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旅の始まり その1

そして、俺と小さな少年の陸と、

広島に向けての旅が始まった。


「予定だと、数日で着きますよ!」


「そうなんだな……」


「あ!道などは、お気になさらないで下さい!

僕が、全てご案内致します!」


「………分かった…」


「あ、でも!裏道や農道とかを通るんで、

足元には、お気を付けくださいね!」


「あ、あぁ………」


僕は、その子の言う通りに付いて行った。


「そういえば、両親とかは……?

俺に、構っていいのか?」


「………はい!良いんです!

もう、昔の父様も母様も居ません!

僕が居ても、冷たい目で見るだけです!」


「……そうなのか…」


そう言うと、その子は少し微笑んでまた進み出した。



やがて、津島に辿り着いた。


「僕、疲れました!

それに、乗せてください!」


そう言って、おばさんから借りた荷車を指さした。


「……別に、良いけど………。

指差しちゃ駄目って、教わらなかったのか?」


「習いましたよ!でも、それならどうやって、

示せば良いんですか?」


「普通に、口で言うだけにすれば………?」


「嫌です!伝わらないでしょう!!」


そう言いながら、荷車に乗っていた。


俺は、少し呆れたが、

幼い子のやる事だとすぐに諦めた。



その内、一つの古びた宿が目に入った。


「僕、もうあそこで休みたいです!」


そう、駄々をこねた。


仕方なく、そこで休む事にした。


「………すみません…」


「はい……?」


「泊まることは、出来ますか?」


「…………ちょっと、待ってな!」


そう言って、おばさんは奥に行ってしまった。



しばらくして、おばさんは帰ってきた。


「入んな……ちょっと狭いが、あたしの一部屋貸したる!

早く来い……ばれんで!!」


そう言って、奥に案内してくれた。


その後、僕達はそこでのんびり過ごした。


ーー

次の日。


まだ、外は暗い。


そんな、朝早くに出発の準備をしていた。


ガラッ


そう音と共に、おばさんが来た。


「………あんたら、これ持っていき……」


そう言って、干し肉を渡してきた。


「え!?良いんですか!!

僕、干し肉大好き!!」


陸は嬉しそうに笑った。


「………なんで、干し肉があるんですか?」


「……………隠しとったんや……。

非常食だったけど、やるよ!」


「………でも……」


「まぁまぁ、貰えるんですから!

有り難く、受け取りましょう!!」


そう笑った。


「……たまに、居るんよ!

非合理で、疎開する人達……」


「……っ!」


「……ぇ…」


俺は、咄嗟に陸を後ろに隠した。


「………別に、警戒しんで良いよ!

怖がらせるつもりは、無かった。

でも、その場合差別や偏見を向けられる可能性もある。

気を付けるんよ!」


おばさんが、ほのかに笑った。


やがて、僕達はその場を後にした。


次に向かう為に。



しばらく、歩いた。


こんなに、歩くのは初めてで凄く足が重い。


でも、行かないと。


待たせている人達が居るんだと思って、

前に進み続けた。



途中で、子供達が無邪気に遊んでいた。


その光景が、凄く羨ましくなった。


本当は、こんな戦争など無ければ、

僕だってあの子達の様に居たはずなのに。


「………僕は、今の時代が好きです!」


「……?」


「僕は、戦争があったからこそ、ここに居るんです!

そうでなければ、僕はもう籠の中の鳥でした……」


苦笑しながら、話した。


「………そうかもな…」


俺も、少しばかし同意はした。



やがて、お昼すぎ。


外れの集落に着いた。


「あんたら、どっから来たん?」


「愛知から来ました!」


陸は、元気に答えた。


「え……言うのか………?」


俺は、少し驚きつつ、集落の人達に目を向けた。


「ほか、愛知か!!」


「長、呼んでくれ!!」


「もう居る……」


年を取ったおじいちゃんが、ゆっくり出てきた。


「…………よく来た。

疲れただろう、少年達よ!」


「荷車は、僕が押してくよ!」


「あ………ありがとう……」


ここの人達は、皆親切だった。

それが、少しだけ怖かった。


「そういや、都会って行ったことある?」


そう、荷車を押してた子が言ってきた。


「…………無いな…」


「へぇ、愛知からならあると思ったのに!」


「………」


「凄く、人がいっぱい居るんでしょ?」


「……まぁ…居るな!」


「凄いね!いつか、行ってみたいな!!」


そう、笑っていた。



その後、集落の子達と夕方まで遊んだ。


久々に、戦時中な事を忘れられた。



その日の夜。


俺は外で星空の下で、Kの写真を眺めていた。


「……………」


「何してるんですか?」


誰かの声が聞こえて、慌てて仕舞った。


「………あ、陸」


「何ですか?考え事ですか?」


「……………まぁ……戦争なんて無かったら、

良いのにと思っただけだ!」


「………そうですか…」


少し沈黙が、あった。


俺は、この星空の様に、綺麗で居たくなった。


だから、自分の気持ちを伝えようと思った。


「俺は、非国民だ!とっくの昔から、この国は嫌いだ!

天皇も嫌いだ!この世界が、嫌いだ!

愚かな争いを続けてる内は、意味が無いと思う!

殴りたければ、殴ればいい。罵りたかったら、そうしろ!

でも、俺は!意思を、曲げない!!曲げるつもりは、無い!」


俺は、強めの口調で言った。


きっと、俺の事を殴ってくれると思って。


俺は、惨めな人間だから。

それが、消える気がした。


「………僕も、嫌いです!」


陸は、少し間を空けた後に、微笑んで返した。


俺は、それに対して恐怖を感じた。


諦めた目、痛みなどどうでも良さそうな笑顔。

無力感に包まれた、小さな体。


「……っ……………!」


陸は、ゆっくり腰掛けて、話し出した。


「……戦争によって、父様は変わりました!

撫でてくれたその手で、僕を殴るようになりました。

戦争によって、母様も変わりました!

昔は、毎日、貴方の名前は大地、生きることそのものと言ってくれました。

でも、今はせっ………」


「まだ、起きていたのか?」


「あ、長さん!」


「明日は、鈴鹿山脈を越えるのだろう!

あそこは、険しい場所だ!早く寝なさい!」


「……………はい!すみません、すぐ寝ます!」


陸は言いかけてた事を教えずに、戻ってしまった。



ーーー

次の日、3時のまだ暗い時間帯に起きた。


「気を付けるんだぞ……少年達」


「はい!ありがとうございました!」


「またね〜!!」


僕達は、皆に見送られながら旅立った。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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