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第15話 二人きりの勉強会

 日は過ぎていき、金曜日になった。

 月曜日の放課後、文藝部での真結は、先輩たちが不思議がるほど俺と何も喋らなかったし、水曜日からは定期テスト前で部活が強制的に休みになって、余計に話す機会もなくなっていた。

 そして今日になっても、真結とろくに会話もしていなくて、俺のそばにいるのは堀内になっている。


 そして今、俺は放課後の教室にて、堀内と二人で机に教科書やノートを広げ、テスト勉強をしようとしていた。

 テスト前の放課後に残ることが全くなくて知らなかったが、意外にも周りに生徒はおらず、全員帰ってしまったらしい。

 誰か一人ぐらいは居るかと思っていたから、堀内と二人きりになってしまって驚きがある。


 すると、俺の対面に座っている堀内が喋り出した。


「東郷くん、どうしたのっ? 手が止まってるけど――」

「あぁ、大丈夫……」


 考え事をしていたせいか、数学の問題集に手から滑り落ちたシャーペンが転がっていた。

 俺はそれを拾い上げて、次の問題を考えていく。


 …………。

 ……。


 どういうことだ――?

 意味不明な記号と数式たちを見ると、頭の中が混乱してくる。


「もしかして、この問題が分からないとか?」

「まぁ、そうだな」

「じゃあ、私が教えてあげるよっ――」

「ぇぇ!?」


 堀内の言葉に、俺は驚いて困惑の声をあげてしまった。

 そもそも堀内は数学ができるのか?

 申し訳ないが、見た目だけを見ると勉強が苦手そうだ。


「今、わたしに失礼なこと考えてなかったっ?」

「いや、そんなことない……けど」

「別に良いんだけどね。よくそう思われるし」


 思考が読まれたから、俺は教室のどこかに隠しカメラでもあるのではないかと探してしまう。

 それに、そんな卑下されると申し訳なくなる。


「こっちからじゃ教えにくいからさ、向こう行っても良い?」

「良いけど――」


 俺が応える前から立ち上がっていた堀内は、俺の左隣に椅子を置いて、そこに座った。

 幅10センチの、肩と肩が触れ合いそうなほど近い距離感に俺はドギマギしてしまう。

 真結とはもっと近くで触れ合っているのに、なんだかこれくらいが心地よい気がした。


「じゃあ、図形を描いてみるね……」


 堀内がノートの端に三角形を書き始めた。

 ときどき堀内の右手が、不意に俺にぶつかってくる。

 今から教えてもらおうとしている身で、邪魔とは言えなくて耐え続けるが、わざとかと思ってしまうほどだった。



「これで、sin(サイン)がでたよね……」

「なるほど――」


 堀内の授業は、先生の何十倍も分かりやすかった。

 話すたびに俺の顔を確認してきたり、正解すると手や肩を触られたり、身体同士がぶつかったりして気が散ってしまうけど、それ以外は完璧だった。

 俺のことを好きって言ってる女子が、そんなボディタッチをしてくるなんて、なにか策略があるのだろうと考えてしまうからなおさらだ。


「堀内って、こんなに勉強できたんだな」

「へへ、すごいでしょ」

「なら、みんなに数学とか教えてあげたら良いのに……」


 そうしたら感謝されるし、信頼を集めることもできるのに――。


「わたしは本当に仲良い人にしかしないって決めてるのっ」

「それはなんで?」

「みんなの成績が高くなったら、わたしは困っちゃうからね――」


 自信満々に言う堀内は、なぜだか嫌味には思えなくて、ただ凄いや尊敬の念が生まれる。

 それは堀内の性格も関わっているだろう。


「そうだっ。東郷くん、お菓子食べようよ」

「お菓子……?」

「そう、持ってきたんだっ」


 そう言って鞄を漁りはじめた堀内は、ポッキーを取り出した。

 そしてまた、ここが定位置だと、俺の隣の席に戻る。

 堀内は袋を開けて、中身を一本食べた。


「はい、東郷くんも」


 袋をこちらに向けて差し出してきて、俺は一本取り出した。


「ありがと」

「どういたしましてっ」


 それから俺は再び問題を解き始め、堀内はお菓子を食べながらサポートしてくれる状況が続いた。

 途中、問題を解いている最中にポッキーを俺の口元に差し出されて、シャーペンを動かしながら食べるということもあったが、それ以外は為になる時間になった。

 堀内との勉強会は、平和に楽しく終わった。

 今日は、真結を裏切るようなことはなかったと安堵した。

◇あとがき◇

 次回から、話がかなり動きます。

 あと5話ぐらいで完結します。

 お楽しみに――。

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