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第14話 純愛ラブコメの初めの方

 月曜日の朝――。

 俺はいつも通りの時間に学校に着いた。

 先週までなら横に真結がいたのに、今はいない。

 土曜日のあの後、真結は暗い顔をしていたから、そのせいか。

 そんなことを考えていると、近頃は真結に遠慮していたのか、あまり絡みに来なかった直斗がやってきた。


「裕誠。最近は真結ちゃんと登校してると思ったら、今日はどうしたんだ?」

「まぁ、色々だよ……」

「まさか、振られた――とかっ」


 振られるなんてあり得ないと思ってるからこそ、そう言ったのだろう。

 でも、あながち間違いではない。

 だけどここで答えれば、余計な勘違いを生むに違いない。


「どうだろうな」

「ぇ……。なんか、ほんとにすまん……」


 直斗が両手を合わせて結構な声で謝ってくる。

 そんなに言われるほどじゃないんだがな――。

 その時、誰かに肩を叩かれる感覚があった。


「東郷くーんっ」


 背後から声が聞こえて、顔も見えないのに誰か分かった。

 一昨日聞いたばかりで、頭にこびりついている記憶が言っている。


「堀内――?」


 と、振り返ろうとした瞬間。


 むにゅ――。


 俺の頬に、堀内の指が突き刺さった。

 よくみる原始的ないたずらだ。

 視界の端にかろうじて見える堀内は、こどもっぽい笑顔をしている。


「引っかかったね、東郷くん」

「堀内さんがそんなことするなんて、思ってなかったから」

「そう?」

「うん」

「でも、これからは沢山していっちゃおうかな」

「それは……」


 直斗が俺と堀内を交互に見て、不思議そうに眉間にしわを寄せる。

 視線がこちらを向いているのに気づいた堀内も、直斗を柔らかく睨みつけた。


「なんで、由樹ちゃんとお前が……」

「わたしが東郷くんと一緒にいたらダメなの?」

「そういうことじゃないけど、裕誠には真結がいて――」

「わたしも東郷くんのことが好きだからっ」

「はぁ?」「ちょ……」


 いきなりの爆弾発言に、直斗も周り人の一部も驚きの声をあげた。

 俺もまさかここで言われるとは思っていなくて、手を堀内の口に当てがう。

 が、すぐに堀内によって剥がされた。

 そして、俺の耳にこそこそと話される。

 距離は近いのに、堀内の心の中は分からない。


「東郷くんの読んでる本に、こんなシーンがあるんだって、真結ちゃんが言ってたのっ。今度再現してみようかな、とも言ってたなぁ――」


 フィクションじゃないと、こんな堂々と好きと言わないだろう。

 だからか、現実のこの状況が楽しく嬉しく感じてしまうのだった。


「好きバレってことだよねっ」


 それはニュアンスが違うと思う。

 そう突っ込もうかとした、その時――。

 俺の目線の先に真結がいた。

 ちょうど教室へ入ってきたところのようだ。

 真結はこちらを一瞥して、なにごともなく自席に座っていった。

 虚ろな目をしていた気がして、大丈夫か不安になる。


「東郷くん、どこ見てるの? わたしを見てよっ――」

「あぁ」


 手で顔を堀内の方へと向けさせられた。

 すごくありがちな会話なのに、この会話が心地よいと思ってしまう。

 土曜日の葛藤なんて忘れてしまうくらい、堀内にのめり込んでしまいそうだ。


「裕誠、オレには何がなんだか分かんない。でも、人を泣かすんじゃないぞ、とは言っておくよ――。好きなら、なおさらな……」


 直斗はそう言い残して去って行った。

 良い感じの女子(真結)がいるのに、他の女子(堀内)とつるむ、頭のおかしいやつだと思われていないかと心配になる。

 いや、実際にそうなのだが、まだ俺には正しい選択が判断できないんだ。


「でさっ、昨日スマホで見たんだけどさ――」

「うんうんっ――」

「でしょでしょ――」


 その後、堀内となんでもない話をして過ごしていると、朝のホームルームを告げるチャイムが鳴った。


「また話そうね」

「……」


 真結に見られている気がして、俺の気持ちどおりに応えることができなかった。


   / / /


 午前の授業は終了して、昼休みになった。

 最近は真結が俺の机へやってくるのだが、やはり今日は来ない様子だ。

 しかし、代わりにいつもと違う弁当箱が机に置かれた。

 少し見上げると、堀内が立っていた。


「来ちゃった。一緒に食べよ」

「分かった」


 拒否するのもなんだから、俺は二人で食べることにした。

 こういうのをはいはいOKしていくのは、真結に嫌がられるとは分かっているのに、目先の楽しさに着いて行ってしまうのはやめられない。

 堀内は俺の前の席から椅子を拝借して、俺と向かい合わせに座った。

 弁当箱の包みを解きながら、堀内が質問してくる。


「東郷くんの弁当はお母さんとかが作ってるの?」

「そうだけど。ってことは、堀内は自作なのか?」

「実は――」


 真結といい、堀内といい、料理の腕前があるのは凄いな……。


「――私は一切作ってないんだけどねっ」

「なんやねん」


 思わず突っ込んでしまった。

 それに面白かったのか、堀内が声を漏らすように笑った。


「あー、東郷くんは反応がいいねっ」

「そうか?」

「うんうん、凄くいいよ。見ていて楽しいぐらいっ」


 確かに言われてみれば、そうなのかもしれない。

 そして、俺たちは「いただきます」と言って食べ始めた。


「そうだ。二人でのデートは定期テストのあとでも良い?」

「ああ」


 デートぐらいしても、バチは当たらないはずだ。

 いや、堀内の思いにしっかりと応えれば、逆に褒められるようになるのだ。

 と、自分に言い聞かせる。


「あと、テスト勉強も二人でしようよ。デートのデモンストレーションとしてさっ」

「んー……」


 真結の悲しげな顔がちらつきながらも、今は堀内だけを考えようとする。

 土曜日だって、真結だけを考えてしたのだ。

 それの対象が堀内に変わるだけで、なにもおかしなことはない。


「わたしだけで考えて――」


 俺の考えが見えているのか、堀内に念を押されてしまった。

 こうなってしまえば、ノーの選択肢はない。

 でも、言葉にしようとすると、心の奥が痛む感覚がする。

 が、それ以上は考えないようにした。


「あぁ、一日ぐらいならいいぞ」

「やったっ」


 堀内が笑顔になる。

 純粋な愛から生まれる微笑みが、こんなにも綺麗だなんて知らなかった。


 その後は、朝では時間がなくて話せなかった話の続きをしたり、適当に会話を楽しんだ。

 いつのまにか、堀内のことしか考えないようになっていて、目の前だけを集中していた。

 好意を抱いてくれている女子と、お昼ご飯をともに食べる。

 ラブコメの本で見たような、楽しい学校生活そのものだった。

 こういう普通の幸せもいいな――と、心から思った。

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