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現代ダンジョンは吸血鬼と共に  作者: kurobusi
迷宮の支配者

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27/31

後も先も無く



「……き、えた?──ブハァッ!!」


俺が折った槍を放り捨て、代わりにポリカーボネート制のライオットシールドを砕かれた警察もどきを引っ張っていったリザードマン。

それを追いかけて最後にこちらの方角を一瞥してきたスーツの男。そして中世の騎士のような武骨で重厚な鎧に頭から爪先まで身を包んだ大男。


全員が転移の罠による光の中に包まれたのを見届けて──一気に体の力が抜ける。息が続く限界まで海に潜っていたかのように肺は空気を求めて、心臓は酸素を送り込むために早鐘を打つ。


ギリギリだ。ギリギリだった。


あともう少しで──あいつらがセラさんの私室に辿り着くところだった。

この突き当りを戻った三叉路、あいつらは偶然左の道を、つまりこの通路を選んだようだが……此処こそが行き止まりに見せかけた"正解"の道。

そしてここに隠された扉を看破していたらそこはセラさんの私室だった。


ぜえぜえと呼吸を荒くしたまま、角ばった石が散見される突き当りの壁に向かって手を着く。息を整えている暇はない。いつアイツらが舞い戻ってくるか分からない。

土壁から飛び出た石を左上から順に撫でつけて、Zの形になるようになぞり上げ──最後に始点と終着点を結ぶ右上がりの斜線をなぞる。Zが砂時計のような形になるイメージで。


指が図形をなぞり終えたその瞬間。

目の前の分厚い壁が巨大なコルク栓のように丸くせり出し、ゆっくりと横に転がり、その背中に隠れていたこのダンジョンの支配者の姿を露わに──



「エッ!?どなた!?」


「わっ!?え!?サジ君?」


そこに立っていたのは、くり抜いた目玉をそのままくっつけたような禍々しい装飾の長杖を構え、妖怪じみたリアルで巨大な単眼が嵌め込まれた石造りの大きい兜を被ったものすごい、なんか、なんかの何か。邪教の司祭に見える。

その兜の奥から聞き慣れた声が聞こえてこなかったら多分勘違いしてた。


「どうしたんだ!?何故戻ってきたんだ!伝えたはずだろう危ないって!」


パコン、と巨大な目玉が観音開きの扉の如く二つに割れて見慣れた美しい顔が出てくる。そこがそうやって開くの?


「い、いや、今は過ぎたことを話しても仕方ないか……入ってきた人達はどうしたんだい?」


伝えたいことも相談したいことも山ほどあった筈なのに目の前の尊敬してる人の格好が思考のノイズになってびっくりするくらい纏まらない。

侵入者に備えての装備なんだろうっていうのは分かるけどもそんなの何処に転がってたんだ。どこで拾ったんだ。この装備作ってた奴は何考えてたんだ。



「……んん!まず、俺と戦闘になって、結果としてポリカーボ……透明な盾を持った男だけが戦闘不能になりました。死んではいませんが動けないでしょう。後リザードマンが持っていた槍を破壊しましたが丸腰にできたかは不明。他は無傷です。その後アイツらは全員"転移の罠"の方に向かって、そのまま姿を消しました」


「罠……念の為に散りばめておいたあれか。ここまで侵入されたのも人を引っ掻けたのは初めてだけど無事に起動したんだね」


「ただ、罠に引っかかったのは直前の言動から察するにわざとだと思います。あれは言い換えれば外への最短経路ですし、態勢を立て直す為に利用されたんじゃないかと」


要するに逃がしてしまったということなのだが、正直逃げてくれて助かった部分は大きい。優位を確保する為には"透明化"を維持する必要があったがあのままだと戦闘中に息切れしてただろうし、そこを数の暴力で押し込まれてしまったら相当辛かっただろう。


