そして、訪れるもの
八月三日頃。
返事が来た。
急いで、向かうという事が書いてあった。
おばさんは、嬉しそうに微笑んだ。
今日は、4人で孤児院に来た。
陸が、叔父さんのラジオで、
不審な事を聞いたらしい。
その為、多めの食料を届ける為に。
「にしても、暑いよなぁ〜!!」
「8月だからな!」
「ミズ!!水が、ノミタイです!!」
「僕は、アイスが食べたいですよ!」
「なら、俺は、肉だな!」
「何故ですか………」
「ハイ!そうです!!」
そう皆が、口々に言っていた。
「…………文句ばっか垂れてると、父さんにいいつ………って、
俺の妹達じゃ無いんだった!すまん、忘れてくれ!!」
俺は、そう言った。
「そういえば、隆平さんのお父さんってどんな方なんですか?」
そう、陸に聞かれた。
「俺の父親か?」
「はい!知りたいです!!」
「僕は、知っています!!カッコイイ人です!!」
空が、興奮気味に答えた。
「そうか、空。帰ってきたら、本人に言ってやれ。喜ぶ!
陸!馬鹿にしたいなら、他所を当たってくれ!」
そう言う俺に、陸は言った。
「違います!本当に、知りたいんです!」
俺は、返答に困った。
ここで言えるような、人では無いから。
でも、陸のキラキラした目に押されて教える事にした。
「………高麗 光一郎。海軍、中将だ!」
「え………!?」
そう言うと、陸は驚いた顔をした。
「ほ、本当なんですか?」
「本当だ!」
「あの………一条家の子孫なんですか?」
「……そうだ!」
「僕、ずっとそんな凄い人と、旅をしていたんですね!」
陸は、大興奮だった。
「はぁ………これだから、嫌なんだ!」
そう言って、壱助を見た。
壱助は、苦笑していた。
「なら、どうして最初言わなかったんですか!
貴方の方が、位が上だというのに!!」
「陸。俺は、お前がどう育てられたかは、知らない!
だがな、俺には一条家はどうでも良い!
今は、高麗だ!高麗 隆平だ!」
そう言うと、何かを思い出したかのように黙った。
「壱助………ありがとうな!
あの後も、同じく扱ってくれて………」
「良いんだ!お前は、お前だからな!」
「ソラだけ、わかりません!!」
そう、つまらなそうに言った。
「良いんだ、空!何も分からなくて、つまらない事だ!」
頭を撫でながら、壱助が言った。
それに空は、不満そうだったが、頷いた。
その後、俺達は食料を届けて、その場を去った。
ーー
そんな、数日後の出来事だった。
一九四五年。八月六日。
午前、八時十五分だった。
あの人達の言う通り、落ちた。
慌てて、外に出た。
俺は、その光景を身に焼き付けた。
俺が見た、あの日の風景。
それは、強い閃光と、大きなキノコのような雲だった。
その時、悟った。
「………日本は、とっくの昔に負けていたんだ……」
そんな事を。
その時、俺はある事を思い出して、走り出した。
「待て!隆平!!」
それを見て、壱助が呼び止めた。
「………おばさん。数日、僕達は帰って来ない可能性もあります!
ですが、心配しないで下さい!
