生活と、続く空襲
やがて、数週間が経った。
人々は、
「呉も本格的に狙われ始めた…………」
「また、来る……また来る!!」
と、嘆いている。
その中で、俺達は町を歩き回っていた。
「この間の事態は、町をよく知らなかったからだ!」
「隆平さん!だとしても、こんな朝早くから行かなくても!」
そう、陸に文句を言われた。
「ソウです!!ダメダメ、無理はダメ!!」
空も、怒った猫のように、
俺を見ながら言った。
「あはは!ちび共は、まだおねむの時間だものな!?」
そう、壱助が笑った。
「そ、そんな訳ないでしょう!!」
「そーです!!ソウデス!!」
そう、2人は猛抗議していた。
「そんな事、あるだろ!!」
そう楽しそうに、壱助は笑っていた。
「余り、からかうなよ!矛先が、こっちに来ても困る!」
「はぁ!?な、なんて事言うんですか!!」
そう、野良犬の様に、足元で陸は喚いた。
「…………悪かったな!」
そう言って、店に入った。
そこは、八百屋だった。
でも、殆ど、品物なんて無かった。
「なんだ、お前達!!ここは、軍人様用だ!
お前らが来ていい場所じゃない!!早く、出ていけ!!」
そう言われて、俺達は追い出された。
「全く!この僕を、追い出すとはいい度胸ですね!」
「…………僕も、キミ…シラナイ!!」
そう、空が言った。
「僕は、華族の!!」
「まぁまぁ!そんな事、後で良いだろ?」
(外で、そんな事、大声で叫ばれてたまるか!!)
そう、壱助が止めた。
「……仕方無いですね!後で、教えましょう!!」
そう、陸は鼻高々に言っていた。
「おぉ……ミステリアス、ヒューマン!!」
俺は、それしか取り柄が無いんだろうなと思った。
その後、空襲の影響なのか、
何処かの家の梅の枝が、折れていた。
俺は、まだ綺麗に咲いている梅の花を見ながら、
それを避けるように、俺達は家に帰った。
家に帰ると、当たり前のように家族や友達が居る。
この当たり前こそが、幸福なのだろう。
俺は、そう思った。
ーーー
その日の夜。
暗幕の隙間から、外を眺めていた。
「星が、綺麗よね………」
母さんの声が聞こえて、振り返った。
「……母さん…」
俺は慌てて、暗幕を直した。
「ねぇ、隆平!
貴方は、どうして……この子に海と付けたか分かる?」
「………それは、戦争に勝ってほしいと言う意味で…………」
「違うわ!この子の名前の意味は、
命が始まる場所、母性、生命よ!
それはきっと、家にいる空君や陸君もそうだと思うの!」
「………そんな事、分かるわけ……」
「分かるわ!だって、母親だもの!
子供にはね、必ず生きていて欲しいものよ!
だから、きっと2人の名前の意味は、
空君が、自由・希望・平和。
陸君が、大地、生きることそのものだと思ったの!
戦争に左右された、悲しき意味なんて思わないわ!
平和な未来を、絵描いて欲しいという意味だと思うわ!」
「…………」
(昔、陸が言っていた事と同じ…………?
そんな全て、同じ名前の意味が出てくるか?)
「そしてね、隆平!」
「はい……!」
「貴方の名前の意味は、
高く高貴に、そして穏やかで平和な人生を歩んでほしい。
貴方は、戦争の事を後世に伝えなさい!
いずれ、この国は降伏するでしょう!」
「…かあっ!!」
「黙りなさい!」
「……っ!!」
「貴方は、何も言ってはいけないわ!
この問題は、大人の問題よ!
だから、貴方は、子供らしく生きなさい!
