表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

ホノカ

とうとうフリーマーケットの日がやってきた。

会場の大きな公園に荷物などを運ぶために、前日から出品するものを玄関に出そうと思っていたが、ハナのせいで出来ず。

ハナは私がバタバタしているのを遊んでくれていると思って、一緒にバタバタするし、売り物の袋をうにゃうにゃ言いながら破ろうとする。

ちょうど来ていたタクミが翌日の朝に来て荷物を出すのを手伝ってくれるからと言うので、お願いすることにした。


タクミは最近、ハナの様子を見によくやってくる。

そして「うちにも飼いたいな」と言っている。


インターホンがなり、タクミが来た。

ただ、最近はインターホンなんか鳴らさないでいきなり「ハナいるか~」と言いながら入ってくるのにと思って出て行くと、そこにはタクミと一緒に見知らぬ若い女性がいた。


「彼女はホノカ。高校の同級生で今美術大学に通っている」とタクミがちょっと照れ臭そうに言った。

ホノカさんが小柄でとてもかわいらしい・

「ホノカ、これ俺のねえちゃん」とタクミが私を紹介する。


「始めまして、ホノカです」とぺこりと彼女は頭を下げた。


私も「初めまして」と照れながら挨拶をする。

でも、何故か少し胸がチクンとした。

この感情はなんだろう。

なんだか、大事な物を取られたような。

タクミが急にやってきてから、最初にはそんな感情はなかったのだけど、段々ミエコさんも含めて大事な家族になっていき、それをなんだか取られそうな気がしているのだと自分で気がつく。

しかし、そんな小さな感情はホノカさんの言葉で吹き飛んだ。


「お姉さん、すごくタクミに似ている!なんだか初めて会ったように思わないです。」と。


えっ・・・タクミってミエコさんに似ていても私に似ていると思わなかった。


「だろ、俺も初めて会った時に『ああ、この人俺に似ている。ねえちゃんなんだって』って思ったもんな」


「ねえちゃん」と言う言葉がじんわりと胸にしみこんだ。


それから、ホノカさん・・・いえ段々しゃべっているうちに「ホノカちゃん」になっていき・・・と一緒にハナに邪魔をされながら、玄関に運び出した。




そうしているうちに、会社のハイエースに乗ったノグチさんがやってきた。

先にヤマダさんの家に行き、テントやシートなどをとってきてくれていた。


みんなで荷物を積み込み、ホノカちゃんとタクミはまた後でのぞきに来るといって、二人で去って行った。


その後私は公園までノグチさんが運転するハイエースの助手席に乗ったけど何をしゃべっていいかわからず。

ノグチさんが

「弟さん?カッコいいね」と言ったのに

「ありがとう」と言ったきりだった。


公園では先にヤマダさんとサトウさんが先に来ていた。

子どもたちも一緒で元気に走り回っている。


みんなで一斉に用意をする。

ノグチさんも手伝ってくれた。

彼は、お母さんをショートステイに連れて行かないと駄目だからと、空っぽになったハイエースを運転して公園を出て行った。

また、終わるころに手伝いに来てくれるらしい。

忙しいのに申し訳ないと私が言うと、「いえ、いい気分転換になってこちらこそ嬉しかったです。独身のおじさんにはなかなか出来ない経験だから」と言いながら笑った。


フリーマーケットは大盛況だった。

サトウさんやヤマダさんが出した子供たちのリサイクル品もよく売れた。

ただ、ヤマダさんちは服のリサイクルではなく主にコウキ君のおもちゃだった。

「男の子の服は、破るし汚すし出せるものがないのよ」と言っていた。

それでも、コウキ君のおもちゃも好評だった。

小さい男の子たちが、コウキ君のおもちゃを物色するさまがとても面白くて、なんだか笑顔になった。


そして、私の出したパッチワークもよく売れた。

特にぬいぐるみや小さいマスコットなどはどんどん売れていく。

サトウさんが「もっと高い値段をつけてもいいのに」と言うけど、ずっと押し入れにしまっていた子たちだ。

たくさんの人たちの元に行ってほしかった。

買って行ってくれる人で「どこかでお店出しているんですか?」ときかれた。

お店は出していないと言うと「次にまたどこかで出店されるのだったら知りたいので、連絡先を教えてくれませんか?」と。

見知らぬ人に連絡先を教えるのを迷ったが、そういえば、ネットのフリーマーケットに出しているアドレスがあり、そこを教えた。


昼頃にタクミとホノカちゃんが来た。

サトウさんが「やだ、弟さん彼女いたの」と耳元でささやいた。


ヤマダさんとサトウさんはお弁当を作ってきているので留守番をしながら食べるよと言ってくれたので、タクミとホノカちゃんと一緒に出店しているお店のカレーを買って木陰で食べることにした。

