凱旋と陰謀 5
「コランダム! おお、コランダムよ……こんなところにいたのか……」
巨人国の集落の入り口まで再び足を運び、布を敷いてミカヅキの背中に乗せられた遺体を降ろす。
門番の巨人がそれを見て驚愕し、駆け寄って様子を確かめる。
他の巨人たちも異変に気付いて集まってきた。
十人以上いるようだ。
皆、一様に人間体を取っているので人里とあまり雰囲気が変わらない。
ファッションに統一感がないくらいであろうか。
まあ巨人が本体で活動していれば社会生活を営むのも難しいであろうが、巨人っぽさがないのは少し気になった。
「戦士として戦って死にたいと言ってたが……こんなことになるとは」
「心臓を一突きか……殺したやつは相当な腕前だな」
「しかし……一人でも見つかったならよかったわ……」
皆がコランダムのことを悼んでいる。
その中に、少し気になる言葉があった。
「一人でも?」
「あっ……いや、なんでもないのよ。というよりあなた誰よ?」
その言葉を口にした女性の巨人を見る。
人里にいても不思議ではない、何の変哲もないワンピースの若い女性だ。
「え、えーと……友達」
トリアナイトちゃんが明後日の方角を見ながら答えた。
「友達って……見たところ巨人の眷属じゃないわよね?」
「貴様、外の者を秘密の道に案内したのか!? バカ者! こんなときに何をしておる!」
門番が事実に気付いてトリアナイトちゃんを叱る。
だがトリアナイトちゃんは負けじと反論した。
「いいんだよ! ソルちゃんはソルフレア様の生まれ変わりだもん!」
「ええい、だからってそれが許されると……え? ソルフレア様の生まれ変わり?」
その言葉に、巨人たちが一斉にざわめきだした。
こやつらに見覚えのあるやつはおるかな。
……いや、おらんな。
なんとなくアーガイラムの面影がある連中ばかりとは思うが、千年以上生きている者はここにはいなさそうだ。いたとしても今とは面影も変わっていよう。
「信じられぬのも無理はないが、我こそは太陽邪竜ソルフレアの生まれ変わり。フレアと名乗っておる」
「ソルちゃんじゃないの?」
「人間の国でそれを語るわけにはいかんのだ。名前を使い分けておる……というかおぬしが迂闊過ぎなのじゃ! バレとるじゃろがい!」
「わーわー! ここでそれ言わないでよ! それよりなんかみんな変だよ! なんだかまるで……コランダム兄さん以外にもいるみたいな口ぶりだけど……ていうかトパズ姉様は? また眷属を連れて練兵してるの? 他にもルビー姉様とかシルバー兄様もいないみたいだけど……」
トリアナイトちゃんが名前を出す度に、どこか異様な空気が高まっている。
薄々、何かが起きたか我にもわかりはじめた。
『疑念……いや、恐怖の匂いだな』
ミカヅキが念話でぽつりと言った。
「場所を移そう。そこで話す」
門番が、観念したように答えた。
◆
丸太をそのまま詰んだような武骨な屋敷……というより、砦に案内された。丸太の一本一本に魔力に満ちており攻めるには相当厄介だと感じる。
堅牢だ。流石は巨人族だ……と言いたいところだったが、今ここの巨人族は窮地に立たされていると言っても過言ではなかった。
「行方不明の巨人が、連続で出たの……?」
トリアナイトちゃんが案内された先の屋敷で驚愕した。
我もミカヅキも口をはさみはしないが流石に驚く。
「そうだ。10人の巨人が……いや、コランダムが見つかったから9人の巨人が行方不明になっている」
「一体誰がいなくなったの!?」
「まずオパルが行方不明なのは知ってるだろう。それから次にコランダム。ルビー。モリブデン。ジンクと……」
門番が淡々と名前を読み上げ、トリアナイトちゃんは静かに聞いている。
不吉な響きに耐えられなかったのか、すべての名前が出たところでトリアナイトちゃんは叫ぶように問いただした。
「お、親父殿は何て言ってるの!?」
「今は床に臥せっていて何も語らん。トパズ様たち伝統派が見舞いに行っている」
「それこそおかしいでしょ! なんでみんなこんなところで待ってるの! 見舞いなんて嘘に決まってるじゃん! それに……いないのは伝統派だけじゃないし……!」
「ああ、武闘派もいない。コランダムの行方不明をトパズたちの仕業と思って、親父殿を守るという名目でトパズを討つつもりだろう」
「これもう内乱とか内紛だよ! なんでさっき教えてくれなかったの!? ていうかみんなどーしてこんなところにいるの!」
「俺だって行きたい! だがここを空けるわけにはいかん! もし親父殿が臥せってトパズ様も不在の状態で敵に攻め込まれでもしたらどうする!」
ここは暗黒領域。
魔物たちが相争う闘争の世界だ。
異変は恐ろしいが、だからこそ守りを固めなければならない。警戒が緩む状況こそが本命であるかもしれないのだから。
「確かに、どこかの古豪が動かぬとも限らぬ。いや、どこかの古豪が仕掛けてきた可能性さえあるだろう」
