第3話 少し違う一日
翌日――土曜日の午前中に自宅に帰った俺は、休日の二日間を何もせずに過ごした。
そして月曜日の朝、俺が最寄り駅のプラットホームで電車を待っているとき――。
トントン。
背後から肩を叩かれて後ろを振り返ると、にこやかな顔をして胸の前で手のひらを見せてくる真結がそこにいた。
「おはよ、裕誠っ。奇遇だね」
「真結か、おはよう」
「真結か――ってどういうこと? 私じゃ不満?」
頬を膨らまして、怒っていると主張してくる真結。
そこまで癪に障る言葉だったのか――と、俺は焦って言い訳する。
「別にそういうわけじゃ……」
「いやいや、嘘だから。そんなんで嫌な気にならないし、揶揄っただけ」
「なんだよそれ――」
軽口を叩きあって過ごす日々に、楽しさを覚えていたことを思い出した。
やっぱり、俺たちに痴情のもつれは必要ないな。
たったひと時の過ちだ――。
そう割り切っていたのに……。
「おっす、裕誠。今日も一瀬ちゃんと一緒に登校か?」
去年の入学初日からの親友――中務直斗が、教室に入る俺を見るや否や、話しかけてきた。
直斗は少しウザいところもあるけど、性根から良いヤツだ。
でも、今は余計なことに口を出されそうで内心ひやひやする。
自席に行けばいいのに、直斗と会話するために立ち止まった俺の隣にいようとする真結がいるから、なおさら怖い。
「二人ともそんなに仲良いなら付き合えばいいのに――」
案の定、直斗は言いやがった。
前までなら「何言ってるんだよー」と返したのだが、今はそんなことできない状況。
真結の気持ちを知っているのに、堂々と否定するなんて、するはずがない。
しかし、真結は何も怖けずに、けろっとして応える。
「無理だよ。裕誠は私のこと、付き合うとかそんなのでは見てないし」
「お……おう」
一部分がわざと強調して言っている気がしたが、考えすぎないようにしよう。
多分、気のせいだろうし……。
「一瀬ちゃんがそう言うなら、そういうことにしておこっかな」
直斗はそう言ったが、絶対に裏に何かあると思っているに違いない。
まあ、100%予想通りではないが、実際に情事のうんぬんはあったのだが、間違っても言えない。
もし言ったら、真結好きの男子たちから大バッシングを受けるだろう。
通学は家が近いからで許されるが、『シた』は家族であっても許されないのは当たり前だ。
俺たちからは何も出ないと理解した直斗は、教室一番前の自席へと戻っていった。
「裕誠、あのことは秘密でね――」
「そりゃそうだ――」
こそこそ声で念を押す真結は、不思議と微笑んでいる気がした。
/ / /
放課後になり、真結が俺に近づいてきた。
今日は週に三日だけ(月、水、金)の文藝部がある日だ。
「部室行こ、裕誠」
「あぁ、ちょっとだけ待ってくれ」
「分かった」
その後、文藝部の部室に到着した俺たちは、先に着いていた二人の先輩の対面に座った。
ちなみに、この文藝部はここにいる一年生、二年生合わせて四人しか所属していない。
あと、時々顔を見せてくれる三年生がいるぐらいか。
先輩のうち男の方の松原理玖先輩は、ノートパソコンで小説を執筆している。
将来はミリオンセラー作家になりたいのだとか。
今年の文化祭で作った小説同人誌の作品を見ても、頭ひとつ飛び出た完成度で、松原先輩の言うことが本気なのだと伝わって来る。
他三人は、持ち込んだ本や部室にある本を読んで、時々内容を交流しておすすめし合うという活動内容だ。
部活のこと以外も駄弁ったりできて、程よい部活で入って良かったと実感する。
「二人、なんかいつもと違くないですか?」
部活開始から一時間が経ったころ、文芸本(たぶんBL作品)に栞を挟みながら、高崎翠部長はそう言った。
「確かに僕もそんな気がする」
松原先輩も共感した。
俺が真結の方を見ると、ちょうど真結も俺を見てくるところだった。
そして見つめあって、絶対にあのせいだよな――と目で会話する。
「まさか……」
高崎部長が恐る恐る聞こうとしてくるから、本当にバレてしまったんじゃやいかと不安になる。
学校で過激な本を嗜むぐらいだし、圧倒的に観察眼でこれぐらいバレてしまっても不思議ではない。
「――ケンカでもした?」
「なんだ……」
「なんだとはなんだ」
つい俺から漏れ出てしまった言葉を不審がる高崎部長。
「つまり違うのか? わたしはそう思ったんだが」
「私と裕誠はケンカなんてしません。言い合うだけです」
真結はよく分からない反論をする。
すると、次は松原先輩が考えを話し出した。
「これはあれだ。男女が付き合って、初日だから恥ずかしいから秘密にしておこう――とか言いながら、秘密の関係を楽しもうとしている最中だ」
「いや、それは中学校で理玖が好きな女子に告白したときの、拒否された理由でしょ……」
「それは言わない約束だろ――」
松原先輩の過去が勝手に暴露された。
二人は同じ中学校だと前に聞いたから、それで互いのことは色々と知っているのだろう。
「松原先輩も大変そうだね」
「ああ、そうだな」
残りの部活時間は、昔の松原先輩の話で盛り上がった。
口が止まらない高崎部長を見て絶望しているが、そのおかげでか、俺たちの変化の話はうやむやになった。
俺は良かったと安堵する。
でも、しっかりと取り繕っているはずなのに、直斗も、先輩たちも、俺と真結がいつもと違うと気づいていた。
あのことが、想像以上に俺を変化させてしまったのだということだろうか……。
第一、自分自身でそれを理解できていないことに、気持ち悪いなと思うのだった。
◇あとがき◇
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
アレな描写が多い作品になりますが、二人の関係を語るには必要な要素なので、それも含めて楽しんでもらえれば幸いです。
まだまだ序の口ですけどね……。
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