世界は甘くない
グロくはありませんがら生き物が死ぬ描写があります。
「バトじい?おはよう〜。今日は大丈夫…?」
「アル坊、おはようございます。大丈夫ですぞ。
アル坊のシップとポーションが効いたようです。
いや…本当に…。
アル坊には、薬師の才があるかも知れませんぞ。」
嬉しい!
でも、確かに僕の属性には光もあったなぁ…。
「今日は一緒に種まきをしますぞ。」
…あー… 実は昨日帰りに畑を直そうと思ったんだけど、カーを隠す方法を考えてて、すっかり忘れてたんだよね…。
バトじいの小屋に来る前に、畑を見に行ったら、朝の光の中で見ると、うねうねがが思っていたより、うねうねだった…
「あ〜…バトじいゴメンね。
実は、昨日耕した畑が思ったよりキレイに出来なかったの……ごめんなさい…。」
しょんぼり…。
「良いのです。最初からキレイに完璧に出来る人などおらんのですから。
では、アル坊の初仕事を見に行きますか!」
畑に行き、うねうねの前に2人で立つ。
うぅ…。やっぱり、不格好だ…。
「そうですなぁ…。初めてにしては上出来ですぞ。
では、アル坊。畑を作るコツをお教えましょう。」
バトじいから、畑を作る土魔法を教わった。
もっと深く、土をまぜまぜするんだって。
畝がうねうねなのは、慣れ。
野菜の種類によって畝の高さを変えたりするんだって…。
奥が深いねぇ…。
バトじいは、さすが!!
僕のイメージトレーニングの様に、ふわぁっと畑を作っていったよ。
さすが、バトじい!
僕も頑張らなきゃ!
バトじいに、昨日のカーを隠す方法が見つかったことを話した。
森の中に隠したい事を話すと、人が滅多に来ないポイントがあるから後で、そこに案内してくれることになった。
たた、1人では行かない事、必ず、ジルかバトじいと一緒に行く事を約束させられた。
やったぁ!さっそく行ってみたい!!
屋敷の浄化?それは夜にやろう…。
森の方が貯まりそうな気がするんだよね。
朝ごはんの後、ジルにも説明して、ジルとバトじい、僕の3人で行ってみることになった。
思ったより遠かった…。
本邸の人間よここまでは流石に来ないだろう…って位、遠かった…。
森の中の空気が重く、陽の光も入らないからか、薄暗い…。
何か…怖い…。
カーを出してみる。
中に入り、黒い板を出して、内包魔力と貯蓄額を見ると、どんどん貯まっていく。
嬉しいけど、逆に恐ろしい…。
ここ、どんだけ瘴気が溜まっているの…?
たまに、魔獣が出たりもするらしい…。
ひゃぁぁ… 隠蔽も必要だけど、結界も早く装備した方がいいかもしれない…。
出しっぱなしにして、いったん屋敷に帰ることにして、夕方、回収に来ることにした。
大丈夫かなぁ…。魔獣にボコボコにされちゃわないかなぁ…。
後ろ髪を引かれながら、来た道を戻っていると、いきなりジルに抱きかかえられた!
バトじいもジルも怖い顔で同じ方角を見ている。
嫌な予感がする。
空気がビリビリする。
バトじいが腰にあった剣を構えた。
ジルが何かをモゴモゴと小さく言うと、僕を抱えたジルの周りが淡く光った。
繁みからいきなり黒い塊が飛んできて、バトじいはそれを剣で振り払った!!
「ブラックウルフですか。」
ジルが冷静に言っているが、僕は頭が真っ白になり、ジルの首に手を回し、ジルの服をぎゅっと掴んだ。
バトじいが再び飛びかかってきましたブラックウルフを躱すと、剣を振り下ろす。
ブラックウルフの首から黒い血?がバァッと飛び散り、地面に倒れる。
まだ生きているのか、ブラックウルフは立ち上がろうとするけど、立てないようだ。
バトじいがブラックウルフの胸の辺りに剣を突き立てると、ブラックウルフは動かなくなった。
僕はそれを見ているだけだった。
「こんな所まで魔獣が来ていたのですね。
それにしても、腕が落ちていないようですね。」
「あぁ…。魔獣除けの薬草が枯れちまったのかも知れん…。後で見回ってみるよ。
アル坊。大丈夫ですかい?
怖かったでしょう。」
「アル様。もう大丈夫ですよ。」
2人が声を掛けてくれるが、僕は返事も出来ないし、体も動かない。
「アル様?」
ジルが僕の背中に手を回す。背中が少しづつ温かくなってくると、僕はカタカタ震えてきた。
何か話そうとするが、声が出ない。
ジルは急いで僕を屋敷に連れ帰ってくれた。
ルイが温かいミルクを出してくれたが、僕の手はジルの服から離れない…。
手を離そうとするが、手が固まったかのように動かない。
ジルが僕を抱きしめてくれて、大丈夫、と何度も言われてるうちに、少しづつ手が動くようになってきた。
温かいミルクを飲むと、少し落ち着いてきた。
ジルから今日は屋敷から出ずに、ゆっくり休むように言われた僕は、いつの間にか、眠っていたようだ…。
体が熱くて目が覚めると、すっかり夜になったようで、あたりが暗い。
喉が渇いて、水を飲もうとするが、体が重い。
ルイが気が付いて水を飲ませてくれたが、僕の意識はまたすぐに、闇に呑まれた。
その後、再び目を覚ましたのは、だいぶ日が高くなってからだった。
ルイが気が付いて水を飲ませてくれて、ジルを呼んできてくれた。
僕は初めて魔獣との戦いを見て熱を出したそうだ…。
あれから3日経っていた。
ジルは反省し、見せるべきではなかったと謝られた。
ルイからも、怒られたらしい…。
まだぽやぽやする頭であれは必要な事なのだと分かった。
僕はここを出たら、ああいう事もするんだと。
僕は魔獣も怖かったし、戦いも、バトじいがケガをするのも怖かった。
けど、僕が1番怖かったのは、魔獣が死ぬ時だ。
僕もああやって、少しずつ動けなくなって、死んだのだ。
あの時の苦しさが思い出されて、ただ、ひたすらに怖かった…。
ジルも、バトじいも、僕も、少し間違えればああなっていた。
僕は再び、死ぬかもしれないんだ。
急に世界が怖くなった。