行きましょう。
チャコル伯爵から詳しく話を聞こうと部屋に迎え入れるも、チャコル伯爵の顔は先程の僕の一撃を見て青褪めている。
あぁぁ〜…、カッとなって初手を失敗してしまった。癇癪持ちの乱暴者と思われちゃったかなぁ…。
「先ほどはすみませんでした。あまりに酷い発言に我慢できませんでした。」
素直に頭を下げる。
「いえ、私や私の家族の為に怒って下さったのですよね。感謝致します。」
伯爵も頭を下げる。
いえいえ、私こそ。いえいえ、私こそ…、を繰り返しているとシロガネが呆れて、
「もういい〜?早く話しようよ〜。」
そうだよね…。反省…。
「では伯爵、先ほどのお話をもう一度お願いします。急にとの事ですがいつの話ですか?瘴気の広がるまでの時間と広まった範囲を教えて下さい。
また、地形や何処から始まったのかも。」
「ありがとうございます。3か月前の話です。領民の1人から最近魔獣の出現率が高くなってきたと報告を受けました。その時は自警団を派遣し、見回りを強化致しました。すると、ある地域の魔獣出現率が突出して高い事が分かりました。しかしその時はまだ何処からか魔獣が流れてきたのかと。
その1か月後、そこの土地に住む領民が近くの村に逃げ込んできたと報告を受けました。突如黒いモヤが村を呑み込むように流れてきたと。その際、逃げ遅れた者はモヤに取り込まれ息絶えたと。
そこから徐々に黒いモヤは広がり続け、今や他領に逃げる者、領主館のある近くの教会に身を寄せる者、様々ですが多くの民が土地を追われたのです。
勿論、国に助けを求めましたが賢者の派遣はもう少しかかるからそれまで凌いで欲しいと言われしまい、もう…どうしたら良いか…。領民を置いて私だけ逃げるわけにはいかず、しかし…、私には何も出来ない!」
伯爵は涙を流し苦悩を口にする。
「分かりました。でもすみません、伯爵。
僕の扱いは陛下に任せているので、勝手に動くわけにはいかないのです。」
伯爵は苦悶の表情で僕を見る。
「だから、今から陛下に訴えに行きましょう。」
僕は立ち上がり伯爵に手を差し出す。
「え?…え…?」
「早く行こうよ〜。ほら、立って〜!」
シロガネに急かされ伯爵は立ち上がる。
「伯爵、お手をよろしいですか?」
僕は伯爵の手をそっと取って、サンガリア公爵邸に転移する。
「は?…は…?え…?」
伯爵の混乱が止まらない。落ち着くまで待つ間に、
「アル様、お帰りなさいませ。そちらは?」
ジルが顔を出してくれる。僕はロバート様と陛下に会いたい旨を伝えると、ジルがテキパキと動き出した。さて、ジルが動いてくれたならもう大丈夫だろう。
「伯爵、座って待ちましょう。」
「け…賢者様…、これはいったい…?」
「説明せずに連れてきてしまいすみませんでした。ここはオルガナイト王国のサンガリア公爵邸です。魔法でこちらに転移して来ました。
今、ここの主のサンガリア公爵が来て下さるでしょう。その後、陛下への面会を取り付けて貰います。陛下へ説明してから伯爵の領地へ行きましょう。」
伯爵は呆然としていたが、顔を両手で覆い肩を震わせ、「ありがとう。ありがとう。」と、繰り返す。
ジルが来て、そっと僕と伯爵にお茶を出してくれる。
その後、チャコル伯爵が落ち着きを取り戻した頃
「アル君!どうしたのだ?!」
ロバート様が来て下さった。
僕とチャコル伯爵が先程の話をすると、ロバート様はすぐに登城の準備を始めて下さる。
そこへ突如パタパタと何がが走る音が聞こえると僕達のいる部屋の扉が開き、聖獣の仔達がわらわらと入って来た。
「何かあったんでしょう〜?」
「僕達も行きたい〜!」
「ねぇ~、アル、いいでしょう?僕達も連れて行ってよぉ……。」
何処で聞いたのか仔達もチャコル伯爵領へ行きたいと言い出した。
「ダメだよ。瘴気が湧き出て大変な事になってるらしいよ。そこに君達を連れて行く訳にはいかないよ。危ないんだよ。」
仔達からぶぅぶうと文句を言われる。
「シロガネとヤモも行くのにぃ…?」
「僕達だって行きたいのにぃ…?ずるい〜…。」
うぅん…、その通りだよね…。
チャコル伯爵は僕達の一連の騒ぎを目を丸くして見ていた。
「あ…、あの…、賢者様。あの…、この仔達は一体?」
チャコル伯爵に聖獣の仔達の紹介をすると、
「さすが賢者様ですねぇ。」
と、感心された。えへ。
「ライデンに来てもらえば良いよね!僕達ライデンと一緒にいれば安心でしょう?だから行って一緒にもいい?」
「ライデンが良いよって言ったらね。」
諦めない仔達に僕が諦めた…。
「じゃあ、聞いてくるまで待っててよ!!
先に行っちゃダメだからね!!」
仔達がわらぁ〜っと部屋から走り去った。
「すみません、チャコル伯爵。勝手に色々決めてしまって。僕はあの仔達を待ってからお城へと転移しますので先にロバート様と向かっていて下さい。
ロバート様、チャコル伯爵と領地の件、よろしくお願いします。」
ゆっくりしている間にもチャコル領は瘴気に侵されていくからね。時間の猶予は無いのだ。
「さぁ、行きましょう!伯爵、私も領地領民を持つ身。貴方のお気持ちは痛いほどよく分かります。」
ロバート様ぎチャコル伯爵と共にお城へと転移し、僕はジルと共に聖獣の仔達が戻って来るのを待った。
まだかなぁ……。




