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凱旋と陰謀 2




 永劫の金剛石を手に入れ、ディルック先生とユフィー先生からの理解を得られたが、大きな問題が立ちはだかった。


 どうやって暗黒領域に戻るか、である。


 ユールの絆学園から暗黒領域の正門までは、徒歩で一か月近く近くかかる。しかも、暗黒領域に人間が出入りするとなると冒険者証とか、中で死んでも賠償を受け付けないといった面倒くさい誓約書とか、面倒な書類が必要になる。


 現地に行って書類を用意して、更にアーガイラムの元にたどり着くとなるとそれだけで二か月か三か月はかかるであろう。学校をサボるにしても程がある。


 つまりわたしもソルちゃんも留年しちゃうわけだね、などとトリアナイトちゃんは笑ったが笑い事ではない。とにかく時間が足らぬ。


 ……などと焦って負ったのだが、ここで思いもよらぬ事態が起きた。


 それを知ったのは、無謀の女神神殿から帰った三日後の夜、寮の部屋でゴロゴロうだうだしてたときであった。


「最近ソルちゃんってトリアナイトちゃんと仲いいよねー。ていうか男子ってここに来ていいんだっけ?」


 パジャマ姿のエイミーお姉ちゃんがそんなことを言った。


「そこはまあ、大目に見てもらう感じで」


「まあいっか。ミカヅキちゃんも遊びに来てるし」


「わふん」


 トリアナイトちゃんもエイミーお姉ちゃんも、ミカヅキのもふもふしたお腹の感触を楽しんでいて細かいことは気にしなさそうだ。


「いやいかんじゃろそこは! 乙女の寝床に入り込むのは無礼千万じゃぞ!」


「でもなんか友達の女の子が入れてくれたんだよね。トリアナイトちゃんなら別に何も起きないからいいやって」


「雑じゃのう……」


「それよりそれより、二人とも! ちょっとお願いがあるんだよ!」


 エイミーお姉ちゃんが唐突に我らに拝み始めた。

 なんであろうか。我が太陽神の生まれ変わりであると気付いたのであろうか。


「お願い? 小遣いならやらぬが。ミカヅキももう貸さぬと言うておるぞ」


「えっ、エイミーちゃん犬にお小遣い借りてるの?」


「ちゃんと返したもん! って、そうじゃなくてぇ! 来週の連休、あたしは帰省しないで友達と遊びたいんだよね。ソルちゃん、帰省するならウチの親に聞かれても真面目に勉強してるとか言い訳しといてほしいんだよぉ」


「来週の休み……って、なんじゃったっけ」


 エイミーお姉ちゃんの言葉は初耳である。

 知っておるかとトリアナイトちゃんを見ると、ふるふると首を横に振った。


「あっ、これリーク情報だった。なんか学園長の特別なお仕事があるみたいで、土日と、その次の月火水とお休みの五連休になるんだよ」


「なんでそんなリーク情報知っておるのじゃ」


「学生課の事務のおばちゃんに挨拶してたら教えてもらった」


 エイミーお姉ちゃんは妙にコミュニケーション能力が高く、誰とでも友達になる。稀有な素質である……って、そうではない。これは降ってわいた僥倖だ。


「エイミーお姉ちゃん、我らも遊びに行くのじゃ。だからアップルファーム開拓村にはバレぬ」


「おっ、いいねいいねー! ソルちゃんはどこに行くの? あたしは同じクラスの子と牧場で馬借りてポロやるんだ」


「それは興味あるのじゃが、我らはちょっとトリアナイトちゃんの里に遊びに行きたいのじゃ」


「え、いきなり友達の実家に行くんだ。距離の詰め方えぐ」


「大胆でびっくりしちゃった。もう責任取るしかないかなって」


「えぐいってなんじゃい、えぐいって! ていうかトリアナイトちゃんも便乗するでないわ!」


 トリアナイトちゃんとエイミーお姉ちゃんは妙にウマが合うので困る。


「ともかく、お互いお口にチャックじゃ」


「おっけおっけ。楽しんできてね!」


 エイミーお姉ちゃんは特に何も怪しむことなく、秘密を守ってくれることになった。


「ところで、結局のところ何をどうするの?」


「行き当たりばったりだなぁ」


 エイミーお姉ちゃんがからからと笑うが、トリアナイトちゃんが聞いているのは遊ぶスケジュールのことではない。いや、本気で遊ぶことを考えてそうでもあるが。


 どうやって暗黒領域に行くのか。

 我とミカヅキしか知らぬ秘密を、トリアナイトちゃんに開示せねばなるまい。







「ほ、本当に一瞬で暗黒領域についちゃったね……」


 トリアナイトちゃんが呆気に取られながら呟いた。

 学園が休みに入ったのを利用して、我、ミカヅキ、そしてトリアナイトちゃんは転移魔法陣を使って暗黒領域に降り立った。そしてミカヅキの背中に乗って高速で異動している。


「だから言ったじゃろう。遊ぶというのは方便じゃと」


「ごめんけっこう楽しみにしてた」


「おぬし……」


「ウソウソ冗談だって」


 トリアナイトちゃんがけらけら笑って否定する。


「ゆっくりと死体啜りの森を案内してやりたいところではあるが……急いだ方がよさそうじゃの」


「ええー、ゆっくりしたいし歌とか宴会とかしたいんだけど……そーだよねぇ」


 なんだなんだとゴブリンたちが集まってきている。

 フレア様が可愛い女の子を連れてきたと驚き、こやつは男じゃと訂正するとまた驚いた。

 ちゃんと説明してやりたいところではあるが、時間は限られている。


「すまん皆の衆。ちと巨人国に行ってくる」


「なんだって!?」


 その言葉にゴブリンたち、特に、ジェイクに緊張が走った。

 全員が無言で我を見守る……と同時に、「じゃあこいつなんなんだ?」という視線がトリアナイトちゃんに集まる。


「こやつも巨人じゃ。見た目で侮るでないぞ」


「うっそだろ!? いや、可愛くてびっくりしたんだが……」


「あのおっさんとは全然違うぞ」


「こういう可愛い巨人もいるんだ」


「ええー? そんな可愛いかなぁー!? いやでも可愛いよねやっぱり!?」


『油売ってないで背中に乗れ。さっさと行くぞ!』


 ミカヅキに急かされて我らは出発することとした。

 死体啜りの森を抜け、骸骨平原を疾駆し、毒王沼を渡る。骸骨武者や蛇どもは千年前もいて、ショバ代や通行料をせびる小悪党どもばかりであったが今も変わらないようだ。スルーして金を払わずに先に進む。


「いいなー、わたしが来たときは普通に襲い掛かってきたよ。巨人だって気付いて逃げてったけど」


「それはまた、しょっぱい連中じゃのう」


「それより、目的地は……」


「あの山じゃろう?」


 我が指をさした先は、少し雲でかすんでいる風景だ。それほどまでに途方もなく大きいもの。標高2000メートルを超え雪が残る偉大なる山。


 アーガイラムの本体である。


「もう少しで国境だよ」


「しかし我も入国してよいのか? アーガイラムの顔は見ておきたくはあるが」


「大丈夫大丈夫、わたしがいればスルーパスだからこのまま行こう」


 と、トリアナイトちゃんがにへらっと笑った。





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