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ハナ

9月も終わりごろ、ヤマダさんとサトウさんが子どもたちを連れてうちにやってきた。

10月のフリーマーケットに出品するものを見て値段をつけて包装するために。

ヤマダさんやミエコさんも自分たちの子どもの小さくなった服を持ってきて出品する。


ミエコさんもやってきた。

タクミは、「そんなところに居れるわけないだろう。それにバイトだ」と言ってこなかった。


我が家に子どもがいるなんて初めてで、すごく新鮮。

でも、ずっと暗かった部屋が急に明るくなったようだ。

ヤマダさんの息子のコウキ君は、小学校3年生。

放課後は学童保育に通っている。

ただ、その学童は3年生で終了するらしい。

それが、今のヤマダさんの悩みだ。

一つ習い事をさせてその他は近所に住む旦那さんのご両親に頼む事になるようだ。

それも、どうやら悩みのようで。

私にはわからないけど、いろいろとあるんだとか。

安全のためにスマホも持たせようと思っていると言っていた。。


サトウさんの娘はアリサちゃん。

保育園に通っていてこの前の誕生日で6歳になった。

来年は小学生になる。

学童保育に通わせるつもりのようでヤマダさんにいろいろと情報を聞いている。


「女子会のようね~」とミエコさんが言う。


皆でたわいもない話をして、うちにある私の「作品」たちの品定めをする。

ところが

「やだ、これ素敵!」とかアリサちゃんが「ママ、アリサこれ欲しい!アカネチンに頼んで!」というのでなかなか進まない。

値段もどう付けたらいいのかとみんなで話していたらあっという間に時間が過ぎた。


皆でお昼ご飯を作り、午後からも延長という事に。

最近、いろいろと料理を作るようになった。

ただ、レパートリーは少ない。

この日は簡単に鉄板で「焼きそば」になった。

ミエコさんがサラダを作って持ってきてくれていたので、それと一緒に。


こんなに大勢で賑やかなご飯は初めてで、なんだか舞い上がってしまう自分がいておかしかった。


1人「男の子」のコウキ君は、「女ってうるさいな~」と言いながら焼そばを美味しそうに食べていた。

その時、庭から小さな鳴き声が聞こえた。


「ミィ~~」と。


アリサちゃんとコウキ君が見に行くと小さな子猫がいた。


「あれ?野良猫なのか?」とコウキ君が捕まえようとした。

子猫はすごい勢いで逃げた。


「残念、逃げちゃった」と二人が戻ってきた。


それから、ご飯を食べた後後片付けをして、今度こそみんなで値段を決めて、一つ一つ包装をして、うちの2階の空いている部屋に運んだ。


「申し訳ないけど10月までここにおいてね!」と言ってヤマダさんとサトウさんはそれぞれの子どもを連れて帰って行った。


ミエコさんはタクミが寄るというのでここでしばらく待つことにした。


「アカネちゃん、一人で寂しくない?」


「大丈夫です。以前はまったくの一人だったし。仕事も行っているから」


嘘だ。

最近は、こうやって誰かが来てくれたり、ミエコさんの家でタクミと一緒にご飯を食べたりした後は無性に寂しくなる。

以前は感じなかった事だ。


その時、また庭で猫の鳴き声がした。


「みぃ~~、みぃ~~~」と。


あらあらとミエコさんが言って、二人で見に行くと昼間にいた子猫だった。


「迷子でもなさそうね。親とはぐれたのかな?」


子猫はとても小さくてそして痩せていた。


「おいで」とそっと私が言うと寄ってきた。

抱き上げると、とても暖かい。

でも、小さく震えていた。


「どうしたらいいんでしょう?」

「まず、獣医さんに連れて行きましょう。それからあとは考えてみようか」とミエコさんが言う。


その時、丁度タクミがやってきた。

ミエコさんが

「いいところに来たわ。この子猫を病院に連れて行くから、車出してよ」


「えっ?」


訳がわからず目を白黒させているタクミをよそにバスケットに柔らかい布を敷いて子猫を入れて近くの獣医さんまで行った。


「うちも昔『ミィ』って猫を飼っていたのよ。その時の先生なの」


病院で子猫の様子を見てもらう。

痩せているけど大丈夫だと言っていた。

多分、母親と何かの事情ではぐれたのだろうと。


「この子猫はどうするつもりですか?」と問われる。


「うーん」とミエコさんとタクミが同時に言う。

「うちで飼ってもいいんだけど。もしかすると飼い主がいるかもしれないから、貼り紙出さないとね」


「じゃあ、私が預かります!もし、飼い主がいなかったら私が飼います」と何故か言っていた。

だって、この猫はうちに来て私を選んでくれたような気がしたから。

だけど、少し冷静になると不安になった。


それから、獣医さんでいろいろと飼い方の注意とか聞き、子猫用のミルクとフードの試供品をもらった。

追加で購入できるらしく、市販のでもいいよと言ってくれたけど病院ですべてそろえることにした。

またしばらくして、連れてきてくださいと言われる。

いろいろな検査をしてくれるのと予防接種をするそうだ。

子猫は雌で推定1ヶ月半だった。


帰りにホームセンターにより私が車で待っている間にミエコさんとタクミが猫用トイレと砂とベッドを買ってきてくれた。


ミルクを適温のお湯でとき、お皿に入れて与えてみると上手にペロペロと舐めた。

全部飲んでしまうとお腹が大きくなったのか、ベッドでくるっと丸くなって眠った。

かわいい!

