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始めての空襲と、その後

やがて、数日が過ぎ去って行った。


もう寒い冬の12月13日になっていた。


落ちた。


誰も予想なんて、していなかった。


そんな、俺も何も無いと思っていた。


「……!あっちは……」


気が付けば、母さんの声すら無視して走り出していた。


「………」

(お願いだ……無事であってくれ!)


俺は、無我夢中で走った。


どんどん耳には、煩く人々の声や空襲警報の音が響いた。


どんどん鼻には、焦げ臭い匂いがこびりついてきた。


どんどん目には、赤い炎が見えてきた。


「……………あぁ……」


目の前には、爆風で大怪我を負って苦しそうな人達や、

全身火傷を負ったのか、誰かも分からない人達が居た。


「……K!!………お願いだ、K!!返事して…くれ!!」


俺は必死に、そう呼び掛けた。


でも、燃え盛る炎にすべてかき消されて、

俺の声なんて鼠の鳴き声みたいだった。


「あんた……高麗家の長男やろ?」


「手が空いてるんやったら、手伝ってくれ!」


そう話し掛けられた。


「…………はい!」


こうして、初めての空襲が来た。


俺は、始めて戦争という土台に、

正式に乗った気がした。



それからというもの、俺は必死に消化活動に励んだ。


消しても、消しても、消えない火。


息も絶え絶えになりつつあった。


ーー

カランッ………


バケツが、床に転がった。


消してる最中だった。


「……………け、K…?」


Kが何かを守るように、

床に伏せた状態で亡くなっていた。


「…K……!待ってくれ、行かないでくれよ……!!」


俺は目から涙が溢れ出した。


どうせ、小さい頃からうざったらしく、

俺達に話し掛けていただけの幼馴染なのに。


俺はKの下に何か挟まってるのが見えた。

それを、拾い上げた。


それは、ほぼ焦げている写真が出てきた。


「…………家族写真…?」


そう思って、下の書いてあった名前をみた。


そこには、俺含めて他の幼馴染の名前が書いてあった。


「………何やってるんだよ、馬鹿が……!!」


俺はその場に、泣き崩れてしまった。


分かりきっていたことなのに。


いずれ、起こり得た事なのに。


ーーー

やがて、火は消されたみたいだ。


気が付いたら、母さんが目の前に居た。


「…………母さん……俺っ…俺さ………!」


「しっかりなさい!K君は、そんな顔望んでないわよ!」


そう母さんはいつもは見せない、怒った顔をしていた。


「………」

(………あぁ…この先が、怖いよ…母さん……)


俺は、母さんに引っ張られながら家へ帰った。


「母さん……俺さ…」


「弱音は吐くんじゃないよ!

……貴方を非国民なんて、思いたくもないわ!」


母さんは、真っ直ぐ俺を見つめて言った。


でも、その声は震えていた。


「………母さん…」


そうだ、ここでくよくよしてる場合じゃない。


俺は家族の為にも、あいつの為にも立ち止まる事は出来ない。


その時、手元にKが持っていた写真があることに気付いた。


俺は、それを眺めながら、呟いた。


「前に……進まないと…」


俺はそう思いながら、家へ入った。



その後、近所のおばさん達が話していた。


「……ここまで来なくて、良かったわよねぇ!」


「そうよね!凄まじい被害者数だったみたいだものね!」


「………」


そっか。これが、戦争なんだな。


俺は、そう思った。


ーーー

あれからしばらく経った。


Kが、残した写真を眺めている時だった。



ガシャンッ


「もう一回、言ってみろ!!」


「何度でも、言ってやるよ!天皇の言う事を、はいはいと聞いてる国民なんて馬鹿だ!!」


そう、外で騒いでる声が聞こえて慌てて外に出た。


「非国民だ……!」


「なんてこと言うのかしら!?」


大人達は冷たい目で、その子を非難し続けた。


「……!」


俺も言えば、同じになる事が怖かった。


「……」

(俺は……あんな風に、なるなんて嫌だ………!!)


「何度でも言ってやっ……!」


ボカッ


「黙れ!お前なんて、俺の弟じゃない!!

出て行け、ここからさっさと消え失せろ!!」


田中さん宅のお兄さんが声を荒らげて、

何度も殴っていた。


弟は、ただ静かに涙を流していた。


それが痛々しくて、でも外れることが怖くて、

何もしてやる事など出来ずに、周りに合わせて非難するしか無かった。



その後、俺は逃げる様に家に入った。


その後、あの子がどうなったのかは知らない。

聞きたくもないし、知りたくもない。



ーーー

あれから、数日間が経った。

世の中は、1月になっており寒い日々が続いていた。


「明けましておめでとう!!はい、今日の分ね!」


「はい……明けましておめでとうございます!」


「おぉ!早く食べようぜ!!」


「お腹……空いた!」


「うん……食べようか…」


「隆平君、忘れているよ!」


そう声を掛けられて、振り返った。


それは、少し大きめの箱だった。


「幸い、ここは赤子が少ない!

少しでも、未来の種を紡いで行かないとだろ?」


「…………ありがとう、ございます!」


「僕、持ってく〜!」


「落とすなよ……!」


「はぁ〜い!!」


そう言いながら、弟は走って行ってしまった。


「……全く………」


「ぎゃあぎゃあ、うるせぇよな……」


「ただでさえ、多く食料奪ってる穀潰しの癖に……!」


そう、ヒソヒソと聞こえてきた。


「お兄ちゃん……穀潰しって何?」


「………嫉妬って意味だ!気にするな……!」


「………そっか…」


そう言っても、妹は不安そうに下を向いていた。



「ただいま……」


俺はとりあえず、買ってきた食料を台所へ置いた。


「ありがとうね……隆平が居てくれて、良かったわ!」


「……そう」


その後、俺達は少ないご飯を食べて就寝に着いた。


ーーー

夜中、ガサガサと音が立っていていた。

その為、鼠かと思って台所へ向かった。


「…………はぁ」

(この際……鼠も食料に出来ない……よなぁ…)


そして、台所に着くと大きな黒い影が居た。


「……!誰だ、そこに居るの!」


泥棒かと思って、大声で叫んだ。


「わっ!しっー!しっー!」


そこには、妹と弟が居た。


「………?何してるんだ?」


「……お腹、空いちゃって………」


「あれだけじゃ、満足出来ないよ!兄ちゃん!!」


弟達は悲しそうな顔で、そう言ってきた。


「…………そっか…」


俺は、それを聞いて、どうにか出来る方法がないか、

考えることにした。


「………とりあえず、今日は寝よう!

それは、大切な食料だから……食べちゃ駄目だからな!」


「……分かった…これからは、しない!」


「私も、辞める!」


そう言って、2人は寝室へ戻っていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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