そうであればよいのにという悔恨にも似た思いが門番の目に宿る。
こやつらも辛い立場なのだろう。
「で、でもさぁ!」
「ここにいる者は伝統派でも武闘派でもなく、それ以外の選択を取った者共なのであろう。であれば責めるのは筋違いじゃ。何がどうなるかわからぬからこそ、門というものは守らねばならぬ。それに……おぬしとて、この者らとて……そしてアーガイラムのところに向かった者とて、不安なのだ」
「それは……」
トリアナイトちゃんが巨人たちに何かを言おうとして、止めた。
同胞として怒りたい気持ちもあるのだろう。
だが誰しもトリアナイトちゃんのように強いわけではない。
裸一貫で暗黒領域を飛び出て人間の国の学校に入るなど、腕力や魔力だけではない、魂そのものが強くなければできないことだ。
その強さを仲間への慈しみに変えられる子であると、我は思う。
「……ソルちゃん。ミカヅキちゃん。親父殿に聞きに行こう。みんなはここで待ってて」
「うむ」
『よし、行くか』
トリアナイトちゃんの言葉に、我らは待ってましたとばかりに頷いた。
だがそれを門番が制した。
「待て! トリアナイトはともかく部外者を入れるわけにはいかん!」
「ソルちゃんは親父殿の友達だよ。親父殿がこないだ抜け出したときはソルちゃんに会いに行ってた。だから会う権利はあるよ。なくても連れてくけど」
そもそも我を止める権利を持つ者などおらんのだが、と言いたいところだが、茶々を入れてしまうだけであるなと思って黙った。
「ていうか太陽邪竜ソルフレア様を止める権利ってなくない?」
「そ、そうだが! 本当に生まれ変わりだと決まったわけじゃないだろう!」
「おま……我だってそれを言おうとして我慢したのじゃぞ……! ビッグネーム出してふんぞり返るのは流石に格好悪いし……!」
「ええー、なんでわたしが二人から怒られなきゃいけないのぉ?」
トリアナイトちゃんが素で困惑している。
こやつはまったくもう……。
「ともかく、こうしなきゃきっと解決しないと思うんだ。お願いシリコン兄さん、わたしとソルちゃんたちを通して」
門番は目を瞑り、じっと何かを考えた。
だがすぐに結論は出た様子だった。
すっくと立ち上がって扉を開け、外に出るよう我らを促す。
「……表へ出ろ」
門番は武具を取って、そして構えた。
「巨人シリコン。アーガイラム共同体の守護を務めている。ここから先に行きたければ俺を倒してからにしろ」
槍を構えた。
コランダムよりは細く、筋肉はあるが俊敏さも兼ね備えている。
そして剣も、よく練られている。
なかなかの気迫だ。相手にとって不足なし。
「そ、ソルちゃん! わたしがやるよ……!」
「いや、乱入したのは我じゃ。我が相手をせねばなるまい。それに……あやつも我を見ておる」
「本当にお前がソルフレア様の生まれ変わりというならば、俺など相手になるまい。その力の一端を見せてくれ」
巨人シリコンの戦意も高ぶっている。
よい勝負ができそうだ。
「よかったぁー……! シリコン兄さん、かなり強いから気をつけてね……!」
と言ってトリアナイトちゃんは群衆に紛れて応援をし始める。
こ、こやつ……自分が戦う状況を避けるためにあえて名乗り出たな。
「まったくもう……。まあよい、元々我が戦うつもりであった」
「二人同時でもいい。二人と一匹でかかってきたってかまわん」
「戯言を語るでない。だが高慢でないもわかるともよ。おぬし、そうとう強かろう」
またもママとの約束を破らねばならぬ。
だが我をソルフレアと知り、命を賭してかかってくる相手に加減はできぬ。
「【竜身顕現】」
全身に竜の力を纏わせて、そして槍を構えてシリコンと名乗った巨人と対峙する。
それでもなおシリコンは一歩も引き下がることなく我を見据える。
この圧迫感、流石だ。
人間体の向こう側に途方もない何かを感じる。
こやつもきっと本体は相当大きいのであろう。
「……大きい」
「ご覧の通りの背丈ではあるが」
「そうではない。俺に本体があるように……お前にも……」
奇しくも、相手は同じ事を考えて、同じ何かを感じていたようだった。
刃を交えずとも勝負は決した。
門番が膝を屈し、そして周囲の巨人たちも「なんか知らんけどプレッシャーとかオーラとかに負けたんだろう」となんか納得してくれた。
ちょっと危なかった……こやつ相当な使い手だ。恐らくジュエルゴーレムより強い。ポテンシャルとか我の解放せざる真の力とかを見抜いてくれず普通に勝負が始まっていたならば相当な苦戦を強いられておったであろう。
この先、もっと大きな戦いがあるかもしれんと思うと消耗してしまうのはちょっとヤバかったぞ。
(ったく……助かったな)
そんな内心の安堵など門番は気付かずに居住まいを正して立ち上がった。
「ソルフレア様、トリアナイト、あと……ワンちゃん」
こやつ犬のことワンちゃんと呼ぶタイプであったか。
「……頼んだ。今起きてる異変のこと、親父殿のこと、確かめてくれ」