ミエコさんとタクミも見ていてメロメロになる。

私もこんなに子猫がかわいいとは思わなかった。


「なんて、名前つけるんだ?仮になるかもしれなけど」とタクミが言う。


子猫はハチワレという白黒の猫で鼻の横にちょこっと小さい黒い点があった。


「ハナちゃん」


なんとなく答えた。


3人で顔を見合わせて「いいね~~」と言った。




何かあったら連絡してといって、二人は帰って行った。

当分、私が出勤の時はミエコさんが昼間に様子を見に来てくれることになった。

大人の猫だったら、あまり気にしなくていいけど子猫はいろいろと危険な事をするらしい。


二人が帰ってからしばらくすると子猫はいきなり起き上がり、トイレに行った。

結構、大きな音をたてて用を足して砂をかくと私の方にやってきた。

病院では、しばらくはトイレトレーニングが必要かもと言われたけど、どうやらこの子はちゃんと出来るらしい。


飼い主がいるのかな?と思ったけど獣医さんは状態や月例から見て多分野良猫の産んだ子だろうと言っていた。


子猫は小さい鼻をクンクン言わせて私の膝に乗ってきた。

温かいぬくもりを感じ、なんだかちょっとキュンとした。

母がいたら飼うのは無理だっただろう。

こんな小さな子猫だけど、1人じゃないという気持ちになった。


翌日、ミエコさんが預かってますという貼り紙を作って持ってきてくれた。

トイレがちゃんと出来た事を言うと

「あら、でもうちのミィも野良だったけどちゃんと最初から出来たわよ」といった。

警察にも届を出した。

私自身は出来れば、飼い主が現れないようにと思っていた。


1週間たって、子猫を連れて病院に行きうちいろいろと検査をしてもらうとお腹に虫がいる事がわかる。

もう間違いなく野良だったんでしょうと先生が言った。

飼い主も現れていない。

駆虫をしてから、それからしばらくしてワクチンも打ってもらった。


駆虫後はちょっと大変だった。

正直、後からでも思い出したくもないぐらい。

悲鳴の嵐だった。


子猫は1ヶ月経つとかなり大きくなった。

子猫用の離乳食もよく食べた。

足取りもしっかりしてきて、よく走るようになる。

狭いところに入って困った。


ヤマダさんちのコウキ君やサトウさんちのアリサちゃんが、子猫が見たくて、たまにやって来たけど、ハナはどうやら子どもが嫌いで、すぐに2階に逃げて行った。


私の生活は一変する。

朝、出ていくときに鳴かれて出ていきにくくなる。

帰る時は一直線に帰り、「ただいま!」という。

鳴きながらハナが出てくると抱き上げる。


「ただいま」と言える相手がいる事のうれしさを感じた。


ミエコさんやタクミもハナを見によくやってきた。


数か月前、お金がつきそうなのに何も考えずにいた暮らしが一変した。

そして意外と猫を飼うのはお金がかかる事に気がつく。

ペットフードはもちろん病院代も結構な金額だ。

今後、かかる費用についても考えてみるととても以前の私には飼えなかった。

何のために働くのか?それの答えでもあるような気がする。

比べたら駄目かもしれないけど、少しヤマダさんやサトウさんの気持ちがわかったような気がした。

彼女たちは大事な「家族」のために働いているのだと。


「ハナちゃん」と呼ぶと

「みぃ~~!」と言って嬉しそうに駆け寄ってきた。


10月になった。

いよいよフリーマーケットに出店する週が迫ってきた。

ヤマダさんとサトウさんといろいろと会社で打ち合わせをしていたのだけど、少し困った事が起きた。

ヤマダさんはファミリーカーの大きな車を運転してその車でテントとかを運ぶつもりだった。

でも、ちょうど車検になり代車では全部のものを運べなくなりそうだと。

忘れていてごめんと謝った。


サトウさんの車も小さく、タクミやミエコさんの車も小さく分散するとしてもテントなどをつめない。

そんな時に後ろから声がした。


「会社の車を借りてみたら?」と。


ノグチさんだった。

ただ、会社の車はミッションでサトウさんもノグチさんも運転が・・・と言うと

「僕が運んであげるよ」と言ってくれる。


ありがたく協力してもらうことにした。

お母さんは大丈夫なのかと聞くと、その時は丁度ショートステイに預けているから大丈夫だと言ってくれた。


会社の社長も快く貸し出しを許可してくれて、お願いすることにした。

私はノグチさんに「お願いします。助かります」というと


「僕で良かったらいつでも大丈夫です」と笑顔で言った。


サトウさんがこっそりと

「ノグチさん、アカネチンにやさしいじゃん。気があるのかもよ」といった。


私は、ノグチさんの顔を思い浮かべそして頭を振った。

あり得ないわ。と。

決してノグチさんの事が嫌だという事じゃなく、私を誰かが好きになってくれるなんてありえない。


すぐに仕事になりその事はすぐに忘れて行った。

そして、今日も家で待っているハナの事を思い早く帰ろうと思った。


                          <つづく>


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