分かったわね?」
「………はい!」
俺は、自室に戻った。
皆は、ぐっすり眠っていた。
でも、いつ空襲が来ても良いように、
私服だった。
それが凄く、虚しくなった。
俺は、布団に潜った。
そして、眠りに着いた。
その日は、懐かしい夢を見た。
父さんも、母さんも居る。
俺の小さい頃の夢だった。
ーーー
あれから、月日は経った。
時は、7月1日。
あっという間に、夏になった。
「あち〜!!」
壱助が、寝転がっていた。
「だらしないぞ!」
そう言うと、すぐに体勢を直した。
「なぁ、カルタ作りしないか?」
壱助が、急に提案してきた。
「どうしてだ?」
「だって、暇だろ?」
「…………まぁ…」
「外では、遊べないからな!」
「そうだな!」
おばさんが、外では遊ばないようにと、止めている。
「なぁ……隆平!」
「なんだ?」
「学校って、通ってたのか?」
「学校…?まぁ、通ってたぞ!」
「良いな!僕達は、通ってなかったんだ!」
「……そうなんだな」
「あぁ…家に、金なんて無かったからな!
でもな、厚かましいかもだけど、
お前と一緒なら、通える気がするんだ!」
そう笑った。
そんな顔は、初めて見る表情だった。
「僕は、お前の兄弟だったら、どんなに良かったか!
それだけじゃない、台所に居るあいつら共だ!」
「…………そうか…」
「と言っても、お前は迷惑だよな!
ごめんな、急にこんな話!!」
そう言って、カルタ作りを再開した。
俺は、そんな姿を黙って見ていた。
ーーー
やがて、義徳に呼ばれて、
俺達はリビングに向かった。
そこには、皆が集まっていた。
皆は楽しそうに、笑い合っている。
「あ!隆平さん!遅かったですね!!
僕は、早く食べたいんですよ!!」
「お兄ちゃん……あのね!!
三太郎君がね、これくれたの!」
そう言って、少し大きめの熊のぬいぐるみを差し出した。
「三太郎!良いのか?お気に入りの物だったろ?」
「良いの!梨々子ちゃんが、嬉しそうだから!!」
「…………へぇ、そうか!」
壱助は、ニマニマしていた。
「お兄さん、顔がオカシイです!!」
空が、純粋な顔で言った。
そうすると、壱助は顔を真っ赤にしながら、俯いた。
俺は、それが面白くて、笑った。
壱助は、小さくブツブツ言いながら、席に座った。
その後、俺達は作ったカルタで遊んだ。
皆は、楽しそうにしていた。
俺はそれを見て、幼馴染を思い出した。
幼馴染達は、今何をしているのだろうか。
そもそも、生きているのだろうか。
Kの様に、もう居ないのだろうか。
「兄ちゃん?どうしたの?」
そう、義徳は心配そうに見ていた。
「あ、いや………何でもない!」
「ふ〜ん……そっか〜!!」
それから、俺達は10時過ぎまで遊んで、
母さんとおばさんに怒られた。
そんな、幸せな1日で終わるはずだった。
深夜。
空襲警報で、誰もが目を覚ました。
母さんは、慌てて俺達の所に来た。
「早く、行くよ!!」
そう言われて、外に出た。
外では、人々が逃げ回っている。
その中を、逸れないように、
皆で走った。
やがて、防空壕に着いた。
振り返ってみると、俺達が居た所らへんからも、
多く火が昇っていた。
そんな焼けていく、工場、港湾、住宅地を見ていた。
「早くしろ!!熱風にやられるぞ!」
そう言われて、奥の方へ入った。
それから、しばらく経った。
相変わらず、激しい攻撃が続いた。
その間、俺はバックを抱き締めた。
その中には、大切な皆の思い出と、Kの写真があったから。
海は、泣き出して、皆は怯えている。
「黙らせろ!」
そう急かされても、母さんは穏やかな顔をして、
海をあやしていた。
やがて、静かになった。
だから、俺達は外に出た。
外は、焦げ臭い煙と、赤い炎だけ残してあった。
そんな中を、一つ一つ噛み締めて歩いた。
自分自身を、歴史の一つにするように。
ご覧いただき、ありがとうございました。




