続く地獄と、再開
やがて、辺りは暗くなってきた。
それによって、前から燃えていた火が、
昼間よりも赤々しく見えた。
「………ゴホッ……ゴホッ………」
「余り、煙を吸わないようにしろ……!」
そう言って、ちぎった布を渡した。
俺達は、それを口に当てながら、
歩いた。
その間も、唸ってる人、パンパンに腫れ上がってる人。
ダラダラと、血を流してる人と様々な人達を見た。
それでも、幼馴染ぽい人は居なかった。
やがて、何時かも分からない時。
陸と空が、眠そうにしていた。
「………今日は……ここで寝て、明日にするか」
そう提案すると、近くの草むらで寝始めた。
「全く、危機感が無いな!」
そう、壱助は文句を言った。
「馬が盗まれないように、代わり番子で寝よう!」
そう言われた為、俺は頷いた。
「先に、寝てて良い!俺は、また眠れそうに無いからな!」
ほのかに、笑った。
でも、明らかにそれは、
昔のトラウマが戻ってる証拠だった。
「………分かった…」
でも、どうしてやる事も出来ずに、
俺は先に寝た。
ーー
やがて、暗い夜に起こされた。
「よぉ!お前の番だ!」
そう言って、微笑んだ。
でも、壱助は眠る気配等は無かった。
「横に、なってたらどうだ?」
そう言うと、ゆっくり横になった。
「……なぁ、三太郎は元気だろうか……」
壱助が、聞いてきた。
「母さんの実家に居るんだ。手厚い歓迎を受けているだろう!」
俺は、そう答えた。
「良いよな……お前の家は!
幸せそうな家で、羨ましいぜ!」
壱助の顔は、見えなかった。
その顔が、どんな顔をしていたのかなんて分からなかった。
でも、相当悲しかっただろう。
「この先、もっと先。この戦争が、終わったら………
お前の両親を一緒に探そう!!」
俺は、微笑みながら言った。
そうすると、壱助はガバっと起きて、
俺の前に来た。
「無理だ………!分かっているんだ。
戦場へ向かった父は、怖がりなんだ。
この世界で、生きているわけが無い!
逸れた母は、病弱なんだ!
逸れる前から、流行り病でかなり厳しい状況だった。
生きているわけが、無いんだ!」
そう言った。
「生きている!」
でも、俺はそう言った。
「生きていない!!」
「生きている!」
「生きてない!!生きてるわけ、無いんだ!!」
俺の胸ぐらを掴みながら、泣き出した。
そんな涙は、出会った当初以降見なかった。
「………もう、辞めてくれ……!!
生きていない人を、生きていると信じるのは苦しいんだ!」
そう、震えた声で言った。
その手は、俺の服を離そうとはしなかった。
「悪かった………悪かったな!」
俺は、壱助を抱き寄せた。
でも、壱助は泣き止む事は無く、
すすり泣く声だけが辺りに響いた。
ーー
やがて、日が昇った。
俺と壱助は、そんな日をぼっーと眺めていた。
「オハヨウゴザイマス………」
目を擦りながら、空は起きた。
パッチリと、目を開ける。
その顔立ちは、憎き敵の顔であり、
見慣れた友の顔だった。
「壱助さん!顔が、ハレテマス!!ダイジョブですか?」
気付いた空は、指摘した。
「あぁ………大丈夫だ!問題無い!」
そう微笑んだ。
その笑顔は、素敵な笑顔だった。
少しして、陸も起きた。
陸は、もう慣れているように、
テキパキと動いた。
「それでは、行きましょうか!」
陸は、力強く言った。
「そうだな……行くか!」
壱助も、それに答えた。
その為、また歩き出した。
その道中、色んな人達が居た。
「昨日のように、サワガシクないですね!!」
空が言った。
それに、誰も答えようとはしなかった。
どうして、静かなのかを、皆理解していたから。
空は、察したようで、何も言わなくなった。
やがて、町に来た。
町は、もっと悲惨で、
瓦礫で埋め尽くされていた。
「ここは、無いな!」
「道だろうな……逸れないように、歩いて来い!!」
「分かってますよ!!」
俺達は、また歩き続けた。
でも、何処に行こうが、
知ってる顔なんて居なかった。
「……そうだよな。広島だって、大勢居るし、
もう、避難した可能性だってあるものな…………」
そう思って、諦めるために、
馬に乗った。
皆は、残念そうな顔をしていた。
そして、しばらく走らせた。
「それにしても、昨日から、驟雨が酷いな!
一気にびしょ濡れになって、すぐにカラッと乾くな………」
壱助が、暑そうに言った。
「まぁ、それで炎が消えるかと思いましたが、
そんなの事もありませんでしたね!
