第13話 嫉妬
その後、帰る途中、電車の中――。
クラスグループから繋がったのだろう、俺のスマホに堀内からのメッセージが届いた。
『今度二人で遊びに行くって約束、覚えてるよねっ』
約束はしていないが、そういうことにはなっていた。
俺が返信しないでいると、堀内から続けて着信が来た。
『もし真結のことで躊躇ってるなら、わたしのせいにしても良いよ』
『ゆっくり仲良くなってこっ』
ゆっくりって言葉に惹かれるのは何故か――。
堀内はその理由を知っているから、わざわざ俺にそう送ったのだろう。
俺も、隣の真結を見れば、なんとなく理解できた。
「裕誠、誰から?」
「お母さんだよ」
「どうかしたの?」
「今日は真結ちゃんの家に泊まるんだよねって確認だけ――」
「なんだ……良かった」
ここで本当のことを言う勇気は、俺にはない。
だから、真結のためにも秘密にしておく――と自分に言い聞かせた。
通学路とまったく同じ道を、見慣れた真結と一緒に歩いているのに、いつもと違う。
まっすぐ進行方向を向いていて歩く真結に、俺の手は握られた。
俗にいう恋人繋ぎだ。
真結の横顔を見ても、こちらを向く気配はない。
俺たちはそのまま、三叉路についた。
右に行けば真結の家で、左に行けば俺の家という分かれ道――。
しかし、真結は迷うことなく右に曲がっていく。
手が繋がった俺も、自然とそちらに歩くことになった。
「真結……」
「なに――?」
「なんでもない」
貫くように前しか見ない視線に、こっちを向いてほしくて出した言葉も、そっぽを向いて返されてうまくいかない。
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その後は一言も話すこともなく、俺は気が付けば真結の部屋にいた。
一か月前までは全く来る機会がなかったのに、最近はよく来ている。
そのときはいつも、あざとい笑顔や艶美なよがり声をみせるのに、今日は全くその気配がない。
今の状況が、そういうことをするべきなのか、はたまたただ話し合うべきなのか。
どうすればいいのか、分からない。
俺がどうしようかと棒立ちしていると、正面から真結に抱かれた。
弱々しくない、強い抱擁だった。
そして真結はキスをしようと、顔を上げて唇を差し出してくる。
「――っ!」
真結の目は少し潤んでいる気がした。
普段からは考えられないほど、訴えかけられるような顔に、俺は口づけで応えたくなる。
真結の悲しそうな顔なんて見たくない。
そう思考が支配された。
俺がひざを少し曲げて、真結の顔に合わせて身体を下げたとき――。
「ぁっ……」
真結に身体を押し込まれ、バランスを崩してしまった。
空中をふわっと浮遊する感覚に恐怖を覚える。
と、重力に引かれて、ベッドの上に叩きつけられるように落ちた。
少しの痛みを感じた刹那、俺は降ってきた真結に押しつぶされる形となる。
圧迫されて息がしにくくなっている。
俺が呼吸を整えていると、俺の顔の真上20cmに真結の顔がやってきた。
「私の家に上がったってことは、してもいいってことなんだよね――」
真結を怖いと感じてしまうほど、暗い声だった。
でも、確かにそんな約束を交わした覚えがある。
このまま真結に任せてしまう方が、俺も真結も幸せになれるのではないか――。
「ああ、そうだ」
「ん……」
真結の顔がゆっくりと近づいてくる。
そして、キスをした。
唇が離れることはなく、そのまま舌を入れられる。
二十秒ほど口内を舐られると、真結はようやくキスをやめた。
足らない酸素を欲して、二人は荒い深呼吸をする。
すると、真結は無表情で言う――。
「裕誠も、しろ」
命令なのに、声に力はなく、威圧感はない。
「……うん」
俺が首を縦に軽く振ると、二度目のキスが舞い込んだ。
言われたとおりに舌を入れると、真結の口は歓迎してくれる。
咥えられたり、吸われたり、いつもより激しい。
なのに、頭が真結の手で包まれたりして、可愛い攻めで思考がぐちゃぐちゃになってしまう。
やっとキスのし合いが終わると、真結は服を投げ捨て始める。
それを傍観していると――。
「脱いで」
と言われ、真結の変わりように戸惑いながらも拒めなかった。
そして、俺も真結も一糸まとわぬ姿になった。
行為が終わった――。
真結が「好き、好き、好き」と連呼して身体を抱きしめる姿は、異常だったけど不思議と守りたいと思った。
俺はそれに言葉で答えることはなかったのだが、いつか、言えるようになりたいと感じた。
「痛くなかった?」
「いや、大丈夫」
普通、男が言うようなセリフを言われた。
確かに、今日はずっと真結が優位に立ってしていて、激しいというよりも少し乱暴になっていた。
これが今の真結の感情なんだと痛感するほど、過度に力が強かった。
「ごめんね……。私、ちょっとイライラしちゃってて」
「……」
それが何故かが分かっているからこそ、おかしい真結を否定できなかった。
真冬の夜というのに暖房も付けずにいたからか、肌寒さを感じてきて、俺たちは散乱した服を拾い上げて着る。
そして、ベッドに座って何もしないでいると、真結が口を開いた。
「裕誠は、由樹のこと……好きなの――?」
その気まずい過ぎる質問に、俺はじっくり思案する。
でも、好きかと聞かれたら答えは一つしかない。
「いや、好きじゃない」
「じゃあ、将来的に付き合う可能性は?」
ないとは言い切れない。
堀内との恋が魅力的に感じられるのは事実で……。
だけど、それに『はい』と答えることは、今まで真結を否定している気がするし、さっきまでの俺を否定することにもなる。
だから――。
「人類だれでも、俺と付き合う可能性は0じゃない」
なんて、的外れの回答をした。
俺も意味が分からない――。
「ならさ、私のことは好き?」
堀内とあんなことがあるまでは、俺はこれに『はい』と言えただろう。
でも、俺の真結に対する気持ちは変わっていないのに、今はそう言えない。
堀内が俺に与えた影響は甚大だと実感した。
どっちの返事を選んでも、なにか違う気がして悩ましい。
また的外れなことを言おうか、と考えていると――。
「やっぱ、言わなくていい」
真結が話を終わらせた。
時計の秒針がうるさいと思うほど、静かになった。




