大丈夫。僕は幸せだよ。
「バトじい〜!おはよう!今日はハクエン達が来るからよろしくね!!」
「アル坊。おはようございます。聖獣様ですか。楽しみですなぁ。」
あらから3日経った。僕はジルと共に毎日ハクエンの元へ様子を見に行っている。
そして、今日ついにお引越しなのだ!!
ハクエン親子用に、森の近い所に屋根のついたシンプルな小屋を建てた。
カーで購入した。従魔用小屋ってのがあったんだ。
カーには何でも揃ってる!
そして、その小屋に僕が認識阻害の陣を付与。
ハクエンとシロガネ(ハクエンが僕に名前をつけさせてくれた!)に認識阻害の陣を付与したリポンを巻いてもらえば、本邸の人間達にも気づかれないだろう。
朝ごはんを食べた後、ジルとハクエン達の元へ。
ハクエンは大きくて、カーに入らないので、1人、森を抜けて来てもらう。
シロガネはまだ小さく、瘴気に弱いので、僕とジルと共に転移して、先に屋敷で待つ予定だ。
「ハクエン、シロガネ、おはよう!
今日は移動の日だよ!大丈夫?」
ハクエン達の元へ行くと、シロガネが僕の方へ走ってきてじゃれてくる。
元々大きなハクエンの子供だから、シロガネは子供でも僕の腰位の大きさだ。
その大きな毛玉が纏わりついてくるから、もう、可愛いくて仕方がない!
しばらく無心でもふもふして気が済んだ。
さぁ!引っ越しだ!!
ここで予想外な事が起こった。シロガネがハクエンと離れるのを嫌がり、キュンキュン鳴くんだ。
ハクエンも仕方ないとはいえ、不安そうだ。
でも、このまま出発が遅れると危険だ。
夜の森の方が、強く危険な魔獣が出るのだ。
僕達は一瞬で転移出来るけど、ハクエンは数時間かけて駆け抜ける予定だ。辛いけど、早く出発するに越したことはない。
「シロガネ、必ずお前の元に辿り着くゆえ、先にアル達と共に行くのだ。心配などしなくて良い。必ず行くからな。」
ハクエンがそう言い、身を翻し森の中へと駆け入る。
シロガネが鳴きながらハクエンを追いかけようと、結界の外に出ようとする。
「待って!!ダメだよ!シロガネ!!
シロガネはまだ瘴気に弱いんだ!死んじゃうよ!!」
僕は必死にシロガネの前に立ち首に抱きつき押さえる。
しかし、シロガネの方が力が強く、僕は結界の外へ押し出されてしまう。
結界の外に出た瞬間、魔獣と目が合った。
僕とシロガネはその殺気に気圧され体が動かない。
魔獣が飛びかかってくるのをジルが魔法で吹き飛ばす。
僕とシロガネをジルの結界で包んでくれる。
僕はシロガネを結界の中へ押し戻し抱きしめる。
「大丈夫だよ。先に僕の家へ行こう。ハクエンは必ず来るから!!」
尻尾を丸め、小さくなったシロガネに話す。
「シロガネがケガしたらハクエンはショックを受けるよ。さあ、行こう。一緒にハクエンを待とう。」
シロガネを抱きしめら身体強化で腕の力を上げる。
シロガネを抱っこしてカーの中へ。
「ジル、さっきはありがとう。助かったよ。」
「いえ。ご無事で何よりでした。」
きっとジルは僕の前で魔獣を、殺さないように風で吹き飛ばしてくれたんだと思う。
あの時、僕がショックで熱を出したから…。
転移で屋敷へ戻る。
シロガネは新しい場所に1人で不安なのか、僕の側を離れない。
僕はシロガネを抱っこして、屋敷を出る。
その間会ったルイとバトじいにシロガネを紹介する。
森の見える所へ歩いて行き、2人で座る。
シロガネを抱いて、
「大丈夫だよ。ハクエンは来るよ。」
と、繰り返す。
シロガネはもう、森の方へ駆けていく事はせず、僕の近くにいる。でも、森から目を離さない。
お水も飲まないで、じっとハクエンのいる方を見る。
「お母さんが好きなんだね…。」
僕は知らず涙が出ていた。
シロガネがハクエンと離れるのを嫌がり、ハクエンもシロガネを心配する。
そんな母子が、羨ましかった。
僕には縁の無いものだ…。
もう諦めたのに、なんだ涙が出るんだろう…。
ジルが心配そうに僕を見る。
(あぁ、そうだ。母から貰えない愛情を、僕は3人から貰っているじゃないか。泣く必要なんてない。
)
僕はルイが、毎日美味しい物を作ってくれて、辛い時温かいミルクを持ってきてくれる事、バトじいが毎日愛情たっぷりの目で僕を見守り、色々教えてくれる事、ジルが僕に付いてきてくれる為に屋敷を辞めようとした事や、僕の将来を真剣に考えてくれたり、僕に死を見せないように気を付けてくれた事を思い出す。
大丈夫。あんな人達いなくても、僕には3人がいてくれる。
ジルを見上げて、ニコッと笑う。
ジルが泣きそうな顔で笑い返してくれる。
大丈夫。僕は幸せだよ。
夕方になり、辺りが暗くなってきた。
ルイが温かい毛布と温かいミルクを持ってきてくれた。
僕とシロガネは毛布に包まり、ハクエンを待った。
突如、シロガネが森の方へ駆け出した。
「キャンキャン!!」
少しすると、ハクエンが森から出てきた。
2匹はじゃれ合い、なめ合い再開を喜んだ。
少しすると、ハクエンがシロガネを咥えて僕の所へ戻ってきた。
「遅くなりすまなかったな。
思ったより魔獣に絡まれてな…。
それにしても、ここは凄いな。さすが賢者の住処だ。空気が澄んでおる。」
「ハクエン、ケガはない?」
「大丈夫だ。我、聖獣ぞ?よほどの事がなければ魔獣等敵ではないわ!」
良かった。
ハクエンが戻って来た事をジルに連絡し、2匹の小屋へ向かった。
(どうかなぁ…。気に入ってくれるといいんだけど…。)
ハクエンもシロガネも小屋を気に入ってくれた。
あと、リポンも首に着けた。
これで安心だ。
また、明日の朝来る事を伝え、僕も屋敷へ戻った。