劇場型尋問 その2
「前金までもらえて、ラッキーな仕事にありつけたと思った。仕事の日はオレとおんなじように集められた連中が集まってて、魔石がそれなりに生えてて採れる階層まで潜れた。まぁまぁな数が集まった。これで終わりだ楽勝だったな、そう思ってた……」
でも、そうではなかった。
それですんなり済む話だったなら、この男はこうしてパンイチで砂利だらけの地面に正座しなくて済んだはずだ。
「集めた魔石をダンジョン帰りに“指示役”のところにまで持ってった……そしたらあいつ!いちゃもん付けやがって!」
ぎりり、とエナメル質が軋む音が此方にまで聞こえてきそうな位、半裸の男は強く強く歯を喰いしばる。
「“魔石であることには違いないがこれじゃない”とか“質が悪すぎる”とか……!んなこと採ってきた後に言われてどうしろってんだ!」
「……よく理解が及ばぬが、その特別なマセキとやらの見本なり絵姿なりは見せられなかったのか。そうでなければ探しようがないであろう」
「いや……そいつも“こっちが指定するダンジョンの中からある筈だからサイシュしろ”以外に指示寄越さねぇし、じゃあとりあえず突っ込んでくりゃいいんだろって、そう思って……」
……兎も角、頼まれた仕事を終えた後で『なんかこれじゃないんだよなぁ』とクライアント側から突き放されてしまったのか。その点に関しては少しだけ同情する。少しだけ。
しかし……探索者組合を通してない時点で裏のある仕事なのは違いない。そういった仕事は得てして迅速さが求められる筈だが……妙に依頼者側の段取りが悪い。
この男を含む実行部隊がとんでもない無能だったという線が消えた訳ではないが、聞いている限りでは“探し物”に関する情報があまりに曖昧だ。上手くいかなくて当然。わざとやっているのかと邪推する位には。
「結局その日に持ってったのはほぼ全部弾かれて、全然依頼された量には届かなくて、また潜るハメになって、で、持ってったらまたほとんど弾かれて……」
「……話が見えん。その進捗がよろしくない仕事と我が眷属の死がどう関係するのだ」
「…………それは……その……」
「早うせい。草木の肥料にはなりたくなるまい?そろそろ……フゥー……限界じゃぞぉ……」
仮面と外套の隙間から見えるセラさんの細い首筋に、球の様な汗が大量に滲み出ている。まずい。慣れないことをさせてしまっているせいで緊張が物凄いんだ。
思わず駆け寄りそうになって、右脚が地面に大きくめり込む程踏み込んだところで、何とか身体を制する。
「ワ"アッ!?やめて!!やめて!!ちゃんと全部話すから!!」
「あ、うん。いや、うむ」
……何か誤解させた様子だが、効果があったならまぁいいか。
「……ハァ……そうこうしてる内に、期日が迫ってきてた。どんだけクソな依頼者でも、納得させなきゃ残りの金はもらえないし…………もっとマズイ事情もあった。今すぐまとまった金が欲しいオレは焦ってた……いやオレ達は焦ってた……」
「そんな時に“指示役”が新しい情報を寄越してきたんだ。“自分が探してる特別な魔石をたくさん持ち歩いてる探索者がいる”……“わざわざ教えてやった意味は言わなくても分かるよな”って……」
……話が見えてきた。その探索者というのが──
「──その、今、オレを睨みつけてるゾ、ゾンビになってる奴が、その探索者……だった」
するりと、椅子に腰かけていたダンジョンの主が音も無く立ち上がる。
「何故、殺しを──人を殺めようとしてしまったんだ」
ゾンビを従える恐ろしい黒魔術師の声色ではない。
今仮面の奥から聞こえてくるのは、吸血鬼でありながら目の前の命を慮ってしまう、セラさんの声。
「非合法な仕事に手を染めて、もう抵抗は無かったのか?そこまでする必要はあったのか?君は何故その一線を──」
「こ、殺しまでしたくなかった!本当に!」
叫ぶように、セラさんの追及を遮るように男が声を出す。ほぼ悲鳴に近い。
