いざ、参ろうぞ!!
早朝のギルドはザワザワ騒がしい。
漆黒の風さんとの待ち合わせ10分前。周りをキョロキョロ見渡す。
すると1人の冒険者が僕を睨んで、舌打ちして近づいて来る。
「おい!なんでお前がこんな所にいるんだ?えぇ?
お貴族様よぉ!お貴族様ならお貴族様らしく、優雅にお茶でも飲んでろよ!」
いきなり絡まれた。
モートンの森の魔魚ばりの食い付きの良さだ。
この人、僕が貴族だと思って絡んできてるの?
大丈夫?こんな事してたらこの人すぐ死んじゃうよ?
それとも冒険者は貴族とか関係ないの?
前、ギルマスもギルドは権力は関係ないみたいな事言ってたし…。
僕はこの冒険者の真意が分からなくてキョトン。
何も言わない僕に、調子が出てきたようだ。
「だいたいこんなガキが、高ランク魔獣を倒せる訳ねぇんだよ!この盗人がっ!!」
あぁ、やはりあのギルド員関係のようだ。
僕はため息を1つ。
ニコ。
「貴方は死ぬ覚悟があって僕に絡んできたの?」
「は?何?脅してんの?」
馬鹿にしたように僕を見る。
「いえ、先程貴方は僕を貴族だと言った。
普通、平民が貴族相手にああ言った口を利くと不敬罪で処分されますが、貴方は死にたいの?
どんなつもりで僕に絡んできたのか不思議なんですよ。」
僕は真っ直ぐ見返す。
「う、うるせぇ!お前のせいでルイスちゃんが表に出て来れなくなって泣いてんだよ!」
「仕事上で失敗したら何かしらの罰則を受けるのは当然ではないですか?
泣くのは大人としてどうかと思いますが。
あの人は僕に濡れ衣を着せた。
自分のミスを認めなかった。
そして罰を受けた。仕方ないんじゃないですか?
それとも、ギルド員相手には決して逆らってはならないと?
盗人の濡れ衣を着せられても黙って受け入れろと?」
僕はため息をもう1つ。
ニコ。
「貴方も真実がどうなのか、見極めてから話をしないと本当に殺されてしまいますよ?」
ニコ。
「えぇえぇ、心配ですね。」
どうしよう。ネチネチ言うのって楽しいかも…。
冒険者が、
「うるせぇ!」
と怒鳴ってきた時、僕の背後から、
「うるせぇのはどっちだ?
早朝から人に絡むなんて、暇なのか?
仕事前に随分余裕じゃねぇか。
そんなんじゃ、お前、本当に死ぬぞ。」
カイさんだ。
今日も人相が悪い。話の内容が内容だけに恐ろしい…。
「そうだよ。この子の実力は俺が見たよ。
高ランク魔獣も倒せる程の実力だ。
あまり嘘を言いふらしてると、君の信用が無くなるよ。冒険者は信用が命だ。」
ダンさんも参戦してくる。
Aランク冒険者が相手では分が悪いと思ったのか、舌打ちしていなくなった。
「ありがとうございます。」
「絡まれて大変だったなぁ。
でもアル君、意外と辛辣に言い返すんだね。
おっとりイメージだったからビックリしたよ。」
「えへ…、見られてしまいましたか。恥ずかしい。
知り合いに舐められたら終わりみたいな事を言われたので舐められない様にしてるんです。」
「うん、いいんじゃない?でも、程々にしないと要らぬ恨みを買うから気を付けてね。」
注意されてしまった。はい。程々にします。
では出発…、と思ったが、先にギルドで臨時パーティーの申請書類を届けるんだって。
これをやっていると、騙されたとか、トラブルがあった時ギルドが間に入ってくれるから覚えておくように、だって。
やり方を教えてくれた。
僕、こうゆう知識が抜けてるんだよなぁ…。
勉強になります!!
無事パーティー申請したので今度こそ、出発!
漆黒の風の皆さんは今日馬での移動だって。
あれ?僕、馬乗れないよ…。
ダンさんが僕を前に乗せてくれるそうだ。
あれ?シロガネは?
シロガネはまだから子供だからずっと走らせるのはちょっと…。
ダンさんに相談すると、疲れたら僕が抱っこすればいいんじゃない?って。
シロガネも
「大丈夫〜!僕走れるよ!!」
と、やる気まんまん。
メンバーの皆さんがシロガネを2度見してた…。
そうだった…。普通は喋らないんだった…。
まぁ、人それぞれだからね…!
誤魔化したおいた…。
5分も馬に乗っているとお尻が痛くなってきた。
今日は馬での移動、3時間の予定だって…。
まだまだだ…。どうしよう…。
取りあえず、お尻に身体強化かけてみたら、痛くはないけど、体が跳ねる…。
気持ち悪くなってきた…。
少しして休憩を取る。
うぅぅ…、気持ち悪い…。
ポーション飲んでおこう…。
シロガネはまだまだ元気で、ワクワクした顔で僕を見上げる。
「ねえ、まだ?まだ出発しないの?」
ちょっと待って…。もう少し休ませて…。
ダンさんは慣れだと笑っていたが、こんな調子だと、皆さんに迷惑をかけてしまう。
ダンさんに鞍を浮遊の陣を付与して良いか聞いてみた。馬が走っても鞍が浮いていれば衝撃が伝わらないんじゃないかな…?
ダンさんは少し考えた後、了承してくれた。
陣を刻んで馬に乗る。
おぉ、快適!揺れない!
ダンさんは複雑な顔をしていた…。
その後は走りっぱなしだ。
チラッとシロガネを見るとそろそろかな…?
「シロガネ、そろそろ休まない?」
「うん!もう僕疲れてきた〜…。」
一度止まって、ダンさんがシロガネを抱っこして僕に預けてくれた。
「ダン〜!ありがと〜。」
と言って、ウトウト寝てしまった。
ダンさんは口を緩めて、ふわふわだ…、と呟いてた。
でしょう?ふわふわするように、シャンプーもブラッシングもしっかりやってるからね!!
そんなダンさんを他のメンバーが羨ましそうに見ていた。
シロガネの可愛さは皆を魅了するからね!!
その後は問題なくレッドサーペントの巣の目撃情報があった所へ着いた。
レッドサーペントは火属性の大きい蛇だ。火の魔法を使い、毒もある。何より、その大きさは人を丸呑みする時もある程だ。素早く皮も硬い。
単独ならばそこまで強い魔獣ではないが、今回の様に巣が出来ると討伐の難易度は格段に上がる。
僕は結界を張る。ジルから常日頃身体強化と結界は怠るなと言われている。
漆黒の風のメンバーさんは普段の感覚が変わると危険な為、後方支援のエルさん以外はそのまま。
さぁ、いざ!参ろうぞ!!ドキドキする〜!!




