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ミエコさん

私はそのタクミの「にやり」を見て嫌な予感がした。


「さてっと、手始めに家の中見せてくれる?」

とタクミは家にずんずん入ってきた。


「あっ、勝手に入らないでよ!」という私の言葉を無視しタクミは入ってきた。


台所を見て、リビングに入る。

「なんだ、これ!」


タクミが言ったのも無理はない。

部屋の中には、

所狭しと「人形」が置かれてあったから。


「なんか気味悪いな~。これあんたの趣味?」


「違う。全部ママのよ」


母は「ビスクドール」のコレクターだった。

アンティークではなく、お気に入りの日本人作家の作品を集めていた。




タクミが言う。

「そういえば、ここまでビラビラじゃないけどあんたの服もこの人形のような服だな」


私は改めて自分の恰好を見た。

これらは、母が買ってきたもので、実は自分で洋服を買った事がない。

なので母が亡くなってからは、洋服はおろか下着なども買わなかった。

それと母は、年初めに下着を買ってきていた。

なので、ここ数年その新品が残っていたので買い替える必要がなかった。


「あんた、その服もこの人形も好きなのか?」とタクミが言う。


私は、正直その時「初めて」自分の好きな物を考えた。

服は着れるだけで良かった。

趣味と言えば、パッチワーク。

お気に入りのパターンは、派手な物ではなく色味を抑えたシンプルな物。

「違うと思う」


人形も実は怖かった。

綺麗だし、かわいいとも思うけど。

子供の頃はぬいぐるみが好きだった。

でも、母がぬいぐるみはダニがつくからと買ってくれなかった。

母が亡くなった今は自分パッチワークで作るようになった。

それが、今一番楽しい。


そうタクミに言うと

「了解」

と言って、タクミは人形たちをスマホで写真に撮り始めた。


「そういえば、あんたスマホ持っている?」


「持っていないわ。だって必要ないってママが言うから」


「けっ、ママ、ママってあんたいくつだ。ただ、今から契約するにしても無職だからな。一旦働き始めてから契約しに行くか。よし、全部撮れた。これ以外もあるか?」


私は、少し戸惑ったが私と母との寝室だった部屋に案内した。

そこにもかなりの人形があったからだ。


そこの人形の写真も撮り終えたタクミは言った。


「まず、働くにしてもその恰好をなんとかしないとな。出かけるから用意して」と。


私は、何故タクミに従うのかよくわからなかったが、家にかぎをかけ外に出た。


家の前には古い軽自動車が止まっていた。


「乗って」と言われ素直に乗ってしまった。


運転しながらタクミが言う。

「今、写真撮った人形は全部『フリマ』に出すから。売れたら全部親父が作ったあんたの口座に入るようにする。そういえば、あんた今現金持ってる?」

「5000円ぐらいなら」と。


「仕方ないな~。じゃあちょっと寄ってからだな」


それからしばらく車を走らせてタクミはある一軒の家に寄った。


古い家だった。

でも、なんか懐かしいような気もした。


「ただいま~。母さんいる?」玄関先でタクミが言う。


「あら、おかえり」と言って出てきたのは、年の頃は40代後半の女性だった。


「連れてきた」とタクミが私を指さして言う。


「あら、アカネさんね。私はミエコ。あなたのお父さんと夫婦でした」


この人が、父と再婚した人か・・・と驚きながら見る。


タクミによく似てほっそりとした人だった。

そういえば、母もほっそりとしていた。

ただ、私自身は誰に似たのかずんぐりむっくりで、母がよくため息を漏らしていたものだ。

「アカネちゃんに、似合う服は難しいわ」と。


「さあ、あがって。そしてお父さんに会ってあげて」


私は「お邪魔します」と言って家の中に入った。


仏壇のある部屋に通された。

写真が飾ってあった。


「お父さんよ」とミエコさんが言う。


写真をよく見ると、その男性は「私」によく似ていた。

うちの家には父の写真が一枚もない。

初めて見る「父」だった。

「私がこの人と知り合った頃は、お姑さんは亡くなった後だったの。なんでも自分の思い通りにしないと気が済まない人だったそうよ。あなたのお母様は、かなり辛い思いをされたみたい。でも、この人はまったくお母様をかばわなかった。あなたを連れてこの家をお母様が出た時も、自分の母親の方が正しいと思っていたみたいね。でも、母親が亡くなってから気がついたそうなの。自分はものすごくひどい事をしたのじゃないかと。ずっと謝りたいと思っていたらしいけど、あなたのお母様はそういった謝罪もあなたに会う事も拒否したんだって。一旦ついた心の傷はなかなか癒えないものなよ」


ミエコさんはそう言って一旦言葉を切った。


「私と出会った頃のこのひとにアカネちゃんはなんだか似ているわ。自分の「意思」を心のどこかに隠しているような感じね」


私はミエコさんの言葉を聞きながらぼんやり考えていた。

父に似ていた私。父の写真の横に祖父母の写真があった。

父は祖母によく似ていた。

その二人に似ていた私を母はちゃんと愛していたのだろうか?

