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その頃、他の方々は…。②


〈あるギルドのマスターの憂鬱〉


 俺の最近の悩みは1人の若い冒険者だ。

悩みとは言うが、素行不良のような粋がった馬鹿ではない。良い子だ。とても良い子なんだ。素直だし、礼儀正しいし、真面目だ。


しかし、ズレている。一般的な枠に収まらなくて、どう扱っていいか正直悩む。

 登録当初は目立った事件も無かった為、俺の耳には入らなかったが、高ランク魔獣を卸に来た時からあの子の異様さが目に入るようになった。


 まだDランクなのに高ランク魔獣を討伐する事や、この国のトップや高位貴族でも持つ事が難しい収納袋をひょいひょい持ち歩いている事を注意してもキョトンとしていやがる。


そして、あれ…、貴族では?しかも高位の…。


本人は隠しているようだが所作に品があり、言葉遣いも平民とは違う。

しかもあいつの執事とか言う奴がまた、えらく怖い。ものすごい圧を俺にかけてくる。

俺があいつをうっかり泣かせた時は、俺が泣くかと思った。


 先日、あいつに絡んだ男爵家の三女が居たんだが、何処から話を聞きつけたのか、あいつの執事がわざわざ俺に挨拶に来やがった。


俺やギルドの対応の甘さを指摘され、ねちねち嫌味を言われ、もう、吐くかと思った。



優秀で可愛い冒険者。俺はあいつをどう扱えば良いのだろう…。



〈あるギルド員の失態〉


 やってしまった。


 私はシナル男爵家の三女。あとを継ぐものもなく、結婚も好きにして良いとやや放任気味に育てられた。


 兄が男爵家を継ぎ結婚し、後継ぎも産まれた為、このまま家に居座るわけにいかず、私は冒険者ギルドに就職した。

野蛮な冒険者や教養のない平民に接する事になるなんて、と思ったが意外と悪くない。


私が男爵家の者だと分かると皆が私に気を使う。

冒険者だって、可愛くて若い私が対応すれば鼻の下を伸ばして私の言う通りに動く。

イライラした時は大人しそうな冒険者にあたれば、泣きそうになりながらも逆らってこない。


そうしてチヤホヤされ、たまにスッキリして日々を楽しく過ごしていた。


あの時までは…。


 ある日若い冒険者を見つけた。大人しそうな黒髪の男の子。今度はあの子をターゲットにした。


皆の前で大声で盗人だと責め立てた。

さあ、泣け!!


 あれが間違いだった。

あの子は貴族だったのだろう。おそらく私が太刀打ち出来ない程に高位の。

家を潰すと言われた。みっともない、私のせいだと…。


 第一印象では大人しそうな子だったが、急に冷たい威圧感を纏い、感情の見えない微笑みを浮かべ高位貴族の様に慇懃に振る舞う。

部屋の温度が急に下がったかのようだ。

震えが止まらない。


怖かった。殺されるのではないかと思った。



結局私は厳しい職員に教育と言う名の監視を受け、体を酷使する裏方に回された。


もう辞めたいが父にシナル男爵家との縁を切られてしまった。

私がある方の不況を買ったのだと。庇い立てて巻き添えを喰らいたくないと。

働かなければ生きていけない。

いつの間にか私をチヤホヤしてた冒険者もいなくなった。


 このまま私は辛い毎日を続けるのだろうか。

どこで間違ったのだろう…。

あの子に絡んだ時から?もっと前?


 やはりあの子は高位貴族だったのだろう…。



〈あるAランク冒険者の葛藤〉 


 噂で面白い子を見つけた。

黒髪黒目の端正な顔をした大人しそうな子。

でも噂ではギルドの規則を無視する傍若無人で生意気な子だと言う。


 ある日、その子が従魔らしき毛玉を連れてギルドにやって来た。

うちのパーティーメンバーに1人もふもふ好きの奴がいる。そいつが、もふもふしたかったのだろう。噂の子に声をかけ、まんまと警戒された。


俺はここぞとばかりに助けに入る。

どんな子か興味がある。少しの間行動を共にしてみよう。

もし、噂通りなら少し痛い目に遭ってもらうかもしれない。


 

 …なんだ良い子じゃないか。噂も故意に流された物のようだ。噂を知らず過ごしていたから、ビックリしてた。


 何となく放っておけない。世間知らずで騙されそうだ。

これも何かの縁だ。色々教えてあげよう。



 …と思った事もありました。

今は後悔しかありません。

いや…、良い子なんだ。礼儀正しいし、真面目だ。

でも、規格外過ぎて何を教えればいいか…。


何?精霊って…。何?魔法陣魔法って…。なんで当たり前の顔をして収納袋持ってるの?その従魔、なんで喋るの?


もう…、もう…、


 俺はメンバーに助けを求めた。

もふもふ好きが喜んでいた。今の内に喜んでおけ。


 レッドサーペントの討伐に誘った。

討伐中、優雅にお茶をしやがった。花まで飾って…。

何気にテーブルもイスも茶も食い物も高級だ。


 …こいつ絶対貴族だ…。


  ジルとか言うあの子の執事が挨拶に来た時があった。

挨拶っていうか、俺達を見定めに来た。色々な魔獣を相手にしてきたが、どんな魔獣よりも圧が半端なかった…。

…怖かった…。



 俺…、あんな化物がバックにいるあの子に何を教えたらいいんだろう…。






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