終戦と、終戦後の生活
私は少し先の所で、待っていた。
やがて、泣きじゃくっている、あの子を見つけた。
どうしても、行きたくないようで、
立ち止まっている。
「お久しぶりね!」
私は、声を掛けた。
「…八重…姉さん…!!」
そう言ったのは、藍華だった。
「会いたかったわ!」
私は、そう答えた。
「……私もです!」
そう言って、藍華は私に抱き着いた。
「姉さん!姉さんの息子は、素晴らしいわね!
陸も、そんな風に育ってほしいわ!」
そんな事を、言ってきた。
「何を言っているの?」
私は、すぐに反論した。
「え………?」
藍華は、驚いた顔をした。
「陸君は、そうなっているわ!
私は見たのよ、陸君の事をね!
彼は、隆平を支えて、また支えられていたわ!」
そう言うと、
「陸が……!!」
そう言って、嬉しそうにした。
「九条家の時の陸君は、もう居ないわ!
彼は、成長したのよ!この世界の未来によってね!」
「………そうなのね…良かったわ!本当に、良かった!!」
藍華は、そう微笑んだ。
私もまた、微笑み返した。
「懐かしいわね、貴方が近衛だった頃が………」
「そういう、姉さんも、一条でしょ?」
「こうちゃんは、名を捨てたのよ!
今は、高麗よ!高麗 八重よ!」
「そっか………そうだったわね。
それじゃ、近衛家を継がないの?
姉さんは、期待されてたじゃない!!」
「どうかしらね……隆平の方が向いてるから、
お父様は、隆平を選ぶかもしれないわ!」
「………そうなのね…」
「えぇ……」
「……そろそろ、行くわ!」
そう、言った。
「………分かったわ…」
本当は、引き留めたかった。
でも、いけないことだ。
だって、藍華は成し遂げないといけないから。
「さようなら、姉さん!!
今度は、来世で会いましょう!!」
藍華は、小さい頃の優しい笑顔を向けた。
「そうね!」
だから、私も同じ笑顔を向けた。
藍華は、私に手を振って別れた。
私は、藍華が嫁ぐ時と同じ、
悲しそうな顔をしただろう。
でも、藍華はそれを無視した。
もう、仕方が無い事だと分かっているから。
ーーー
その後、母さんから、
藍華さんが亡くなったことを知らされた。
その時に、陸の家庭事情も聞かされた。
「この話は……陸君に伝えるかは、隆平次第よ!」
そう言われた。
だから、俺は黙っていることにした。
陸は、勘が良いから、
もう気付いていると思ったから。
あれから、様々な事があった。
孤児院は、正式に上司の方が、引き継いだ。
俺達は、その裏方で支援やサポートに当たった。
壱助と三太郎の、両親が見つかった。
父は、戦場で戦死したそうだ。
母は、探してる間に、焼夷弾によってやられたみたいだ。
三太郎は、しばらく献身的なケアをしていたら、
なんぼか立ち直る事が出来た。
でも、問題は、壱助だった。
当時から、相当参っていた壱助は、
病気に伏せた。
でも、時は戦後すぐ。
医者を呼んでも、すぐになど来なかった。
段々と、痩せ細っていく、壱助をケアし続けた。
「……同じ所だと、移るぞ………」
そう言われても、黙って、皆で居続けた。
その甲斐があったのか、少しつづだが、回復していった。
俺達は、喜びあった。
それから、名古屋にも一時帰省した。
壱助達も、来たいと言うので、一緒に連れてきた。
その道中、お世話になった人達にも、
挨拶をして回った。
皆は、俺達が生きていたことを、
本人よりも喜んでくれた。
家まで、辿り着いた。
「ここが、家だったのか?」
そこはもう、瓦礫の山で、
何一つ残っていなかった。
そんな家を、眺めている時だった。
「隆平かい?」
おばさんの声が、聞こえた。
そちらを見ると、おばさんが、立っていた。
見た目は、少し痩せていたが、元気そうだった。
「ご無事だったんですね………!」
「勿論だよ!そんなやすやすと、死んでたまるか!」
そう、大笑いした。
俺は安堵した。
その後、おばさんから、
俺達が去った後の名古屋を終戦まで、全て話してくれた。
その話は、やけに重ったらしくて、
真実なのだと、思いたくもない話だった。
その後、おばさんは、
親戚の家で一次的に支援を受けながら、生活するみたいだ。
その為、ここで長らくのお別れとなった。
「手紙は、必ずお送り致します!」
「えぇ、待っているよ!」
そうして、俺達は別れた。
