第5話 恋愛映画を見よう
「で、何するんだ?」
ダイニングテーブルに対面で座り、真結がトーストを食べ終わるのを待った後、部屋に戻ったところで俺は真結に尋ねた。
「まずは一緒に映画見よっ」
ベッドで俺の隣に腰掛けている真結は、手に持つスマホをこちらに突きつけてくる。
そこには、サブスクでアニメやドラマを見ることができる有名なアプリが表示されていた。
「映画か――」
「最近流行ってるって聞いて、ずっと見てみたかったんだ。これなんだけど……」
真結がタイトルを検索して、出てきた作品ページを見せてきて、俺はあらすじを読んでみる。
いかにも女子高生を主として人気が出そうな――感動系恋愛映画だ。
女子なら誰でもこういうのを好きなんだろうが、真結がこのような作品について話すのを見たことがない。
だから、真結のなんだかイメージと異なっていて、驚きというか、新たな一面を知れた嬉しさがあった。
思わぬことに何も言わないでいると、だんだんと真結が不安そうな顔をしてくる。
「裕誠が違うのが良いって言うなら、他のにするけど……」
「いや、俺もなんか気になってきたし、見たいな」
「ありがと。じゃあ、再生しちゃうよ」
「ああ」
真結が三角の再生ボタンを押すと、配給会社のロゴが映し出されてきた。
そして真結は画面を横向きにして、スマホを俺と真結の膝の間あたりで動かないように手で固定した。
「ちょっと見にくいね……」
「そうだな」
二人で見るとなると、スマホのような画面の小ささは死活問題にもなってくる。
すると、ただでさえ距離が近い真結が、もっともっと、グッと俺の方に寄せてきた。
俺の左腕に、明らかに感じる双丘の柔らかい感覚を感じた。
しかも手と手が少し重なり合っていて、しようと思えば今すぐにでも繋げられるほど。
まあ実際は行動に移さないが、その分俺にフラストレーションが溜まっていく。
そして、俺の身体は思わず期待してしまう。
可愛い女子なら誰でも反応してしまうのは、男の性ってもんだろう。
「裕誠、どうしたの? 顔が紅いけど」
「――っ」
「もしかして、照れてる? でも、まだ本編も始まったばっかなのに、そんなところあったっけ?」
「いや……」
真結の純粋な質問に振り回されながらも、俺は平常心をかろうじて保ちながら、映画を見進めていく。
隣の真結が少し身体を前に出して、食いつくように画面を見ている。
『好きだ。付き合ってくれっ!』
イケメン男子の純真な告白――。
『私も大好きです! もちろん、付き合いたいですっ』
ロング髪美少女の純白な返答――。
この映画もいよいよクライマックスだ。
画面の二人はだんだんと近づいていき、二人の顔にズームアップしていく。
そして……。
『ちゅ――』
キスをした。
新たな愛を誓うような、軽くて甘いキス。
一回一回、間を開けて何度かすると、間隔が短くなっていき、連続になっていく。
『んっ――、ふぅっ――、っはぁ――』
二人の鼓膜に触れるような吐息が生まれて、少しずつ激しくなる。
相手を抱きしめるだけだった手も、彼氏彼女の身体を愛撫し始めて、しまいには局部に手が伸びる。
さっきまでの純愛ストーリーはどこへやら、R15をも超えた際どい描写になってきた。
気まずい。
こんなキス、した覚えしかない。
しかも、いま隣にいる真結と――。
そして、いま居るこの部屋で――。
居た堪れなくなった俺は、左目だけでこっそりと真結の様子を窺ってみる。
見当とは異なり、俺の方を向いて隠しきれないニヤニヤを曝け出していた。
真結が俺の視線に気づいていないようなのが、せめてもの救いだ。
前のままが良い――なんて言ってしまった俺は、真結に対して何も言えなかった。
「こんなキス、憧れちゃうな……」
「……」
俺も憧れるな――。
誰とするんだ――。
先週しただろ――。
様々な言葉が、考えるだけで、すぐに消えていく。
でも、真結の言葉に期待している自分がいるのも事実だった。
/ / /
私の隣にいる裕誠は黙ってしまった。
親友の由樹と美緒に、好きな人を振り向かせるためにどうすれば良いのかを聞いて得た――濡れ場を見て意識させちゃおう大作戦は成功のようだ。
裕誠は完全に、私のことを性的な目で見てしまう状態になっている。
言い方が悪かったかも知れないが、裕誠以外の誰かなら絶対に嫌だけど、私は裕誠にならそういう視線で見て欲しい。
だってそれは好きにつながるのかも知れないし、好きだと思われていない今の、最大値の愛と呼ぶこともできる。
先週みたいに、この映画みたいに、私を満たして欲しい。
だから今日、私はわざと胸を押し付けたりした。
先週の記憶に残る金曜日には、がっついて生で撫でたり、舐めたりしていたし、きっと、今、内心では触れたくて仕方がないだろう。
ここで裕誠が勇気を出してくれたら、私も深く考えずに応えて、一緒に一心不乱に遊ぶって言うのに……。
もしそうなったら、私は裕誠の―――を―――て、果てるまで―――しよう。
そうしたら裕誠は、私に―――してくれて、―――を――ながら――――をて……。
私が求めると、――――。
そして最後は―――で終わる。
二回戦は……。
………………。
…………。
……。
頭に理性が戻るころには、いつの間にか映画はエンドロールへと移り変わっていた。
裕誠との『愛』を妄想し過ぎたらしい。
私はスマホを閉じ、言葉を発せない様子の裕誠を元に戻すために、サボタージュの定番――テレビゲームをしようと呼びかける。
こくりと、頷きが返ってきた。
いちいち動きが可愛くて、死んでしまいそうだ。
その後レースゲームをしていると、気がつけば裕誠は調子を取り戻していた。
私は自分のアピールを忘れられている気がして、早く次なる作戦を敢行しようと思うのだった。