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帰宅と、また別れ

その間、俺は逆に皆のこれまでの経緯を聞いた。


「昼間に、流れ星が降ったのかと思った〜!」


目を輝かせながら、Tは言った。


「俺は、終わったと思って、必死に身をかがめた〜!」


笑いながら、Yは語った。


「工場で、作業をしていて何も見てなかったんです!」


不服そうに、Rは答えた。


「丁度、玄関から出ようとした所だったんだ!」


腕をさすりながら、Mは答えた。


「お前達の所は、大丈夫だったのか?」


続けるように、Mが言った。


「少し、崩壊した程度だ!問題無い!!」


俺は、そう答えた。


「おばさんの家、地震来てから怖くて、

頑丈な作りにしたって言ってたものな〜!」


そう、Mは笑った。


「そうだったんですね!」


陸が、聞いた。


「あぁ……おばさん、凄く怖がりだからな!」


そう言うと、陸は納得したみたいで、頷いた。



やがて、ふっ飛ばされた荷車があった。


「おぉ!丁度いい、広さしてるな!」


俺達は、馬を壱助に持たせて、見ていた。


「これなら、改造できそうだ!」


そう言いながら、Mは持っていたバッグから、

様々な道具を出した。


「少し、時間が掛かるから、待っていてくれ!」


そう言われた為、俺達は近くに腰掛けて、

談笑していた。



ーーー

その内、終わったみたいだ。

Mが、声を掛けてきた。


その為、俺達は出発する事になった。



小さな馬は、陸と空が乗って、

それ以外は、簡易的な馬車で帰った。



道中の馬を借りた家に寄った。


「おじさん!」


そう言うと、おじさんは驚いていた。


「本当に、返しに来た………」


どうやら、そのまま馬もろとも消えると思っていたみたいだ。


それほど、非人道的な人間では無いと思いながら、

馬2頭を渡した。


「そうだ………対価を渡さないとな!」


「いや、良い!」


おじさんは、慌てて止めた。


「馬を返してくれただけで、有難い!

それ以外は、何も要らない!!」


おじさんは、俺を真っ直ぐ見て、微笑んだ。


「………そうか。本当に、感謝する!!」


そう言って、俺達は別れた。



それからは、荷車を押しながら、

家まで帰った。



やがて、暗くなった夜。


おばさんの家に辿り着いた。


トントンと、玄関をノックすると、

おばさんはすぐに開けた。


そして、幼馴染達を見て、


「待っていたよ」


と、言ってくれた。


「隆平……本当に、八重ちゃんそっくりだね!」


「……そうですか?」


家に上がろうと、靴を脱いでる時に言われた。


「そうだよ。八重ちゃんもね、猫とかを見捨てられなくて、よく、連れて帰ってきてたんだよ!」


余り知らない、母さんの話をされた。


「…………」

(そういえば、母さんって、余り過去の話しないな………)


そう思いながら、疲れていたからなのか、

すぐに寝てしまった。


そんな、朝とも取れなさそうな、

暗い夜に、目が覚めてしまった。


端っこに、壱助の姿が見えた。


壱助は、外を眺めているようだった。


隣からは、俺の幼馴染達のいびきが聞こえる。


相当、疲れていたのだろうと思った。


「また、眠れないのか?」


そう声を掛けると、

驚いた顔でこちらを見た。


「なんだ………隆平か…」


「俺じゃ、悪いか?」


「いや……お前が、一番落ち着くな!」


「なんだ?俺に、惚れたか?」


そう、冗談で聞いた。


「そうかもしれないな!」


そう返されて、俺はつい固まった。


「ハハッ!!冗談だ!良い冗談だろ?」


壱助は、意地悪く笑った。


「あぁ、アホげた冗談だ!」


俺も、笑い返した。


その後、俺達は日が昇るまで話し続けた。


それはとても、楽しい事だった。



そんな朝。


元気そうに、本を読んでいたRが亡くなった。


原因は、大量出血だった。


俺達と会った頃には、もうヤバい所まで行っていたみたいで、

手の施しようが無かったみたいだ。



次の日、母さんから手紙が届いた。


どうやら、3日前の含めて、様々な影響で、

お祖父様が止めているらしい。


その為、もうしばらくは、

こちらへ来れないという旨の手紙だった。



俺は、それを少しがっかりしながら、

来るのを待ち望んだ。



その後、皆でご飯を食べた。


でも、何も通らなかった。


その後、Rを庭に埋めた。


その顔は、まだ寝ているだけに見えた。


皆は、泣いていた。


でも、俺は涙なんて無かった。


ただの、虚無感だけ残った。



そんな夜、Mは腫れ上がった腕を押さえ込みながら、

苦しそうにもがいている。


「M………しっかりしろ!!