必ず、帰って参ります!!」
そう、壱助が言った。
俺は、それを見て、おばさんの方を見た。
おばさんは、見つめ返して言った。
「孤児院は、任せなさい!」
「はい!」
そうして、俺達は走り出した。
長い間、走り続けた。
「も、もう……疲れました!!」
息を切らしながら、陸が言った。
俺は、陸を背負って、また走った。
「…………はぁ……はぁ………」
息が苦しくなっても、走った。
1秒でも早く、着きたかったから。
「これなら、荷車を持ってくるべきだった!」
そう、壱助が言った。
「そうだったな……」
俺も、それに返した。
「き、キツイです!!」
ずっと黙っていた、空が口を開いた。
その時、馬が小屋に入ってるのが見えた。
「馬、乗れるか?」
「僕は、無理だ!」
「僕も、ムリデス………」
「いけますよ!」
「……流石だ!」
そして、俺は干し草をいじっていたおじさんに近寄った。
「おじさん!!」
「……な、なんだ?」
「その、少し小さめの馬と、その馬を借りれないか?」
「あの2頭をか?」
「はい!」
そう言うと、少しおじさんは馬と俺達を交互に見た。
しばらく、沈黙が続いた。
「…………駄目か?」
急いでる俺は、待ちきれずに口を開いた。
それにおじさんは、少し口ごもらせた後に、
口を開いた。
「…………分かった…」
そう言って、空を見た。
その先には、崩れかけているきのこ雲があった。
まだ、終わっていない証拠のように。
「ありがとう!」
俺は、すかさずそう言った。
「そう言うからには、馬の経験があるんだよな?」
「あるに決まっている!」
そして、俺はそそくさと馬具をつけた。
そして、乗り込んだ。
「対価は、後で交渉しよう!」
「あ……あぁ…」
信用はしてる感じはない。
でも、貸してくれるには有難い。
そして、俺達は出発した。
陸の所に乗せていた、空は嬉しそうにしていた。
壱助は、少し怖そうにしていた。
「大丈夫か?壱助……」
「だ、大丈夫だ!」
「なら、スピードを上げるぞ!」
そう言って、俺達は吹っ飛ばした。
ーー
9時過ぎ、広島市内に着いた。
そこは、とてつもない地獄と、人々の叫び声だった。
あちらこちらから、煙がもくもくと上がり続け、
辺りは瓦礫に包まれていた。
そんな中を、俺は歩き続けた。
「馬は、離すなよ!」
「分かっています!」
「馬を持つぐらいは、僕がする!
僕の方が、良いだろうからな!」
手を差し出しながら、壱助が言った。
そうして、馬の手綱は壱助が持った。
奥へと歩いて行った。
「それで、隆平さん。どうして、こちらへ来たのですか?」
陸が、急に聞いてきた。
「確かにな、隆平らしくないな……」
壱助も不思議そうにしていた。
「あ………確かに、何も言わずに来たな!」
そう思い返して、俺は答えた。
「俺の幼馴染が、居るんだ!」
「……ここにですか?」
「あぁ……さっき、思い出したんだ!
広島に、疎開すると言っていたことを」
「へぇ、そうだったんですね!」
「あの…オサナジミ、居るデスカ……!」
「そうなんだ!探さないと……」
「なら、生きていて欲しいですね!」
「………そうだな。大切な、親友だからな!」
そして、夕方まで探し回った。
でも、何処に行こうが、
顔がパンパンになってる人や、焦げ臭い匂いしか無かった。
「水………君、水くれないか?
喉が、カラカラなんだ!」
そう言われた。
俺は、あの時の事を思い出した。
「………あっ…いや………!!」
「どうしたんだ、隆平!」
「ソウデス!!ミズ、くらいあげましょう!!」
「駄目だ!!駄目……だ!!」
「らしくナイデス!!」
「…………っ…」
俺は、皆と欲しがっている人を、交互に見た。
でも、決められなかった。
「隆平さん!大丈夫です!」
陸が、俺の手を掴みながら言った。
「……っ!」
「貴方のせいでは、ありません!
誰も責めることは、許されません!!安心して下さい!」
そう、陸は微笑んだ。
それによって、俺は落ち着いた。
目の前の人は、まだ苦しんでいた。
「川なら、そこにあるから、水を入れてこよう!」
そう言って、壱助は水を入れてきた。
それを、その人に飲ませた。
そうすると、
「ありがとう………」
と一言だけ言った。
俺達は、また歩き出した。
ご覧いただき、ありがとうございました。




