(1)ミズチとは……
夏ホラー2025『水』の企画参加作品です。
よろしくお願いいたします。
日本の神話には、『ミズチ』と呼ばれる水神の伝承がある。
日本書記によると、『蛟』とは、吉備備中にあった川嶋河、現在の岡山県の高梁川に住み着いていたといわれる大蛇、あるいは龍の姿をした水神であり、付近を行く人々を脅かしていた悪神であったらしい。
最終的にはその地を訪れた『県守』という人物が、水面に浮かべた三つの瓠を沈めてみせよと蛟に対して挑戦し、それらを沈めることに失敗した蛟は、県守によって類族もろとも討伐されたのだという。
これが、今日に残る『蛟』の伝承の簡単なあらましだ。
……もちろん、こうした神話、伝承の内容というのは、多くは創作だ。
だが同時に、神話というのは、科学的な解釈の浸透していない古い時代であっても、かつて起こった凶事の教訓を後世へ残すための、事実を元に創作された伝承という側面もまた持っているものだ。
河川というものは、その高低差や土地の性質によって左右に蛇行した形を作るものであり、水源地から始まって海へと至るそれらを俯瞰してみれば、それはまるで巨大な蛇か龍の形を模しているようにも見えるものだ。水神が蛇や龍の姿を模して伝わることが多いのは、きっとそのイメージのためだろう。
また本邦は大陸の諸外国と比べて、国土の小さな島国であり、かつ、山林の多い地形の国であるためか、河川は高低差が急で、川幅は狭く、想像以上に流れが激しい箇所が多いのだそうだ。
そのためか、現代においてもレジャーシーズンとなれば、ほぼ毎年、海や川での水難事故が後を絶たない……。
蛟ばかりでなく、古来からの河童などの水辺の妖怪の伝承、果ては水死者の霊との遭遇といった怪談話などなど、日本という国は、島国であるという地理的条件から見ても、どうやら水にまつわる恐怖からは切っても切れない……逃れようとしても逃れられない……そんな密接な関係にあるらしい。
そもそも、我々人間の体はその60パーセントが水分であるとも言われている……。
そんな我々が生存し、生活していくためには必要不可欠な『水』という存在は、人間にとって普段は意識もしない程に身近でありながら、時に命を脅かし、人間に対して抗いがたい程の脅威の牙をむくこともある、とても恐ろしい存在でもあるのだ……。
これから語るのは、そんな『水』が関係する……中学生だった当時の俺自身と、そんな俺の大切な友達とで体験した……昔の、思い出話だ。
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普段はノクターンノベルズの住人ですが、ホラー企画ということで、元ホラー作家志望としては血が騒ぎ、今作を執筆いたしました。
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