ジルは渡しませんが何か?
アガールの森の深部の瘴気の濃さを目の当たりにしたスティーブ様はさすが公爵様、筋骨隆々の体に相応しい覇気を纏い、森の管理者として立っておられる。
僕は心の中で“きっとスティーブ様の危機感は増したからこれから先大変だろうなぁ”と、マリア嬢と騎士団の方々へエールを送りながら、
「スティーブ様、魔獣討伐をさせて頂いてもよろしいですか?」
スティーブ様は少しびっくりした顔をして、
「いや…、それは良いが危なくないかい?」
「実はカーの周囲には結界が張ってますから中から攻撃する分にはケガの心配はないのですよ。」
スティーブ様は目を輝かせ、
「ならば私も一緒にやっても良いかい?深部の魔獣がどれ程の力を持っているのか知っておかねばならんからね。」
と言うことでいつもの様に皆で魔獣討伐。
ギルはいつもの様に風の魔法で魔獣を倒していく。
僕はいつも圧縮した炎を飛ばして倒しているんどけどこの前世界樹さんから森で火を使うなと怒られたので圧縮した水を使おうと練習する。
水を刃のようにしてスパッとするか、水を顔に纏わり付かせて窒息死を狙うか。どちらが効率が良いのかを見極めながら討伐していく。
ふと視線を感じると皆さんがこちらを見ている。
「??どうしました?」
「兄上、いつもと違いますがどうしたのですか?
珍しいですね。水魔法ですか?」
「うん。この前森で炎を使うなと怒られちゃったから水魔法で効率良く倒せるか検証中。」
ギルと話をしているとスティーブ様が、
「はぁ〜…、アル君本当に凄いね。勿論ギル君も。その年でこれだけの威力のある魔法を使えて魔獣討伐が出来るなんて…。娘のやらかしがなければ本当にアテンザ公爵家へお婿さんに来て欲しい位だよ。」
えへ。褒められた。
僕はニコッと笑い、
「ジルが僕を鍛えてくれたんです。ジルは僕にとって大切な家族ですからジルが褒められたようで嬉しいですね。」
ジルは僕の大切な家族アピールをする。
貴方にはあげないからね!
「ははぁ…!やはりジル殿は凄いですなぁ!私も昔ジル殿に鍛えられましてここまで強くなれたのですよ。」
なに…?そちらもジルマウント取るつもり?
負けませんが?!
そんな僕のマウントの取り合いをギルもロバート様も優しい目で見てくれていた…。
周りの空気に気付き、…恥ずかしい…。子供みたいな事やっちゃった。
反省…。でもジルは渡さないから!!
ある程度皆さんで魔獣討伐をやり終え、一休み。
皆さんが討伐した魔獣は別荘の資金に充てるため有り難く頂戴した。
よしよし。またちょっとずつ貯めていくぞ!お金はあれば有るほど良いからね!
「皆様方、そろそろお食事を致しませんか?」
ジルが声をかけてくれる。
「せっかくなので今日は我が主人の能力の1つである異世界の料理をご堪能頂きます。」
そう。これは事前にジルから打診されてたんだ。今回の食事はポチろうって…。
ジルがわざわざ言うって事は何か考えがあるのだろう。ジルが僕に不利になる事をさせる訳がないので了承した。
「こちら料理のメニューとなります。」
ジルが皆さんにメニュー表を配る。
「皆さん、異世界の料理は想像がつかないでしょうが、ここにある料理は全て僕が事前に試したお勧めの料理です。食べたい物を言って頂ければすぐにご用意致します。」
ロバート様が戸惑いながら、
「異世界の料理?アル君はそんな物まで出せるのかい?」
僕はニコッと微笑む。
「では私はこのカツ丼とやらをお願いしよう。」
スティーブ様は、
「では私はこのカレーとやらを。」
ギルは、
「兄上、僕はこのあんかけ焼きそばを食べてみたいです。」
お任せあれ!!
すぐにポチると目の前に作りたてがドンドンと現れる。
「!!!」
びっくりしている皆さんの前に頼んだ料理を置いていく。
さぁ、召し上がれ〜!!
物珍しく美味しさもあったのだろう。お代わりを頼まれその都度ポチる。
後に残ったのはソファに仰向けに転がった死屍累々とした大人達だ。
分かる〜…!僕もああなったもん…。ちょっとでも動こうものなら出ちゃうまで詰め込んだ結果だ。
ジルが黒い笑顔で、
「我が主人の能力の高さと稀有さをご理解出来たなら、もう二度と!決して!我が主人を利用されよう等とは思わないで下さいませね。皆様方だけでなく、ご家族やご親戚、臣下にまで徹底した配慮を求めます。もしも、再び我が主人へ不利益をもたらす時にはもう二度と異世界料理は口に出来ないとお思い下さいませ。」
ロバート様とスティーブ様の顔色が変わる。
「そ…そんな…!これがもう食べれないだと?!」
「そ…そんな事言わないでおくれ…。こんな美味しい料理が食べれなくなるかもしれないなんて…。もう二度と娘には失礼はさせないときつく教育しておくから…!」
最後までジルの笑顔は黒かった。




