その頃、他の方々は ④
ある国王陛下の葛藤
わが国の宝、賢者と呼ばれる少年は規格外の人物だ。
前回賢者、もしくは聖女が現れたと言われているのが今から300年前。その時既に瘴気が世界中に蔓延しだしそれぞれの国が危機感を持っていた頃だ。と言っても今ほど切迫した状況ではなかった為伝記が残っている程度だ。
なので前賢者がどのような偉業を成したかは詳しくは分からない。しかし今代の賢者の偉業とスキルのユニークさと本人の能力の高さは桁違いではないかと思われる。
サンガリア公爵から紹介されて初めて賢者と会ってから私と宰相は忙しく次々と新たな案件が舞い込み嬉しい悲鳴をあげている。いや…、正直たまにキレそうになる時もある。
何それ?!…またぁ?!…今度は何したの?!って具合に…。
聖獣保護に精霊術の使い手の育成保護に浄化の花の流通取り扱いの取り決め。しかもこの国の事だけではなく、国家間でだ。
たった数ヶ月前まで長くこの国をこの世界を覆っていた闇が取り払われていく。
それをあっけらかんと笑いながら私に丸投げしてくるのだがちょっと待って欲しい…。こちらはもうアップアップだ…。
しかし…、私は素直で邪気がなくこの一国の王である私ですら近所のおじさんのように接するあの子が可愛くて仕方がない。
各国から賢者の派遣要請が来ている。それぞれの国でも瘴気による被害が甚大だ。
私は賢者の生まれ育った国の王として賢者への扱いを各国の王へと通達したが、各国賢者を待ちわびている。それぞれの国の狸たちや狐たちが手ぐすねを引いて賢者を待っている。
素直な子だからこそ今後良いように使われないか、言質を取られて奴隷のような扱いをされないかと心配でならない。
誰か付き人としてあの子について行ってくれないだろうか…。
あぁ…、あの子の行く先を考えると胃がキリキリする…。
ある犯罪者の怒り
私はついこの間まで公爵令嬢として次期当主として皆に愛され敬われ大事にされてきた。わがままも言わず次期当主として研鑽に励み周りの皆にも優しく接し、そんな私を皆が愛した。
それを1人の男が壊した。あの男が全てを奪った。令嬢としての尊厳も次期当主の立場も愛する人も。
愛する人と一緒になれるよう私は少し情報を歪ませただけ。私が輝けるように少し悪役になってもらおうとしただけ。それだけの事で私は全てを失いここに居る。
あの人には騙したのかと軽蔑され、お父様には失望され、お母様には見放され、妹には怒りを向けられた。
何よっ!好き人を手に入れる為にほんの少しの嘘なんて皆やってるじゃない!次期当主として必要な犠牲じゃない!
あいつが思い通りに動かないからこんな事になったのよ!私は悪くない!誰か助けなさいよ!!
……私は死にたくない……!
ある次期当主に成らざる得なかった少女の怒り
私のお姉様は本当にどうしようもない傲慢で我儘で手の施しようのないお馬鹿さんだ。
本人はよく我儘も言わない慈悲深い云々言っているが私から言わせれば頭おかしいんじゃないかレベルで我儘だ。一部それを信じるお馬鹿さんもいたが少し一緒にいればすぐ分かる。
自分の為に人が犠牲になっても何とも思わない傲慢な女、それが私の姉だ。
そんな姉が賢者を怒らせた。あの時の圧倒的な力と魔力が忘れられない。あんな力の持ち主を敵に回そうとしていたのだ。しかも公爵家として…。
アル様は公爵家には咎はないと…、姉上のみに責任を問うて下さった。本来ならば世界の救世主を害そうとしたとして公爵家等即刻お取り潰しになってもおかしくはなかった。
それでも私達アテンザ公爵家はもう他の公爵家のようには賢者と良い関係を築く事は出来ないだろう。
あのバカが…、あのバカさえ居なければ…!
あのバカがあんなバカな事さえしなければ…!
そのせいで私は急遽次期当主となった。愛する人とも別れた。私はこれから瘴気の森を管理するに相応しい旦那様を見つけなければならない。優しく私を色々気遣ってくれる方だった。剣よりも花を私に捧げてくれた方だった。
私の幸せな少女時代は終わったのだ…。
ある仔ヤモリの好意
僕はアルが大好き。優しいし美味しいお菓子くれるしイタズラしても怒らないしいつも一緒に居てくれる。
僕は聖獣として生まれた。お父さんお母さんは覚えていない。ライデンから安全な所は仔達に譲って大人の聖獣達は皆散り散りになったと聞いた。寂しがる仔もいたけど僕は両親を覚えてないしライデンもいるから寂しくない。
でも少しずつライデンがイライラしたり具合悪そうにしている事が増えてきた。
そんなある日ライデンが姿を消した。皆不安がってたけど僕は何となく大丈夫じゃないかなぁ…って思ってた。世界樹さんに今この世界には賢者がいるって聞いたから。
賢者って何か分からないけどすごい事が出来る人のことらしい。
どんな人なのかなぁ…。
優しいのかなぁ。
怖かったりして…。
とか色々想像してたけど実際会ってみたら優しい男の子だった。僕達の嫌がる事をしないし、美味しいお菓子をくれるから皆すぐアルの事を大好きになったよ。ずっとアルと一緒にいれたらいいなぁ…。
アルが頑張ってくれたから大人の聖獣達が戻って来た。でも僕の親は戻ってこない…。皆親に甘えてたけど僕は誰に甘えたらいんだろう…。
そうだ!アルがいるじゃないか!
その日から僕はずっとアルといる。アルは嫌がらず僕とずっといてくれる。
もうアルが親でいいんじゃないかなぁ…?