それから、生き残った幼馴染達は、
母方の祖父が、引き取ると言ってくれた為、
先に行かせることにした。
それから、俺達も名古屋に別れを告げた。
その1ヶ月後、9月2日。
第二次世界大戦が正式に終結した。
(日本降伏文書調印によって)
そして、2ヶ月後。
皆で、母さんの実家で暮らしてる時だった。
父さんが、帰ってきた。
「八重ちゃん!」
「……………こうちゃん?」
そう言って、母さんは父さんに抱き着いた。
「恥ずかしいよ、母さん!」
「会いたかった!会いたかったわ!!」
そう泣いていた。
今日ぐらいは、許してやろうと、
奥へ戻った。
やがて、皆とカルタをしてる時だった。
「相変わらず、絵が下手だな………」
「悪いな!!」
そう、Yが言った。
「そうだよ〜!もっと、こう書くべきなんだ〜!」
そう言って、Tが描いた絵はもっと奇怪だった。
その内、父さんに呼ばれた為、
客間へ向かった。
「何でしょうか、父さん……」
「……隆平、俺のハーモニカって何処だ?」
そう聞かれた。
「あぁ……あのガラクタですね……」
「ガラクタとは、失礼だな!あれは、大切な!!」
「はいはい!もう、38521億回は聞きましたよ!」
「いや、267965恒河沙回だ!」
「………そうでしたか…」
(覚えてるかよ………)
そう思いながら、俺はハーモニカを取ってきた。
「これだ!これが、無くてはな!」
そう嬉しそうに、金庫に仕舞っていた。
「……………」
(金庫から、別の金庫に移動しただけ………)
その光景を、黙って見ていた。
「それでだ、隆平!」
「はい…………」
「本題に、入ろうか!」
「何なりと、お申し付け下さい!
嫌なこと以外は、します!」
自信満々に、俺は答えた。
「なら、俺の父様が隆平を……」
「嫌です!前から変わりません!」
「あはは!」
そう言うと、父さんは笑った。
「そう言うと思って、もう断っている!」
「なら、何故聞いたのですか?」
俺は、怒り口調で言った。
「確かに、そうだな!
一条家の名を捨てた、俺達には無関係だ!
でも、あちらも食い下がらないもんでな!」
「つまり、どうしろと?」
「隆平!確か、九条 陸を連れてきたそうだな?」
「……………………」
「それを人質の様な形だ!
彼の家は、跡取りを失って崩落した。
彼を寄越すなら、もう辞めると言っている!」
その時、ガラッと襖が開いた。
「だ、駄目よ!そんな事、聞かなくて良いわ!」
母さんが、俺の裾を掴んだ。
でも俺は、それを振り解いた。
「た、隆平!」
心配そうに、母さんは俺を見つめた。
「大丈夫です、母さん!殺しはしません!!」
(一条家を、滅亡に追いやってやる……!!)
満面の笑みで、日本刀を片手に向かおうとした。
「いや、あのね………!」
「助太刀致すぞ!!」
父さんもノリノリで、竹刀を取り出した。
「いや、こうちゃん!貴方は、過去の恨みからよね!?
今回の件、関係無いでしょ!!」
「なんだ?俺も、するべきか?」
そう言って、お祖父様は、三十年式歩兵銃を取り出した。
「お、お父様!!なんで、持っているの!!」
「倉庫の奥深くに、置いてあったぞ!」
「か、隠したの…見つけちゃったのね………」
(結婚する時に、使われないようにって、
皆で隠したのに………)
「母さん!行ってきます!!」
「い、いや!待って!?」
「八重ちゃん!そんな、心配する事は無いよ!」
「そ、そうじゃないわ………!」
「何が、問題だと言うんだ!八重!」
「………いや、ここ。東京よ?
こうちゃんの実家……奈良じゃない!!
今、奈良に行ってる暇無いわ……!!」
「……!!」
「…何……皆で、驚いた顔してるの!!忘れてたの!?」
「わ、忘れていた………」
「そうじゃった……」
「どうでも良すぎて、忘れていた!」
「こうちゃんは、覚えておきましょうね……!
全く………大騒ぎしないでよね!」
その後、俺達は、
3時間ほど、正座させらた。
「母さん…………足が……」
「うるさい!まだよ!!」
「八重ちゃん、許して!!」
「いいえ、駄目ね!」
「八重……!」
「許さないわ!!」
その結果、その日は一日中、足がしびれたのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。