お前まで、駄目なのか……?」


そう、Yは苦しそうに言った。


俺も、どうする事も出来ない自分が、

無力で仕方が無かった。



そんな次の日の朝。


Mは、静かに息を引き取っていた。


俺は、Mの手を握って思った。


人間とは、いとも簡単に亡くなるのだと。



その数日後。


Yの髪の毛が、全て抜け落ちて、

鼻血を出すようになった。


おばさんは、この頃話を聞くものだと言って、

悲しそうに拝んでいた。


医者も、亡くなる場合が多いと、

苦言を呈した。


俺とTはなるべく、Yの近くに寄り添った。


Yが、何度も移ると、

文句を言っていても、居続けた。



やがて、数日後。


Yは、なんぼか歩ける程度には回復した。


それでも、安静にと、医者は心配そうに言った。



その数日後。


8月15日の出来事。


俺達は、ラジオで、玉音放送を聞いた。


日本が、降伏する旨の放送だった。


俺達は、やっと終わった事に安堵の気持ちを浮かべた。



その数日後。


Yが、完全な復活を遂げた。


その日は、皆でお祝いをした。



その2日後。


忙しかった数週間が、過ぎた。


それにより、孤児院に行ける日が来た。


その間は、大分、おばさんにお世話になった。


その御礼をした後に、向かった。



勢い良く、扉を開けた。


皆は、こちらに気付いて、

驚いた後に泣き出した。


「隆平さん………生きてる!!」


「良かった……壱助さんも、ご無事だったんですね!」


そう、皆に歓迎された。


俺達も嬉しくて、抱き締めた。



やがて、孤児院は、

あの二人の上司だった人が、仮で引き継いでくれる事になった。


その人は、優しくて、皆も懐いているようだった。


その為、しばらくの間は任せることにした。



そんな、数週間が過ぎた頃。


目元がキリッとした、凛とした女性が訪ねてきた。


その人は、陸の母親だと名乗った。


「母様………!!」


陸は、俺の裾を掴んで、怯えていた。


陸の反応を見るに、本当の様だ。


俺は、客室に案内して、

陸と陸の母親と俺の三人で話すことにした。


これは、陸の母親からの指定だった。


「始めまして!私は、九条くじょう 藍華あいか

今日は、お話があって参りました!」


そう言われた。


その為、陸のことを迎えに来たのかと思った。


でも、長々と陸の昔話や、好きな物、嫌いな物の話をされた。


その印象は、陸から聞いた人では無かった。


「それでね!陸ったら、ぬいぐるみが好きなのよ!」


「か、母様!!」


「あら?良いじゃない!隠すことでも、無いわ!」


そう言って、また続けた。


そんな話は、1時間以上話していた。


それを見て、俺は気付いた。


無理やり長崎に連れて行ったのも、

冷たい対応をしていたのも、不器用なだけなのだと。



やがて、藍華さんが来てから、

2時間が過ぎた頃。


ピタリと、喋るのを辞めた。


俺は、不思議に思って、藍華さんを見た。


「………隆平様!」


「はい………」


「お母様は、ご健在かしら?」


そう聞かれた。


彼女は九条家で、母さんは近衛家の人間だ。

何かしらの縁があって、知ってるのかと思った。


「…………」

(今は、嫁いだから、母さんは名字が高麗だけどな………)


その為、普通に答えた。


「はい、健在ですよ!」


そうすると、ほのかに微笑んだ。


その笑顔は、大切な姉を労るようだった。


「あらやだ。そろそろ最後のお話を致しましょう!」


そう言った。


「陸………貴方は、亡くなったことにします!」


藍華さんは、急に言った。


陸は、動揺が隠せないようだった。


「もう二度と、うちの敷地を跨ぐことは許しません!」


「そ、そんな………母様!!」


陸は、反論しようとした。


でも、塞がれるように、藍華さんは続けた。


「その代わりです!どうか、どうか……!

その名の通りに、いつまでも続く陸でありなさい!

これは、嘘じゃありません!ずっと思っている事です!」


藍華さんの目には、涙を浮かんでいた。


もう二度と会うことなど出来ない、我が子を想う様に。


愛していた、大切な宝石。


それを、手放す時ほど痛い気持ち。


それは、俺にも理解出来た。


「………隆平様!」


「はい!」


「どうか……陸をお願い致します!!」


そう言って、深々と頭を下げた。


その体は、小柄で華奢だった。

でも、強く、子思いの母親なのだと思った。



その後、陸のお母さんは去って行った。


こちらなど、振り返る事もなく。


振り返ると、きっと泣いてしまうから。


だから、そのまま去ったのだろう。


陸は、悲しそうな顔をしていた。


でも、また強がってる顔をしていた。


「………陸、黙ったままで良いのか?」


俺が、そう言うと、

陸は少し考えた後に、大声を上げた。


「母様!!どうか……どうか、お元気で居てくださいね!」


その声に、少しだけ止まった。


でも、すぐに歩き出した。


それを見て、陸はより一層悲しそうな顔をした。


でも、俺には分かった。


きっと、泣いているのだろう。


でも、涙を見せない為に、

歩き続けたのだろう。


だって、藍華さんは、そんな優しい方だから。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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