第16話 デート前日、欠席
定期テストは何事もなく終わり放課後になり、教室は異様にうるさくなった。
四条にパフェ食べに行こう、だの。
有名スポ根映画を観に行く、だの。
明日――つまり勉強をする必要もない土曜日について、みんなが談笑している。
まぁ、俺はその土曜日に堀内とデートをすることになっているのだが……。
でも俺は静かに、ただ一つの机を眺める。
今日、真結は学校を欠席しているようで、ずっと気になっていた。
昨日までの真結を見ていると、俺のせいではないか――という考えに至ってしまう。
99%そうなのだろうが。
すると、気がつけば隣に来ていた堀内に脇腹を突かれた。
「堀内、なんだよ――」
イタズラされたと思って、抗議の意を込めて怒りっぽく言った。
だが、堀内の顔に覇気はなく、なんだか元気がない。
俺が困惑していると、堀内は口を開いた。
「東郷くん、今日真結ちゃん休んでるよね」
「あぁ、そうだな」
最近は名前を呼び捨てにしていたのに、なぜか『ちゃん』を付けていたのを不審に思いながらも、俺は相槌を打つ。
いつでも元気な性格のせいか、顔は暗いのに口調は明るい気がする。
それにしても、明日のデートの話よりも真結の話をするなんて、一体全体どういうつもりなんだろうか。
「もしかしたら――。もしかしたらなんだけどね……」
すごく念を押してくるから、余計に内容が気になってしまう。
「真結ちゃんが学校休んだの、わたしのせいかも知れない――」
「ぇ……? なんでそんなことが言えるの?」
「実は……」
堀内はスマホを差し出して、トークアプリの画面を見せてきた。
左上の名前を見ると、真結とのトークらしい。
昨日の夜9時ごろに堀内が『あさって東郷くんとデートしに行くの。いいでしょっ』とメッセージを送った記録が残っている。
「わたし、真結にどうしても勝ちたくて、昨日、こんなメールを送っちゃったの。でも既読スルーで、今朝やっと返信が来たと思ったら、適当な返事だった……」
『がんばって』――。
ただそれだけのメッセージが届いていた。
そしてその後、堀内が追加の言葉を送っているが、それ以降、返信は一通も返ってきていない。
「だから、これが真結ちゃんの気を悪くさせちゃったのかな――って」
「なるほど……」
確かにそれはあり得るかも知れない。
でも、俺も口にこそは出さなかったが、堀内と二人でいると、真結からは暗い目をされていた。
それなら、俺も充分に悪い。
「それでも、堀内だけが悪いんじゃないし、俺のせいでもあるから」
「でも……」
「俺が優柔不断だから、真結も嫌になっちゃったんだ」
「そうさせたのはわたしだから……」
このままでは話が収まらない。
だから、自分のスマホを取り出した。
「俺からも連絡してみるよ――」
俺は『真結、大丈夫?』と当たり障りのないように気を遣って送信した。
意外にも返信は早かった。
『大丈夫だから、由樹とのデート楽しんできて』
『今日学校を休んだのは、そのせいか?』
『裕誠も由樹も悪くないから、沸き立つ感情をどこにもぶつけることができない』
そこはかとなく、真結の涙目になっている姿が想像ついた。
だから俺は、思わずこう送るのだった。
『今から真結の家に行かせてもらうから』――。
「俺、真結の家に行ってくるよ」
堀内にそう宣言して、荷物をカバンにまとめ始める。
さすがの堀内も真結が心配なのか、俺を止めることはなかった。
真結の返事を聞いていないことは、すっかり忘れてしまっていた。
/ / /
真結の家の前に着き、インターフォンを鳴らした。
…………。
……。
しかし伝わっていないのか、玄関に誰も来ない。
真結の部屋からだけ、一筋の光が漏れていた。
俺は真結に電話を掛ける。
「もしもし、真結?」
「裕誠、私の家の前にいるよね」
「あぁ、そうだ」
「今、顔見られたくないの――」
泣いた後特有の喋りにくそうな声をしていて、それが会いたくない理由なのかと思案する。
「対面で会って、真面目に話し合いたいんだ」
「最近はいつも、由樹と遊んでるのに……」
いちばん言われたらまずいことを言われてしまった。
しかし、俺はここに来るまでに考え出した結論がある。
「ちゃんと考えたんだ。俺の気持ちがなんだったかを――」
「ほんとに?」
「本当だ。だから聞いて欲しいんだ。直接話したいんだ」
俺は今までで一番、真剣な声で言った。
それが真結に伝わったのか、家の中から階段を降りる音が聞こえた。
真結は学校を休んでまで、俺のことを考えてくれている。
でも、俺は曖昧なんだと自分に言い聞かせて、普通の選択肢だからと自分に言い聞かせて、堀内とばかり接していたのだ。
少し考えれば、それが良いことか悪いのことかは分かっていた。
そして、これからどうするかはもう決まっている。




