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第2話 好き

 事後、置きっぱなしだったピザの空箱や炭酸の抜けたコーラを始末して、今は交互にお風呂に入っているところだ。

 俺はすでに入浴を終え、真結が戻ってくるのを待っている。


 勉強机の一番下にある引き出しに、自然と目線が向いた。

 ここからコンドームの箱が出てきたことを思い出すと、真結がそれだけ用意周到に計画していて、それだけ俺を好いてくれていると思い知らされる。


 しかし、俺は真結のことを好きなのかが分からない。

 さっきの行為が嫌だったと言えば嘘になるし、真結だから良かったのかなんて知り得ないけど、アレはとてつもない快楽だった。

 だから、俺は真結の気持ちを騙しているような気がして、それに、愛を伴わない行為をしてしまって、申し訳ない感情でいっぱいになる。


 ――トントン、ガチャ。


 ドアを開けた真結が、俺を視線で貫いてくる。


「裕誠、ごめんね……」


 第一声は意外なものだった。


「なんで謝るのさ。何にも悪いことなんて――」

「――だって、裕誠は私のことを好きじゃないでしょ」

「いや、好きだよ」


 さっきの反省なんて忘れ去ってしまって、行為に正しい理由を付けるごとく、こもってない愛のセリフを告げる。

 でも、そんなことは真結には通用しない。


「それは、友達――幼馴染としてでしょ。男女の恋愛じゃなくて」

「……」

「お風呂で考えたの。取り返しのつかないことをしてしまったなって――」


 俺は言葉を返せない。


「元々あわよくばと思って裕誠を誘ったけど、裕誠が私のことをそういう目で見てないっていうのは分かってた。だから、結局しないつもりだった。

 なのに、裕誠が幼馴染とは何にも起こらないとか言ってて、私は無性に抗議したくなった。で、一度言い出すと止まれなくて、裕誠を襲うみたいになった。

 セックスする時に、私がいくら好きって言っても、裕誠は好きって言わないし、ただの性で動いてるんだって……、両思いじゃないとは理解できた。

 でも、私は裕誠に付け込んで、最後までしちゃった――。

 裕誠、こんなことして、ごめん」

「そんなことないよ」


 俺の掠れるような弱い肯定は真結には届かなかった。


「私が裕誠のことが好きなのは本当だから、これだけは言わせて……。

 好き、付き合いたい――」


 真結の瞼から、涙が零れ落ちる。


 なんで、そこまで自分で決めつけちゃうのかよ……。

 俺は真結の飛躍しすぎた考えに、端的に言えばイラついてきた。


「真結――」

「……ん?」

「俺は確かに真結が好きとは断言できない。でも、嫌いでもないんだ。真結が好きかどうかが分からないんだよ」

「……なにそれ」


 確かにこの言葉で、真結の心が軽くなるとは到底言えない。


「真結とこんなことをしたのは、俺がしたいって思ったからでもあるんだ。だから、自分ばっかり否定するなよ」

「……」


 自分で言っていてなんだが、好きじゃないけどシたいって、かなりのクズ発言ではないか――?

 まあ、細かいことは気にしてはダメだ。


「これはお願いだ。今日までのままとは言わないけど、俺から離れるなんてことはしないで欲しい」

「うん……。わかった」


 涙を袖で拭きながら、真結は弱い声で応えた。


 その後泣き止んだ真結と俺は、何事もなかったかのように取り繕って、テレビゲームなどで時間を過ごしていった。



 そして、明日は土曜で学校がないから夜更かししても良いのだが、午後11時ぐらいに就寝することになった。

 どっちから言う訳でもなく、二人は同じベッドに入る。


 俺はこれが信頼し合った証拠だと実感して、思っていることを真結に伝えて良かったと感じた。

 まぁ、こんなことを言った手前、真結と再びそういうことが出来ないのを不満に思ってしまう俺が辛いのだが。


 初めての経験に疲れたのか、俺はすぐに眠りについた。


   / / /


 私は、真隣ですやすやと眠る幼馴染――東郷(とうごう)裕誠のことが好きだ。大好きだ。

 さっき一度だけこの恋を諦めようと考えてしまったが、裕誠の優しい言葉で、そんなことは出来なくなった。

 そう、これは私を本気にさせた裕誠が悪いのだ――。

 無防備に同じベッドに来てくれるのも、純粋すぎて悪い人に騙されないか心配になる。


「可愛いね、寝顔も」


 四時間前にキスした唇に、私は目を奪われる。

 ここで理性に負けてキスをしてしまうと、裕誠からの信頼は地に落ちるだろう。

 そんなことは耐えられないから、私はなんとか欲望を抑えつけた。


「はぁ、裕誠っっ……」


 代わりに、今までずっと裕誠だと思って抱きしめ続けたアザラシのぬいぐるみを抱擁する。

 いつか私の腕に、自分から入ってきてくれる裕誠を拝みたい。

 さっきのように、欲求に忠実に縋って私を求めてくれた裕誠をもう一度、いや何回でも見たい、味わいたい。


「へへっ――」


 想像するだけで、よだれが出てしまう。


 どうやら裕誠は私の胸に興味を持っているようだし、なんと言っても、私は裕誠がそういうことをされるのが実は嬉しいと知ったのだ。

 これからは、積極的にアプローチしていくしかない。


『今日までのままが良い』


 でも、そんなことを認めてしまったから、最終的には裕誠から手を出させないといけない。

 私から出して嫌われるのは避けたい――最悪のパターン。


 ひとまず、据え膳作戦とでも銘打ってみようか。

 それで裕誠の心が私に傾くかもしれないのだから、やってみる価値は有り余るほどだ――。

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