空襲の後と、決断
次の日。
俺と壱助は、あの子達の元へ向かった。
扉を開けると、中は凄い事になっていた。
「隆平さん!昨日の空襲で、パニックを起こしてしまって!」
一人の子を見つめた。
その隅には、男の子が俯いて座っていた。
でも、子供の俺達。
どう声を掛ければ良いかなんて、分からない。
「………」
(こんな時、空や陸なら何を言うだろうか?)
そんな考えだけが、頭を過ぎる。
「…せめて、大人が居てくれれば…………」
壱助が、ボソッと言った。
それを、一番年上の子が聞いて、
黙って俯く。
その場は、重い空気に包まれる。
「全く、馬鹿馬鹿しいですね!」
「ソウデス!!そうですよ!」
聞き慣れた声が聞こえた。
それは、陸と空だった。
「ほら、立ってください!!」
陸は、俯いている男の子に言った。
「いや…いくら何でも、言い方が………」
壱助は言葉をどもらせながら、陸を見ていた。
「だから、何ですか?
いつまでも、ウジウジしてるの見てろって言うんですか?
嫌です!!僕は、貴方が立ち上がるまで言います!」
陸は言った。
「オォ……Crazy!!」
すぐに、空がボソッと言った。
「うるさい!!見てからに、裕福そうなお前に何が分かる?
どうせ、家族にも愛されて育ったくせに!!」
顔を上げて、怒鳴った。
それを聞いた陸は、落ち着いて答えた。
「誰が、それを決めましたか?
貴方ですか?それとも、この世の中ですか?
貴方の家庭も、どう生きたかも知りません!
でもそれは、貴方も一緒でしょう?
僕が、どんな気持ちでここに辿り着いたかを知っていますか?
知らないでしょう?」
そう言うと、少し警戒を緩めた。
「………そうだな。何も知らずに、言うのは違うな!」
「はい、そうです!よく見てください!!
ここには、皆様境遇は違っても、同じ世界に居るのです!
隆平さんは、友を失っています!
壱助さんは、母親が行方不明です!
空さんは、自分だけを残して、親は国外逃亡しました!
皆、違っても、皆同じ痛みを持っています!」
「…………僕だけでは、無いもんな!そうだよな!
ごめんなさい!!僕、こんな辛い思いなのって、
誰も分かってくれないと……思って!!」
「ダイジョブ!!ダイジョウブ!!
僕達は、分かる!ね?隆平さん!!」
「え………あぁ、うん…!」
「あはは…ありがとう!!」
彼は泣きながら笑った。
そんな顔は、やっと我が家を見つけた顔だった。
その後、俺達は皆でご飯を食べた。
少ない、必死に集めた雑穀米。
殆ど、味などしない。
でも、皆は嬉しそうに食べていた。
それだけで、満足な気がした。
「誰か、おかわり食べたいか?」
「はい!!隆平さん!!僕が、食べたいです!!」
「僕も!!タベタイです!!」
「お前らは、さっき食ってきたろ!!駄目だ!!」
「えぇ〜!!酷いです!隆平さん!」
「ソウデス!!ソウデス!!」
そんな、会話をした。
皆は、クスクスと楽しそうに笑う。
いつまでも、ここにはそんな笑顔があって欲しいと思った。
それから、しばらく経って、
俺達は家に帰る時間になった。
「また、来るな!」
「はい!楽しみに待っています!」
皆は嬉しそうに、手を振って送ってくれた。
ーー
その夜、母さんに呼ばれて、
俺は母さんが居る部屋に入った。
「何ですか?母さん!」
「………この子も、もう2歳なってしまったのね!」
「………確かに、そうですね……」
「父様と母様から、手紙が来たの!」
「え………」
「今すぐ、家に帰って来なさいと言われたわ!
その為、私は帰ることにします!
さて、隆平!貴方は、どうしたい?」
「……………俺は…」
回答に躊躇っていた。
「そうよね、すぐに出せる答えでは無いわ!
だから、近い内にもう一度聞くわ!
それまでに、決めておいてね!分かった?」
母さんが、言ってくれた。
「……はい!」
その為、俺は返事をして、部屋から出た。
「…………ねぇ、海!」
「……ぁっ…あぅ?」
「この先、もしかしたら、
私の家はなくなるかもしれない。そう言われたわ!
でも、少し嬉しいの!隆平は、近衛家に向いていたからね!
隆平が、受け継がなくて済むわ!
そうだわ!あの人にも、手紙を出しておきましょう!
どう、海!貴方も一緒に、書く?」
「……あっ……かっ!かぁ……おかぁ…!!」
「まぁ!!海……そうよ!私が、貴方のおかぁだよ!
んふふ、これも書いておこうかしら!
きっと、泣いて喜んでくれるわ!!」
私は、いつも以上に筆が進んだ。
こんなに楽しい気持ちで、文を書いたのは、
いつだったかも忘れていたというのに。
ーー
それから、数日が過ぎ去った。
7月7日。
今日は、七夕だった。
おばさんが、何処から調達したのか、
笹を持って帰ってきた。
「ほら、2つ持ってきたから、
あの子達の所へ持っていきなさい!!」
無理矢理、渡してきた。
「こっちは、私が飾っておくよ!だから、任せない!!」
自信満々に言ってた為、
俺達はあの子達の所へ向かった。
「全く、こんな笹持ちながらって、
めちゃくちゃ目立つんだが!!」
「仕方無いだろ……おばさんが持って行けって言うんだから!」
「分かっては、いるさ!」
そう話しながら、歩いていた。
その時、目の前から憲兵が来た。
俺達は慌てて、近くの物陰に隠れた。
周りの大人達も、楽しそうに話していたのに、
静かにして、通り過ぎるのを待っているようだった。
やがて、憲兵は、去って行った。
それを確認して、急いで向かった。
「はぁ……はぁ………!」
「はぁ…はぁ……!!」
息を切らしながら、中へ滑り込むように入った。
「どうしたの?隆平さん!壱助さん!」
皆は、心配した顔で見ていた。
「いや、何でもない!急いで、来たかっただけだ!」
壱助は、答えていた。
「…笹を、持ってきた。
これに、願い事を書いてみてはどうだ?」
そう言うと、少し微笑んで頷いた。
俺達は、それを届けると、
急いで家に帰った。
家に帰ると、もう皆が短冊を飾っていた。
「早いな!!」
壱助が、言った。
「あ!兄ちゃん!!」
「おぉ、なんだ?何を書いたんだ!」
「えへへ!内緒!!」
「そうか、内緒か!」
「うん!」
「義徳と、梨々子は何を書いたんだ?」
「僕はな、父さんの後を継ぐこと!!」
「私は………服屋になる事……」
「そうか……なれると良いな!」
「うん!」
「……うん!」
2人は、ニコッと笑った。
俺も微笑み返した。
その日の夜。
俺は、Kの写真を握ったまま、母さんの元へ行った。
「………母さん…」
「決まったのね……」
「……俺は、ここに残ります!
その時、梨々子と義徳と三太郎と海は連れて行って下さい!
あの4人は、穏やかな本家が似合うでしょうから!」
「…………そう、分かったわ!」
そう言って、母さんはこちらを見た。
その目には、涙が浮かんでいた。
「……隆平。どうか、先に行かないで下さいね!」
「…分かっています!母さん………」
そして、ここには俺、陸、空、壱助が残った。
おばさんも、行くことを拒んだ。
その意志に、どれほどの勇気があったのだろうか。
ご覧いただき、ありがとうございました。