意外な事に500円なのに本格的なカレーだった。

また家で作るのとは違う美味しさがある。


お店の少し年配の人が、「ここでお店出しているからまたお店の方にも来てね」と名刺をくれた。

ホノカちゃんが「おねえさん、また3人で一緒に行きましょうよ!」と言うのでうれしくなる。


この数か月、タクミやエミコさんと一緒に食卓を囲むようになっていたが、実は「外食」と言うのはまだした事がないのに気がつく。

今日は、初めての外食かもしれないと気がついた。

そういえば、母はどこにも連れて行ってくれなかった。

祖父母にも外で食べさせないでとずっと言っていた。

私の事を思ってだと思いたいが、母自身はたまに着飾って外でご飯を食べていた。


以前、祖母が「たまにはアカネと一緒にご飯でも食べに行ったら」とこっそりと母に言うのを聞いた事がある。

母は、その時「だって、アカネと一緒に行くと『可愛くない子』と思われて、アカネがかわいそうだもの」と言った。


こっそりと聞いていた私はその時に「私はかわいくないんだ」と何故母に似なかったのかと自分の容姿を呪った。


そんな思いにとらわれているとホノカちゃんが

「やだ~~!タクミとおねえさん同じ顔で食べている!すごく面白い!」と大笑いする。


「えっ?」とタクミとお互いの顔を見た。

ホノカちゃんは続けた。


「おねえさんって、タクミと一緒で面長の美人ですよね。私は顔が真ん丸なのでうらやましいです」と言った。


びっくりする。

そんなことを言われたのは初めてだったから。

面長なのと一重なのは父に似ていると仏壇の写真を見て初めてわかった。

そういえば、タクミも面長だし目は一重だ。

全体的にほっそりしていて、ミエコさんによく似ていると思っていた。


母は二重だった。

二重でない私の目の事をよく「かわいそうに」と言っていた。


仕事をするようになり家でずっと居て太っていた時と比べて、体重は落ちて目元は腫れぼったかったのが、幾分かはすっきりした。

埋没してたパーツが出てきたという感じだ。

自転車で毎日通勤しているので、筋肉もついてきてむくんでいた足などもすっきりとはした。

でも、「美人」とは程遠いとは思うが・・・。

ホノカちゃんに「美人とは言いすぎよ」と言うと「そんな事ないですよ~」とかわいらしく笑った。


食事が終わった後ホノカちゃんは私が作ったパッチワークの一つを選び、タクミが支払った。

「また言ってくれれば作るのに」と言ったのに「いやいやちゃんとお金払って買うよ」と言ってタクミが買ってホノカちゃんに渡すのが微笑ましかった。


サトウさんが横で「かわいいわね、彼女。負けたわ」とつぶやいたのが面白かった。


4時過ぎになり、出していた商品も少なくなり、他のお店も片づけるところが増えてきた。

ノグチさんがやってきてくれた。


残り少なくなったものの中から、小さいマスコットを一つ選んで買ってくれた。

「母がね、こういったのを喜ぶんです」と言っていた。


今日の売り上げを計算する。

こういったのはヤマダさんが得意だと言ってやってくれた。

意外といい金額になりうれしくなったし、ヤマダさんとサトウさんも生活費の足しになると喜んでいた。

ただ、サトウさんはアリサちゃんと一緒に時々他の出展のお店をのぞいていろいろと購入していたので、どうなんだろうとは思ったが。

ヤマダさんの息子の君もお小遣いをもらっていろいろと購入していた。


「いいね!こんなレジャーも!お金は入るし子供たちは遊べるし」とサトウさんが言うのでみんなで笑った。

そうか、レジャーなんだな。


帰りは朝とは逆に先にヤマダさんちによって、テントとかを降ろした。

その後に私を送ってくれることになったのだけど、ノグチさんが

「どこかでご飯食べて帰りませんか?」と言った。


どうしようか迷ったし、ハナがまっていると思ったが、今日はミエコさんがハナの様子を見に来てくれると言っていたので、そうしようかと思った。

