生きていくって…。
女性ギルド員の顔は、青を通り越して白い。
ギルマスも厳しい顔で、
「随分とギルドを舐めてくれたな。
ギルドは王家にも神殿にも、権力には屈しない第3の立場を取っている。王家とて口出しは出来ない。
そこに権力を出してくるとは…。
君は、君の男爵家を当ギルドだけでなく、全世界のギルドを敵に回すつもりか?
愚かな事だ。」
と、渋い顔。
女性ギルド員は何も言わない。
僕は、
「では、私はこれで。」
と、席を立つ。
「待って!!本気なの?男爵家を潰すって…!」
何を今更…、
「もちろん。
君は、男爵家を使って私達に、何だったかな…?
無事でいられると思うな、だったかな?私の身に危険が迫るんだろう?
なら、早く潰してしまわないと。」
ニコ。
「止めて!私が悪かったわ!家には手出ししないで!!」
と、涙を流す。
「随分と都合が良くない?
自分の立場が上だと思えば、強気に出て、自分の立場が相手より下だと思うと途端に弱気だ。
みっともないよ。」
あれ?何か僕が悪者っぽくない?
こっちは巻き込まれただけだぞ!そっちが先に権力使ったんじゃないか!悪者はそっちだぞ!!
内心ヒヤヒヤしながら、貴族的微笑みを崩さずに、相手を見る。
「あれ?それが君の謝罪?
私の名誉を棄損し、盗人呼ばわりしておいて?
しかも、そんなに睨んで。反省…、してないね。
ここを出たら私は誰かに命を狙われる事になるんじゃないかな?
怖いなぁ。そんな危険は排除しないとね。」
ニコ。
「やめてってば!謝ってるじゃない!」
「どこが?君の反省が見えないよ。
ねぇ、反省ってどうするか知ってる?」
笑顔を消して問いかける。
「申し訳ありませんでした。」
泣きながら頭を下げる。
「それで?」
ニコ。
女性ギルド員は訳の分からない顔をする。
「反省したらそれで終わりじゃないでしょう?
その後どうするの?」
僕は何もいわずに、ニコ。
「今後、私の思い込みで人を判断せず、人前で相手の名誉を穢す事は致しません!」
当たり前の事だよ。
僕はギルマスを見る。
「このギルド員は私の前にはもう出さないように。
出てきて私が不快な思いをする時は…。
分かって下さいますよね?」
ニコ。
ギルマスも青い顔して、
「勿論だ。しばらくはこのギルド員には厳しい職員を付け、徹底的に教育をし直す。
そして、表には出さない。」
女性ギルド員は愕然とする。
あなたはそれだけの事をやったんだよ。
もし、本当にお忍びの貴族相手なら、とっくに消されているだろう。
もし、相手が権力の無い者なら、その人が消されていただろう。
自分の立ち回りで自分が、相手が困る事になると理解しなきゃダメだ。
ずっと裏方ならば、ギルド員としての道を閉ざされたも同然だろう。
学び、ギルマスが表に出しても良いと判断すれば、いつの日か、表に出れるだろう。
ギルマスが判断するならそれで良い。
僕は女性ギルド員を目にする事なく、ギルマスに頷いた。
はぁ〜…。後味悪いなぁ…。
ギルマスに収納袋を預けて、おじちゃんに手を振り、ギルドを出る。
外に出ると、サンガリア家の団長さんがいた。
「あれ?どうしたの?」
「昨日の事が気になって…。
今日来てるかもしれないと思って、寄ってみたんです。」
ささくれ立った心が少し癒される。
「ありがとう。多分大丈夫。解決したよ。」
笑うが団長さんは変な顔をしている。
「解決って…。そんな変な顔をして…。」
どうやら僕も変な顔してたようだ。
「なんか、スッキリしないんだ。
弱い者いじめみたいに、罪悪感。
僕、悪者だったかも…。」
僕達は昨日の所へ行き、ベンチに座る。
団長さんが、
「いいんです。今回の事でその子が何か感じれば、それで良いんです。
人は、いつ気付くか、何で気付くかって、大切なんです。
小さな違和感で動けるやつは大事にはならない。
でも、気付けないやつは、今回みたいになる。
それでも気付かないやつは…、たぶん…、生きていけないんじゃないですかね…。
アル様は、最悪になる前で気付かせた。
今は色々思う事があっても、そいつは、後々思い知るんじゃないですか?
あの時気付いて良かったって。
アル様は間違ってないですよ。」
そうかなぁ…。感情のまま、色々ネチネチとやった気がするけど…。
でも、団長さんの言う事はよく分かる。
僕は気付けなかった。小さな違和感を見ないふりして…、そして…、殺された。
何に気付くか、いつ気付くか、今の僕は甘えすぎてない?
僕もあのギルド員と一緒。間違える時もある。
気付かない時もあるだろう。
それでも、僕は生きていかないといけない…。