「何日もダンジョンに潜って頭が回ってなかった!期日が迫ってて、依頼を終わらせられなかったら話を通さずに仕事を請け負ったことを探索者組合にタレ込むって言われてて!この仕事で手に入る金が無いと住む場所もメシもどうにもならなくて、この仕事に集まった連中はみんなそんな具合で、それで!」
堰を切ったように、罪人の口は言葉を吐き出す。
「それで、無理矢理奪った。強盗をした。顔を見られないように後ろからやった。やったのに……」
ああ、よく覚えている。後頭部に入れられた鈍器の一撃。凶器も回収した。
「結局姿を見られた……息苦しくなってマスクを取った瞬間に血走った目ん玉がこっち向いててパニくって…………人殺しなんてしたくなかったんだ本当だよぉぉ、こんなことになるならっこんなことっ引き受けなかった、かんべんしてくれぇ」
男は情けなく泣き出す。地面に涙と鼻水のシミを作る。
……体液を流す理由は同情を買う為か、それとも純粋に罪悪感なのか。それは分からない。
だが、傷つけることはあっても殺しまではしたくなかった。その言葉に偽りはないだろう。
好き好んでやることじゃないのは“経験上”理解はしているつもりだ。
「…………そうか」
ふわり、と小柄な吸血鬼の身体が、お気に入りと言っていたチーク材製の椅子に再び預けられる。
「話は凡そ理解した。貴様が愚行に走った理由も……」
「お、お、おっ、おれはどうしたら、いいの」
男の喉が絶え間なくしゃくりあがり、言葉がどもる。
「自首でもすりゃいいのか………?でも……組合には……」
いや逆にそれは困る。
この地域の警察組織はもう崩壊してしまっているから、罪を告白するなら牛尾組が管理する探索者組合にということになるだろうが、そうなるとこの状況だとゾンビと化したと思われている俺を討伐する探索者がやってくるだろう。
そうなってしまうとセラさんのダンジョン経営を手伝いにくくなり支障が出る。
「……妾が、眷属の生前の記憶を読んだところによると生前の此奴は自分が持っていた首飾りに強く執着しておるようであった」
ピクリと、無意識のうちに身体が軽く揺れる。
繋げ方が上手い。本題に入ってくれた。
「クビ?首飾り……あっあの魔石入りのペンダント……?」
「それだ」
思わず身体が前のめりになる。咽頭から出かかる問い詰める言葉をギリギリのところで飲み込む。
「それを奪われたことが我が眷属が持つ恨みの根源。戻してやれば、貴様への執着は落ち着くであろう。今何処にある?」
何処にある?まだ持っているなら取り返せるところにあるなら──
「も、もう“指示役”に渡しちまった。他の魔石と一緒に……」
前につんのめった身体から、力が抜けるのを感じる。
ここまでして、セラさんにも苦労を掛けて空振り。
その可能性が高いのは話を聞き始めて何となく察し始めていた。わざわざこいつが今の今まで盗品を手元に置いておくメリットなんてないのだからそうするのが自然の成り行きだというのは。
だが、それでも期待はしてしまっていた。愚かなことに。
身元が一切分からない奴の手に渡ってしまった。手掛かりが消えた……
「で、も……何となく魔石が何処に持ってかれたかは察しがついてる……」
打ちひしがれていた自分の鼓膜を、信じられない言葉が貫く。
「……何だって?」
自分の言いたいことをを代弁するかのようにセラさんが言葉を漏らす。
「し、“指示役”は自分のことを全然話さなかったし触れられても躱してた。でもオレは何となく察しがついた。オレは元々組員だったし……顔に見覚えがあったんだ。向こうは覚えてねぇみてぇだったけど、絶縁される前に一度だけ見た顔だった……わざわざそのことに突っ込んだらマズイだろうから本人には言わなかったけど」
元々“組員”だったから分かった?じゃあその“指示役”は──
「“指示役”は、探索者組合の人間。もっと言うと探索者組合を取り仕切ってる牛尾組の奴だ」
「オレらが盗った魔石は……今は牛尾組の本部に保管されてると思う」




