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凱旋と陰謀 1

邪竜幼女2巻発売中です、よろしくお願いします!



 ボスに勝利した上、宝物を持っての凱旋である。

 我らは迷宮探索に大成功したのだ。


 意気揚々と帰ってきた我らを待っていたのは、ディルック先生の怒号であった。


「お前さぁ……いやお前らさぁ! なんで俺にこんなドでけぇ問題預けてくるんだよ! あーもう!」


「すまぬ。いや本当にすまぬ」


 ディルック先生が会議室で頭を抱え、その横でユフィ―先生がやれやれと肩をすくめた。


「あはは……なんかごめんなさい」


「あははじゃないだろう。先生にちゃんと謝れ」


「まあまあ、皆さん落ち着いて」


 トリアナイトちゃんがのんきに謝り、ブレイズくんが軽くキレた。

 そしてシャーロットちゃんがなだめる。

 なんとなくいつもの会話になり、少しばかりホッとした空気に包まれた。


「まあ……そういう子も混ざってるだろうなってちょっと思ってたけどね」


 ユフィ―先生が意味深な言葉を言った。


「ん? どうしてじゃ?」


「確かに暗黒領域は結界で隔絶されてるし、魔物って洞窟とかにしかいないように思っちゃう人は多いんだけど……。実は混血とか、何代か前に遡ると知恵のある魔物がご先祖様にいるとか、そういう子ってときどきいるのよ」


 なんとなく親近感を感じるのう。

 お友達になれそうである。


「人間の街とか村だと目立つから、冒険者になって街から街へ旅する生活をしてたりね。でも、そういう生き方を見つける前に盗賊とか怪しい団体に囲われて悪事に手を染めたり……とかもあるわ」


「なんつーか、強いけど拠り所がない人間や爪弾きにされた人間ってのは案外いるんだよ」


 ユフィー先生とディルック先生がしみじみと語る。


 我も、パパとママがしっかりと守ってくれたからこうして生きておる。

 二人に拾われていなかったら賊の頭領か何かになっておってもおかしくなかったかもしれぬ。


「ここは才能のある子を集めているけど……もしかしたら学園長ってそういう子供を保護しているんじゃないかしら。あまりにも特殊な才能がある子って、心無い人から『魔物の血が混ざってるんじゃないか』って疑う人もいるのよ。別にそんなのいいじゃないって思うんだけどね」


「とはいえ100パーセント魔物が混ざってるとは思ってはいなかったが」


 ちくりとディルック先生が釘を刺す。


「ご、ごめんなさい」


 トリアナイトちゃんが肩身狭そうにしている。

 流石にへらへらした笑いを浮かべることなく、真面目に謝っている。


「まあ素性を隠して潜り込んだのはどうかと思うが……ルール違反とか校則違反になるのか、これ?」


「いえ、混血の子や異国の子も受け入れる方針ですから、入学資格に種族は不問のはずです」


 と、シャーロットちゃんが言った。


「懐が広いな、そりゃ」


 ディルック先生が感心したように頷く。


「……学園長はいろんな事情のある子を庇護しています。私も……学園長に出会えてよかった。そうでなければ今はどうなっていたことか……」


 シャーロットちゃんがしみじみと語る。

 我がパパとママを語るときのように、そこには慈しみがある。

 学園長のことはなんか妙な怖さのある大人と思っておったが、シャーロットちゃんのような人を育てるとなると一角の人物であろうな。


「そういうことをしてる学園長だからこそ、全部を打ち明けて談判すれば何とかなるかもしれない。わけも分からず恐れて追い出したり、国に突き出したり……みたいなことはしないだろう。だが、それでも絶対に必要な条件が出てくると思う」