もう、1日ずっと「初めて」が続き、結構疲れていて夕飯を作るのも買いに行くのも面倒だったのもある。


ノグチさんが「おしゃれな店は知らないので」と連れて行ってくれたのは、「そば屋」さんだった。

「ここは十割そばのお店でとても美味しいんです」と。


いろんな小鉢とセットになっているものもあり私はそれを頼んだ。

本当に今日は「初めて」が多い。




「お母さんは大丈夫ですか?」と聞くと


「ああ、今日は施設で預かってもらっているから」と。


ノグチさんのお母さんは、認知症だ。

普段は、デイサービスや訪問などを頼んでいるけど、たまにこうやってショートステイも利用しているのだと話してくれた。

どうしても仕事で遅くなったりする時や自分で限界を感じる時があり、こういったのがあるから自分の気持ちもなんとかなっていると。


「イトウさんは、いいですね。あんないい弟さんがいて。私は一人っ子だったから、母だけが親族なんです。相談できる人もいないし、今更母を抱えて結婚なども考えられないです」


とそばを食べながらノグチさんが言った。


私は「つい最近まで、私も一緒でしたよ」という言葉を飲み込んだ。


一緒ではない。

母は、ノグチさんのお母さんのように認知症ではなかった。

むしろ私の方が、母におんぶに抱っこの状態だった。


でも、ここ最近で思うようになったのは、そのような状態にしたのは、母自身であったのだとわかった。

私を言葉とかの檻で閉じ込めていた。


私は「大変ですね」と言ってそばをすすった。

そばは美味しかった。


「そうですね。でも、母がいないとやはり寂しいです。」とノグチさんもそばをすすった。


それから私たちは黙って食べた。

そばをすする音だけがした。


食べ終わったら、ノグチさんが会計を一緒に払ってしまった。

「駄目ですよ!」と払おうとしたら


「誘ったし、私も誰かとご飯を一緒に食べるのは久しぶりなんです。楽しかったからここは払わせてください」と言いさっさと払ってしまった。


楽しかったのかは、疑問だけど私もお店でこうやって誰かとご飯を食べたのは初めだ。

それも男の人と。

そして、一人で食べるご飯の寂しさは誰よりも知っている。


「ありがとうございます。お蕎麦美味しかったですよね」と言うとノグチさんは「そうでしょう!また機会があったらご一緒しましょう」と言った。


私は、ちょっとだけ迷ったが、頷いた。

そして、連絡先の交換をした。

私を送った後、会社に車を置きに行くというノグチさんを見送り家に入った。


ハナがミャーミャーと言って駆けてきた。

ミエコさんに「ありがとうございました。」とLINEを送るとすぐに返信が入った。

「ハナちゃん、賢かったよ~」と。


ハナを抱き上げ、そのふわふわした毛に顔を埋めた。


なんとも言えない感情が沸き上がってきた。

家族ってと。


スマホがまた鳴ったので、またミエコさんかな?と見てみると、フリマの連絡先にしているアドレスにメッセージが入っていた。

今日のお客さんだ。


『今日、買ったのをインスタにあげたら友達も欲しいって言ってます。またネットのフリマの方出展してくださいね』と。


私は、今日の売り上げを考えて、そしてハナの顔を見た。

拾った時よりかなり大きくなった。

ハナはもうすぐしたら、去勢手術をしないといけない。

その費用の事を考えた。

それともうすでにこれまでかかった病院代にも思いをはせる。


やってみてもいいかもしれないと思い始めていた。

ただ、今日は疲れすぎていた。


『また、出したら連絡しますね』とお客さんに返事だけかえしてもう風呂に入ってすぐに寝るのが今は一番だと思うとあくびが出てきた。


                          【つづく】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