歩き出した。


「なんで、分かるんだ?」


俺は思わず、聞いてしまった。


「…………母様と父様の元から、逃げてきたんです!

疎開児童に紛れて、逃げて死亡扱いにするつもりでした。

父様も母様も、僕の事は探そうとしないので!

その為、本当は長崎に居ました!

母様が、親戚の長崎に疎開した為、

無理矢理連れてかれました!

でも、僕は戦争等信じていませんでした。

その為、ある夜に逃げました。自分の愚かさを信じて。

そして、僕はその内名古屋に辿り着きました。

道中は過酷で、折れてしまいそうでした。

でも、名古屋の親戚の元で着替えた後に、

貴方に会いました。

だから、今この道は、僕が辿った道なんです!」


そう、笑った。


僕は悟った。


彼の少し勇敢で、世間知らずさは、

全くの勘違いなのだと。


彼はとっくの昔に、この世界の過酷さや、

今、起きている現状を知っていたのだと。


安全圏で、生まれ育っただけの子では無いのだと。


「それでも、怖くて……名古屋の親戚に会うまで、

誰とも接触しなかったんです。

名古屋に住んでいる、親戚は口が固い人達なので!」


彼は、遠くを見つめて言った。


「それじゃ……こっちに戻るのは…」


言葉を詰まらせながら、陸に聞いた。


「………大丈夫ですよ!バレることはないですよ!」


彼は、苦笑いをした。


本当は、恐れているはずなのに。



しばらく経った。


いつの間にか、日は暮れていた。


「……大分、歩いた気がする………」


「そうですね。でも、これでも下の方なんですよ!」


「……そうなんだな…」


「そうですよ!」


「……もう暗くなっているし、ここで野宿するか?」


これ以上、進むのも危ないと判断して、そう話した。


「はい!良いですよ!」


そう彼は、ニコッと笑った。



その時、ガサガサと音が聞こえた。


俺は、野良犬だと思って、陸を後ろに隠した。


「………っ!!」


「人だ!!」


「人が居る……」


2人の子供が、ひょこっと顔を出した。


服には、兵庫県養父市 5年4組 武山壱助と、

兵庫県養父市 3年1組 武山三太郎と書いてあった。


「……なんで、名札付けてないんだ?」


「………あ…」


俺が、必死に言い訳を考えてる時だった。


「兄ちゃん、お腹空いた!!」


下の子が、悲しそうに言った。


「……我慢しろ。食べ物なんて、無いんだ!」


「それなら、これあげますよ!」


陸は、チョコを差し出した。


「…………え?」


「…は……陸?」


「少し、残ってたんですよ!」


「お前、非国民か!!」


「ひ、非国民!?」


「そうだ!敵から、そんな物貰うなんて!」


「……でも、美味しそうだよ?兄ちゃん!!」


「…………でもな…」


「……少しだけ、食べるか?」


俺は、そう聞いた。


「良いの!食べる!!」


下の子は、嬉しそうに受け取った。


「美味しいですか?」


「うん!美味しい!!」


「………なら、僕も一つ貰おうか!」


そう言って、一欠片を口に入れた。


「何だよ!本当は、食べたかったんだろ?」


俺は、茶化した。


「………当たり前だ!

僕だって、本当はこんなお菓子いっぱい食べたいんだ!

でも、大人は駄目だって言うだろ?」


そう言いながら、壱助は泣き出した。


「わっ!?大丈夫ですか!」


「兄ちゃん………大丈夫?」


2人は、心配そうにしていた。


「………………大丈夫だ!」

(甘い………)


そう言った。


でも、その目には年相応の幼さが映った。


ずっと我慢していて、

必死に大人ぶって生きた者の目。



やがて、俺達は満天の星空の下で、

並んで横になった。


真っ暗な夜の山。


静けさと、孤独だけを残した。


そんな中で、俺達は互いに温かみを感じながら眠った。



ーーー

次の日とも言えない、丑三つ時に目を覚ました。


「起きたのか?」


「うわっ……びっくりした…」


「………僕も、起きたんだ!」


「そうだったんだな……」


「いつの日か、眠れなくなったんだ!

空を飛んでいる鳥すら、敵に見えて怖いんだ!

戦場へ向かった父も、逸れた母の生死も分からない。

こんな世界で、弟1人引き連れて生きるのは難しい。

いっその事、あの時……弟と死んでれば良かった!

そんな日を繰り返す。僕は、僕が憎い………」


静かに、涙を流した。


それは、今まで隠してきた涙なのだと思った。


「………大丈夫だ!俺は味方だ!

必ず、父も母も生きている!困ってるなら、俺が助ける!!

俺は、お前が生きててくれて嬉しい!」


俺は咄嗟に、そう言った。


「…………っ!うん……ありがとうな!!」


彼は、小さくはにかんだ。


その内、陸が起きてきた。


その為、出発する事にした。


「…………なぁ…」


「ん?どうしたんだ?」


「俺達も、着いてっては…………駄目だよな!」


「…………陸は、どうしたい?」


「え!?僕ですか!!そうですね…………」


しばらくの沈黙が続いた。


その通りだ。そんな簡単に、出せる答えでは無い。


この旅に、無力な子供が増えるだけだ。


「………僕は、良いですよ!」


「本当か!?」


「はい!どうせ、どう生きようが、野垂れ死にしかありません!

僕は、一人ぼっちで死にたくないのでね!」


「…………巻き込むなよ…」


「はぁ!?貴方こそするくせに!!」


「しない!するわけ無いだろ!!」


「いいえ!あの時、貴方は死のうとしてたでしょう?」


「………どれのことか、分からないな…」


「……そうですか」


「兄ちゃん!」


「ん?どうした?」


「また、賑やかになるの?」


「そうだな!」


「嬉しい!!賑やか、好きだよ!」


そう、笑った。


俺も、弟達を思い出して、つい微笑んだ。


「あ!お兄さんが、微笑んだ!!

お兄さん!笑ってる方が、かっこいいよ!」


そう、純粋に生きる。


何も知らない幼い子供だからこそ、

作り上げる平和な気がした。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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