少々、残念極まりないです………」
二人は、会話をしていた。
「ブレないな……空なんて、頭はてなそうだぞ!」
そう言って、空をちらっと見た。
「そ、そんな事アリマセン!!」
(しゅううとは?ナンナンデショウカ………)
空は、全力で否定していた。
「無理はしなくて良い!どうせ、理解する必要も無い!」
そう言うと、二人はぷくっとした。
「俺、悪い事したか?」
「無自覚なら、良い!!」
「無自覚なら、大丈夫です!!」
二人は、同時に言った。
やがて、草木が生えている所まで来た。
「今まで、本当に焦げ臭い匂いしか無かった………」
「人間からも、マグマが燃えてるようなプスプスとしたものが、ありましたからね!」
「………それは、誰も共感出来ないと思うぞ…」
陸は、何故と言う顔をした。
「誰もな、お前の様な生活してないんだ………。
特に、この2人は、平民だからな?」
「………そうでしたね…!」
そんな陸に呆れながら、休憩をしてる時だった。
「もしかして、隆平か?」
そうYの声が、後ろから聞こえた。
俺は、慌てて後ろに振り向いた。
そこには、皆が居た。
「…………生きていたんだな!良かった…良かった!!」
安心すると、俺は自然と涙が流れた。
「お、おい!大丈夫かよ!!」
皆には、心配させてしまった。
でも、凄く嬉しかった。
だから、当たり前の事だ。
「こっちに来てたんだな!」
Mが、話し掛けてきた。
「驚きました……いつから、居たのですか?」
Rは、驚いていた。
「今年の春頃から、親戚のおばさんの家に来たんだ!」
「あぁ〜、あの呉市の家ね〜!」
Tが、笑って言った。
「隆平……この人達が、幼馴染か?」
壱助が、聞いてきた。
「あぁ……そうだ!」
そう言って、笑った。
「そうか、良かったな!」
そうすると、笑い返してくれた。
「なぁ、隆平!」
「なんだ?」
「あの後ろに居る子って、空だろ?」
Mが、空を見ながら聞いてきた。
「本当だ〜!その子だ〜!!」
Tは、不思議そうに覗き込んだ。
そうすると、空は陸の後ろに隠れた。
「身長差が、合ってないな………」
陸は、5歳で、10歳の空はその何倍も大きい。
隠れれる訳が無い。
「あぁ……ごめんな!怖がらせる気は無かったんだ!
ただ単に、こいつに着いてきたんだなと思っただけだ!」
俺を見ながら、Mが言った。
それを聞いて、ゆっくりこっちに来た。
「僕こと、ナグラナイ……?」
空は、弱々しく言った。
それにRは、頭を撫でた。
「馬鹿を言うのですね!子供とは、宝ですよ!」
「と、子供が言ってる〜!」
そう、Tが言った。
皆は、笑った。
久々に、昔を思い出したようだった。
「そうだ………」
俺は、Kの話をしようと思った。
その為、自分のバックから、Kの写真を取り出した。
その途端、写真はボロボロと崩れ去った。
「……………っ!!」
俺は、Kの最後の形見を失った。
「それって、Kのですよね?」
Rが、聞いてきた。
だから、俺は今までの経緯を全て教えた。
皆は、その間黙って聞いていた。
「そうか………Kはもう既に亡くなって居たのか……」
Mが、悔しそうに言った。
「………ですが、私達もそうなりそうですよね……」
Rが、言った。
それに皆は、黙り込んだ。
その通りだ。
Rは、傷だらけで、
軽めに包帯が巻いてある。
でも、その包帯からは血が滲んでいた。
Mは、腕がパンパンに腫れ上がっていた。
「痛くないのか?」
そう聞いた。
「もう、痛みなど無いな………」
そう、ブンブン振り回した。
陸は、それに引いていた。
Tは、軽症だが、頭を切ったようだ。
Yは、ボロボロだが、見た目は無傷に見えた。
「これから、どうするんだ?」
俺は、皆に聞いた。
皆は、顔を見合わせていった。
「この爆弾によって、家族とも離れ離れなんだ!」
Yは、悔しそうに言った。
「私は、元より工場に勤務する為に来たので、
家族もクソもありませんね!」
Rは、つまらなそうに答えた。
「工場とか、羨ましいよな!
あぁ……俺の家族は、死んでいた!」
そう、Mはケロッと言った。
それが、本当に死への慣れのだと思った。
「僕〜?僕はね………分からない。
必死に、瓦礫からもがいて逃げたから………」
Tは、寂しそうに答えた。
「………お前のおばさんの家は、空いているか?」
Yが、聞いてきた。
「お願いだ………一部屋の狭い所に全員で良いから!」
Mは、土下座してきた。
助けを求めようと、壱助達を見た。
でも、すぐに目を逸らされた。
決定権は、俺にあるみたいだ。
俺は、やはり見捨てられる質ではない。
すぐに、許可を出してしまった。
「自我が、弱い………」
「オツカレ……隆平!!」
空には、煽られてしまった。
そして、少しして俺達は出発した。
おばさんの家に、帰るために。
ご覧いただき、ありがとうございました。