『なんでも思い通りにしないと気が済まない』姑に私を通して復讐をしていたのではないのだろうか。

そんな思いがふと心の中に沸き上がった。

私は、頭を振った。

いや、そんな事はない。

母はいつも「アカネちゃんが一番大事。アカネちゃんの為ならママはなんでも出来るわ」と言っていた。


「なあ、母さん。服ってそんなばっかりみたいだ」

タクミが言ったので我に返った。


「そうねぇ。確かにこれじゃあね。私の服はサイズが合わないようだし、今から買いに行こう!」

ミエコさんはそういうと、タクミに車を出すように言って、後ろの座席に私と一緒に座った。


「ねえ、アカネちゃんは自転車に乗れる?」


「いえ、乗れません。母が危ないというので」


実は、練習をしたことがあった。

祖父が、誕生日に子ども用の自転車を買ってくれて教えてくれようとしたのだ。

でも、何度か転んだ時に血相を変えた母が来て祖父を止めた。

「自転車なんて乗れなくても困らないし、乗らない方が安全よ!」と。


それから、祖父も教えてくれず結局、祖父が買ってくれた自転車は、雨風にさらされてゴミとなった。


「じゃあ、練習しなくちゃね」


ミエコさんは、嬉しそうに言った。


車を数分走らせたところに「ユニクロ」があった。

入るは初めてだ。


タクミとミエコさんはひそひそと相談して、私に言った。

「まず、動きやすい格好にしなくちゃね」


数着のパンツやトレーナーを出してきて、私に「選ばせた」

どれもデザインはシンプルなもので、試着するととても動きやすい。

私は、服を自分で「選ぶ」事を初めてした。

今まで、パッチワークの布などは自分で選んでいたが、たまに母からの横やりが入る事があった。

「地味すぎるわよ」と。

母が亡くなるまでこういった手芸店も一人では入らなかった。

亡くなってから数年、布がなくなったのでやっと一人で買いに行った。

今、一人で買い物に行くのは、スーパーといつも行く手芸店だけだ。


初めてが多すぎて混乱しそうだ。


会計をミエコさんが済ませた。

「これは私からのプレゼントよ」と。

他人からプレゼントをもらうのも初めてだった。


その後、その店の前にあった証明写真機で写真を撮るように言われて撮った。

ミエコさんが、少しお化粧をしてくれた。

お化粧をするのは、成人式の写真の時以来だ。

その時、母が言った言葉が思い出される。

「あら、アカネちゃんはお化粧があまり合わないようね」

その時の写真は、赤い唇と頬が、浮き立ちなんだかとても醜悪でもう2度と見たくない。

派手な振袖も滑稽だった。

出来上がった証明写真は、とても自然でいつもの顔色より良く見えた。

唇もうっすらとピンクでいつもの私の顔より少し上だった。

そういえば、あの成人式の日以来、自分の姿を鏡でうつすのが怖くなっていた。

さっき、試着した時に久しぶりに自分の全身を見た。

シンプルな服は思いのほか、いつもの服より顔色が良く見え体型もカバーしてくれていた。


再び車に乗った時にミエコさんが言った。

「さて、買った服に着替えてから、履歴書書いて面接に行きましょう」


なんともびっくりだ。


ミエコさんの知り合いの社長さんが経営している金属加工会社がパートを募集しているらしい。

そこに面接に行くのだと。

私は慌てて言った。


「む・・・無理です。何もした事ないし。」


心配しなくて大丈夫だとミエコさんは笑った。

なんでも、その社長さんは父とも昔からの知り合いらしい。

私も赤ん坊の時に会った事があるのだとか。


「あなたの家から少し離れているのよね。だからしばらくの間は、タクミが送り迎えするわ。でも、自転車だったら10分ぐらいだから今日から特訓ね」


ミエコさんはタクミと同じ笑顔でニヤリと笑った。



                          <つづく>


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