「……そういえばあれの転移先はどちらに?」


「迷宮の入り口すぐ傍なんだ……中の魔力が届くぎりぎりまで距離を伸ばしてそれ以上は無理だった」


入口。なら奴らは俺が伸して地面に転がした、ダンジョンの入り口で黒と黄色の規制線を引いていた男と対面している頃か。

あの作業服を着ていた男はお仲間の一人だ。自分たち以外の来訪者を近づけないようにしていたわけだ。それは見事に失敗した訳だが。


「……そのまま逃げてくれる、かな?」


予測というよりは、願望の色を多く含んだ声が牙の映える口から漏れる。


「分かりません。しかし目をつけられたのは間違いありません……牛尾組の奴らに」


「う……やはりそういう訳だよね……」


俺は見張りの作業員が胸につけていたバッジから侵入者の所属を理解したが、セラさんも察していたらしい。

こんなことに及んだ理由は正確には分からない。手中に収めやすいダンジョンを選んで自分達の都合の良いように使うのだろうということと、そうする為にはダンジョンのコア(セラさん)を"管理下"に置く必要があること以外には。


「……放棄するしかない、か」


「なんですって?」


迷宮(ダンジョン)は放棄しよう。命には代えられない。相手はこの世界で武力を有する組合なんだろう?立ち向かいようが無い……」


珍妙な兜が外されて、後頭部に結われた金糸の珠のような髪が揺れる。


「入り口にはまだあの人達がいるだろう。どうにか機を窺って……」


放棄?


このダンジョンを?


「そんなことをしたら……セラさんはどうなるんですか?」


「……どうにかするさ。はは、いろんなことから逃げてきたけど、我が家から逃げるのは初めて……あ、いや二回目か」


実家を数え忘れてたよ。とブロンドの吸血鬼ははにかむ。


「君との生活はとても……とても楽しかったよ。……その……随分歳は離れていたけれど、友人がいる生活というものを楽しませてくれて有難う。心から感謝している」


このダンジョンを失う。

それはつまり、セラさんを人の眼から、太陽から覆い隠すものが消え去るということ。


脳裏に、塵に成り果てたセラさんが、大勢に叩き伏せられて血を吐くセラさんが浮かぶ。


…………そんなことは許されない。許されてたまるか。


「何も餞別をあげられないのが心苦しいけど……あ、いやこの兜と杖が」


「セラさん。俺は別れるつもりはありません」


ピタリ、と兜と杖を差し出そうとする色白の手が止まる。



「サジ君。駄目だ…………ええと……ほら、君には君の(人間)、私には私の(吸血鬼)生き方がある。無理して交わろうとする必要は無いよ」


「無理は何もしていません。一緒にいたいと思っているからそうしているだけです」


「……本当に君は──また入ってきた!?」

「えっ!?」


自分に向けられた柔らかな笑顔が一瞬にして険しいものに変貌する。

セラさんはダンジョン内の侵入者を探知できる。“また入ってきた”というのは、つまり──


「さっきの全身鎧に黒い礼服(スーツ)の男!……だけ?二人に減ってるけど入ってきた!」


二人?

警官もどきは兎も角としてリザードマンは?武器が無くなったから撤退した?


……しかし、二人なら、何とかなるかもしれない。


「……セラさん。戦闘用のゴーレムは?」


「いや……もういないよ。二階層の石人形(ゴーレム)も既に封じられている。私が直接向かってもあの状態ではすぐには直せない」


……援軍は期待できないか。仕方ない。


「分かりました……何とかしてきます」


「サジ君!?」


「セラさんは安全な場所に……もうそんなところが此処にあるのか分かりませんが、兎に角あいつらに近づかないようにしてください。もし身柄を拘束されたらもうお終いですから」


あいつらに“ダンジョンの乗っ取り”という目的があると推測できる以上、セラさん(ダンジョンのコア)を表に出すのはリスクが大き過ぎる。


「ここを出ていくにしろ何にしろ、今この脅威をどうにかしないことにはセラさんも俺も先へ進めません。これは俺の為でもあるんです」


「う……」


真っ赤な舌が覗く口が中途半端に開き──でかかった言葉を飲み込むように閉じて──また開く。


「……分かった。迷惑をかけるね。本当に──せめて、これを」


そう言って、ずいと片手に抱えていた禍々しい長杖を差し出す。

よく見たらくっついた蜥蜴の目玉みたいなものは微妙に蠢いている。何から出来てるんだ。気づきたくなかった。


「これ自分で作った見た目だけの張りぼてなんだけど無いよりは……」


これ自作?


「ありがとうございますそれはいざという時の為に持っていてください──行ってきます!」




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