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また訪れるものと、決断

1月3日。


ウゥゥゥゥ


急に、空襲警報が鳴った。


「……!」


「大変だよ!」


近所のおばさんが、焦りながら駆け込んできた。


「……どうしたんですか?」


「飛行機が、こっち来てるみたいよ!はよ、逃げるよ!」


そう言いながら、弟達を抱え込んだ。


「あんたは、母親とその子守って来るんよ!

あたしらは、北の所で待ってるからね!」


そう言って、走って行ってしまった。


「………母さん…急ごうか…」


「……えぇ、そうね!」


そうして、外に出た。


そうしたら、飛行機が何機も上空を切るように飛んでいった。


そう思ったら、一気に何かが落ちて来た。


「…………爆弾だ……!!」


誰かが叫んだ。


皆は、一斉に逃げ出す。


「キャッ!」


目の前で、若い女性が押された。


「大丈夫か?」


俺は慌てて、駆け寄った。


「……はい、ありがとう…ございます!」


「あ、いや……別に…!」


「あの、本当に…ありがとうございました!」


そう言って、走って行った。


俺はその時、家に忘れ物があることを思い出した。


「……母さん…先に行っててくれ」


「………えぇ、分かったわ」


少し沈黙があった後に、母さんはそう言った。


「ありがとう……」


俺は、そう言って家へ戻った。


「あった!」


父さんが、いつも使っていたハーモニカ。


「……父さんが帰ってきた時、

ハーモニカが無いとガッカリしちゃう!」


俺は、小さい頃を思い出した。

このハーモニカで、俺の人生は変わったと話していた事を。


ドサッ


その時、後ろから大きな音が聞こえた。


俺は驚いて、振り返った。


それは、火が付いた木が落ちた音だった。


「………!」

(まさか………)


俺は咄嗟に、上を見た。


ギキッ………


ドンッ


火が付いた木が、俺目掛けて落ちてきた。


僕は、必死に腕で体を守った。


「……熱っ…!!」


あっという間に、家に火が燃え移った。


「………逃げないと……!」


なんとか、重い体を動かした。


ガッ


「わっ!?」


ドサッ……


恐怖の余り、足がすくむ。


「……っ!」

(火が迫ってるのに!)


鼓動が煩く、こびりつく。


体は、地面に引っ付いているようだった。


「ツカマッテ!!」


俺は、誰かに手を引かれた。


ドシャンッ


その時、俺が居た所に、木の柱が倒れ込んだ。


「………危なかった…」


「おにさん、ダイジョブ?」


そう聞こえた声は、空だった。


「………空…」


「おにさん!ハヤク、逃げよう!!

ここに居たら、アブナイ!アッチ、あっちあるよ!」


空は、手を引いて走ってくれた。


僕は、虚しくなった。


怖気づいて、動けなくなった俺と、

年下なのに、俺よりも勇敢な彼に。



やがて、彼が案内してくれた防空壕へ到着した。


「ココで、マトウ!」


「………あぁ…」


「お兄さん!ケガ、ダイジョブ?」


その時、気が付いた。


両腕に、火傷を負っていた事に。


「………大丈夫!俺は、大丈夫だ!」


俺は、そう伝えるしか無かった。


ここで逃げ出したい、怖いなんて言った日の、

周りの目が怖かった。



それから、しばらく防空壕の中に居た。


「…………っ…」


ドカンッ


爆弾が落ちる度に、地震が鳴るように響く。

まるで、地面に鯰が居る様に。


俺は、体の震えが止まらなかった。


いつか、自分も見つかって殺させるのではと言う恐怖。



その時、空が俺の手を握った。


「お兄さん……ダイジョブ!

きっと、イキル!!お兄さんも、皆も……イキルヨ!」


空は、慰める。


その目は真っ直ぐで、本当になると思っている。


その真っ直ぐで、純粋な子供らしさが、

羨ましかった。


どう頑張っても、怖がって逃げる俺。


未来に向かって、歩む事を選ぶ彼。


きっと、そんな彼が……彼らが良い未来を紡いで行くのだろう。

俺は、そう思った。



やがて、辺りは静かになった。


ゆっくり、外に出た。



辺りは、ただ燃えカスと、

ガラガラと崩れ去った建物しか残っていなかった。


俺は、その中を空と一緒に歩き回った。


家族の元に、行く為に。


ーーー

やがて、母さんの元に辿り着いた。


母さんの中には、泣き疲れた海が居た。


その時、Kの写真が落ちた。


俺は、それを拾いながら、母さんに言った。


「…………母さん…安全な、親戚の元に行こう!」


俺は、真っ直ぐ見つめた。


母さんは、少し驚いた顔をした後、ゆっくり頷いた。


その顔は、覚悟を決めた顔だった。


母さんにとっても、俺にとっても、

父さんや幼馴染との思い出が詰まった、そんな町だ。


離れるなんて、嫌に決まっている。


でも、いつまでもここに居た所で死ぬだけだ。


時には、逃げる事も大事だと俺は思う。


「………このまち、ハナレル?」


そう、空は不安そうに言ってきた。


「うん……弟達を安全な所に、行かせてやりたい!」


「……なら、僕もツレテッテください!

行き先なんて、ナイです!

親戚にも、街の人達にもキラワレモノ!

父も母も、どこにもイナイ!オネガイシマス!!」


そう、頭を下げてきた。


「………………」


俺は、考えた。


こんな時代に、育ち盛りの子供1人増えるだけで、

どんな影響があるかなんて到底理解出来た。


「良いんじゃないかしら?」


母さんは、迷いなくそう言った。


俺は、その言葉に唖然とした。


「……………かあっ…!」


「ヤッタ!!」


でも、空は嬉しそうに笑った。


それを見て、母さんも微笑んだ。


「………まぁ、母さんが良いなら……」


その笑顔を見て、母さんは最初から決めていたのだと分かった。



あれから、数日が過ぎた。


「本当に、一人で残る?」


「うん……家の荷物をまとめないと、そうしたら行くよ!」


「……えぇ、待ってるわ!」


「義徳、梨々子。海のことちゃんと、見てやるんだぞ!

それに、母さんと空の事もちゃんと……」


「分かったから!兄ちゃん!!」


「ちゃんと……するよ!お兄ちゃん!」


二人は、大人扱いされたいみたいで、怒っていた。


「………そっか、宜しくな!

空……また、会おうな!」


俺は、微笑んで、手を振った。


「ハイ!また、アイマショウ!!」


そう言って、皆は親戚が住んでいる広島へ行ってしまった。


俺は、その背中を見えなくなるまで見ていた。


もう、会えないかもしれないから。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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