 ディルック先生が妙なことを言い出した。


「必要な条件とはなんじゃ?」


「……暗黒領域の故郷を捨てて『ユールの絆』に改宗することだ。それができるかどうかで変わってくるぞ」


「ん? ソルフレア様のことは信仰してるし復活してほしいって思ってるよ?」


 トリアナイトちゃんがきょとんとした顔をする。


「そういうことじゃない。自分の拠り所を変えろって話だ。巨人国の巨人族のトリアナイトじゃない。『ユールの絆』のトリアナイトになれと、そういうことを要求されるだろう」


 その言葉に、トリアナイトちゃんが驚いて目を見開いた。

 流石にそこまでは想像していなかったのだろう。


「なるほど……。それならみんな受け入れてくれる」


「そうです! きっとそうなされば学園長も歓迎するに違いありません!」


 ブレイズくんもシャーロットちゃんも、身を乗り出すように賛成してきた。


 えっ、そこ、賛成するところなのかの……?


「待て待て待て。それは早計というものであろう」


「そうですか?」


 シャーロットちゃんが不思議そうに聞き返す。

 あれ、我、変なこと言っておらぬよな?


「トリアナイトちゃんは自分の家族を救うために永劫の金剛石を探したのであろう? だというのに、そのために家族の縁を切れというておるようなものじゃぞ」


「それは考えすぎですよ、ソルちゃん」


「そ、そうかの……?」


「親や兄弟、尊敬する人への思いを断ち切れというわけではありませんよ。ただ困ったときや嬉しいとき、あるいは何気ない日々の祈りのときに思い描く神をソルフレア様にしてほしい。それだけですから」


 うん……うん?

 それってけっこう重い話なのでは?


「それに、誰しもいずれは親元から旅立つものでしょう?」


「それはまあ、そうなのじゃが」


 我とていずれパパやママの庇護下から旅立つ日が来るであろう。

 もしそうなったとき、祈りや感謝を捧げる相手は誰かと考えると、パパとママである。

 その相手を別にしろと言われたら、困る。


「ソルちゃんは……もしかして……嫌かしら……?」


 シャーロットちゃんが尋ねる。


 だが我は即答できずにいた。

 嫌だと答えるのは簡単だが、シャーロットちゃんはきっと、そうしたのだ。

 何がどう嫌なのかを言えば恐らくはシャーロットちゃんを否定することになる。そんな気がした。


「わからなくはないし……無理強いはよくないだろう」


 そこにブレイズくんが助け舟を出してきた。


「なぬ?」


「だってお前、バスケも野球もパワープレイばかりでチームワークを乱すし、お前の友達も作戦を練って行動できない納金ばかりだ。僕らのチームに勝てたことがない」


「ぬわっ……き、球技大会は……」


「だめですよブレイズ、一緒に冒険した仲間にそんなこと言ったら」


「す、すみません姉さん」


 なんか知らんけど話が逸れた。

 いやでもちょっと悔しい。


「私はトリアナイトさんとも、ソルさんとも、一緒にボールを追いかけられたら……って思うんです」


「う、うむ、普通に遊べばよいのではないか?」


「違うんです、四年に一度開催される、太陽神教全体が開催する太陽杯で優勝を目指して……」


「姉さん、姉さん、話がズレてます」


 ブレイズくんに静止されて、シャーロットちゃんが赤面して顔を伏せる。

 わ、わからぬ。なんでそんなに球技を重んじるのであろうか。

 記憶をなくしているだけで、もしかして我は前世でボールが友達だったのであろうか。


「あー……トリアナイト。この後はどうするつもりだ?」


 ディルック先生が雑談を打ち切ってそんな問いかけをした。


「あ、えっと、その……」


「すぐに報告するつもりはない。じっくり考えろ。ただ、できるだけ早く結論を出すんだぞ」


 ディルック先生の言葉は優しいが重い。

 シャーロットちゃんもブレイズくんも異論を挟むつもりはないようだ。

 だがディルック先生は我に意味深に視線を送ってきた。


 学園長に報告が行く前に逃がしてやれ。

 ディルック先生の目は、そう語っていた。





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