その頃、他の方々は…。
〈ある神官の疑問〉
少し前から、ストロイエ侯爵邸の奥にある森の様子が変わってきた。
我が国には瘴気が濃く、魔獣が出現する森が5つある。その内の1つがホーエンの魔の森だ。
魔獣の被害が多い為、当時、武に名高いストロイエ侯爵家の管理下とし、代々魔獣を溢れ出さないよう、定期的に討伐してきた。
その森が最近おかしいと下位の神官より報告があった。魔獣の被害がやけに少ないのだと。
後日、私も森へ行ってみたが確かに違う。あのどろどろとした、重苦しい空気が綺麗になり、森が明るくなっているのだ。瘴気が浄化されたのか?しかし、瘴気の浄化は聖女、もしくは聖人しか行えない。
…もしかして…、現れたのか…?
何と言う事だ…。
すぐに上へ報告を上げなければ!!
〈オルガナイト王国、宰相の疑問〉
私は、このオルガナイト王国で宰相をしている。
部下から、最近ホーエンの森の瘴気が消えたと報告を受けた。
神殿の調査だから本当の事なのだろう。
今まで瘴気を消す方法は、聖女や聖人による浄化しかなく、一般的には不可能だと言われていた。
その内、このオルガナイト王国も瘴気に呑み込まれるのではないかと、代々の国王と頭を悩ませていた問題だった。
何かあったのかと、ストロイエ侯爵を呼び出し報告させるも、本人は何も分かっていない様だった。
最近魔獣が出ないと思っていた…、と何とも呑気な返答だった。
当代のストロイエ侯爵はなんとも、凡庸なことか…。
次代、ギルバートと言ったか…? その者がこの様な愚か者でない事を祈るばかりだ…。
さて、他の森は未だ瘴気も濃く、深刻な問題となっておる。
何としても原因を突き止めなければ…。
〈ストロイエ侯爵の不満〉
今日、宰相から呼び出された。
当家で管理しているホーエンの森の瘴気が浄化されていると言われた。何か心当たりがあるのかと。
…何もしておらぬ。瘴気等、気にするような物でもなかろう。たまたまだ。それなのに、能無しのような扱いを受けた!私はストロイエ侯爵家当主だぞ!!
最近息子のギルも反抗的な態度を見せるようになった。
どいつもこいつも、私を馬鹿にしているのか!!
魔の森の調査をしたいと言ってきているが、のらりくらりとかわして、困らせてやろう。
我が侯爵家を馬鹿にしたのだからな!
はぁ…。他人に出入りさせて、あの子供の事がバレたら厄介だ。
…早めに処分しておくか…。
〈ギルバートの苛立ち〉
僕の父は能無しだ。アル兄上にあんな酷いことが出来る何て、信じられない!
兄上の能力は凄い。スキルも瘴気の浄化が出来るし、魔法も万能だ。それに、魔法陣魔法なんて聞いた事もない!
「ギルも覚える?便利だよ?」
と見せてもらった、模様のようなものが描かれた本は、到底理解出来る物ではなかった。
そんな兄上を僕は少し前まで存在すら知らなかった。 僕が次期当主だと言われて育ってきた。
その為僕は、辛い当主教育も剣術もマナーも何だって1人で頑張ってきた。でも、兄上がいたら…。一緒に頑張れていたら…。
兄上の今までを思えば、甘えだと分かっている。
でも、僕は兄上と一緒に励まし合い、成長したかった。兄上を支える存在になりたかった。
兄上があんな扱いを受ける謂れはない。
父上、母上を僕は許さない。軽蔑する。
自分の子供にあんな真似が出来るなんて。
それに、最近父上が婚約者だと1人の令嬢を連れてきた。僕を将来の金づるか何かだと思っているのか?僕に媚びるように嫌らしく笑い、でも僕を舐めるように見て、
「これからよろしくお願いしますわ。」
だと。
全然好感を持てない!
父上や母上が連れてくるような家の娘だ。何かあるかもしれない。
婚約の解消を視野にいれておかなければ…。
…あぁ…。兄上と遊びたい…。