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ダンジョン探索部、爆誕す 9




 七階層に到達した。


 ここも、先程のアンデッドプリーストのいた広間のようにどこか広々としている。だがあの広間はまだ人間が作ったと思しき雰囲気があった。ここはただただ広い。まるで蟻の巣を歩いた先にある女王アリの住処のようだ。作りで威厳を示すのではなく、そこにいる者こそが威厳であるかと主張するような、獣の論理の世界だ。


 そしてここで威厳を放って佇んでいるのは、人の背丈の二倍ほどの身長のカブトムシであった。


「かっ……かっこいいのじゃ……!」


 頭の形や細やかな特徴はカブトムシのようではあるが、足は二本、腕は二本。

 つまりは人間のような体つきだ。

 例えるならば黒い鎧を纏った武者のような佇まいをしている。

 しかも、頭に生えた角を長く伸ばしたかと思うと、それを取り外して槍のように持って構えた。


「人間体のようだが、会話できるほどの知性はなさそうだな。防御力は高そうだが魔法には耐性は少ないだろうし、さっさと燃やそう」


「うーん、ああいうイカついの趣味じゃなーい」


「……なんじゃと……!?」


「わふぅ……」


 皆、興味無さそうだ。

 こんなに格好良いのに。

 こんなに格好良いのに。


「え、ええと……これはアーマードビートルですね……。私も、その……格好良いと思うなって」


 シャーロットちゃんが少し頬を染めつつ言った。

 我は無言で握手をする。

 シャーロットちゃんもおずおずと握り返す。


「ギャギャギャギャ!」


 アーマードビートルもちょっと嬉しそうに槍を高々と天に掲げ、誇らしげにしている。

 仲間に加えてやってもいいと思ってしまうほどだ。


「それより行くぞ。僕の魔法で燃やすから援護をしてくれ。相手は物理攻撃を無効化する甲冑を身につけてるから、倒そうとするなよ」


「まったく男の子なのに風情が無いのぅ……」


 アーマードビートルは格好良いだけではなく、中々の強敵である。

 ブレイズくんの言う通り、物理攻撃に強い耐性を持っており、鋼鉄より堅い甲殻は斬撃も刺突も通用せぬ。また【破砕力付与】などで甲殻を貫通して内部だけにダメージを与えようとしても、特殊な甲殻によってそれも防がれるらしい。

 なので普通は前衛が防御に徹して後衛が魔法を撃って倒すのが常道だ。


「ギャギャギャギャギャ!」


 アーマードビートルが槍を構え、我のところまで踏み込んできた。

 ふむ、どうやら我を敵と見なしたようだ。


「ぐっ……気合いの入った一撃を放つではないか……!」


 我も槍で応戦する。

 相手はママのように洗練された動きこそしないが、自分の膂力の使い方をわかっている。


「ソルちゃん! 助太刀します!」


「援護いくよ! 【硬化】!」


 トリアナイトちゃんの支援を受けながら、我は槍の一撃を受け止めた。

 シャーロットちゃんがその隙に棍棒で打撃を加えるが、アーマードビートルはまるで怯まぬ。


「ならば……【火球】!」


「ギャッ!?」


 ほぼゼロ距離で手から火の玉を放つと、流石に面食らったのかアーマードビートルはたたらを踏みながら少し後ずさった。


「今です! とりゃっ!」


 そこにシャーロットちゃんが踏み込んだ。

 右肘の関節を極めるとアーマードビートルは苦悶の声をあげながら逃れようとし、転倒した。敵が人間体であることを利用してうまく投げ飛ばしたのだ。

 アーマードビートルに関節技が効いたのも驚きだが、シャーロットちゃんがこんな格闘センスを持っていたのはもっと驚きである。


「今ですよブレイズ!」


「わかってる! 【業炎】!」


 ブレイズくんが炎の魔法を放つ。


「ギャギャギャギャギャ!?」


 倒れたアーマードビートルは避けることもかなわず、炎をまともに食らった。火力重視の魔法で、凄まじい熱気が周囲にも伝わる。


「やったか……?」


 煙がくすぶって視界が悪い。

 シャーロットちゃんが【星光(スターライト)】に魔力を込めて光を強くしたが、むしろ煙によって光が乱反射してより見にくくなってしまう。


「皆さん、気を付けて。まだ死んでいないかもしれないし、新手が来るかもしれません」


 シャーロットちゃんの言う通りだ。

 もしもママが敵であればこういう瞬間は見逃さずに攻撃してくる。


「む……!」


 魔力の揺らめきや空気の震えを感じる。


 何かが動く。


 だが今までのアーマードビートルではない。


 今までのようなどっしりとした戦士の気配ではない。

 速く、鋭く、軽やかな何か。


 羽音だ。

 わからぬが、まずい。


『匂いは変わってねぇから新手じゃねえ……何かしてきやがったぞ』


 気づけばミカヅキがすぐ隣に来て警戒を促す。

 こういうときは役に立つやつじゃ。


『だが俺はやらんぞ。あのカブトムシに俺の牙は届かんし、大自然の化身としての力を使ったら速攻でバレちまう。お前が頑張れ』


 こういうときは約に立たんやつじゃ。


「ええい、仕方あるまい……【竜身顕現】!」


「ギャギャギャ!」


 竜の魔力を目に宿し、視界ではなく魔力で姿を捉える。


 見えた。


 ミカヅキの言う通り、不気味な気配はアーマードビートルのものだった。だが重い甲殻を捨てて羽根を羽ばたかせ、奇襲を狙っている。先程と同じと思っていたら首を飛ばされかねなかった。気づけてよかった。


 だ、だが……これも……かっこいい……!


「だが敵として相まみえる以上は加減はできぬ!」


「ギャギャ!」


 かかってこいとばかりにアーマードビートルは凄まじい速度で羽ばたく。

 土煙を巻き上げてさらに視界を悪くしていく。

 相手も恐らく視覚以外で我らの姿を捉える方法があるのだろう。

 縦横無尽に飛びながらも角の槍は的確に我の体を狙ってくる。


(ソルフレアの翼よ……我に天駆ける力と敵を断つ剣を与えよ……!)


 肩甲骨のところに力を込め、竜の力を具現化させる。

 そして、大きな翼を得た。

 我の体の幅よりも遥かに大きなそれは、空気だけではなく魔力を受ける帆だ。風が凪ぐ洞窟の中であっても縦横無尽に飛ぶことができる。


 もっともそれは相手も同じことだ。

 アーマードビートルの羽根は細かい振動をしながら魔力を受け、増幅している。最後の一瞬まで命を燃やすつもりであろう。


「よかろう、勝負じゃ!」


「ギャギャギャ……!」


 翼から炎が巻き起こる。

 このままでは煙が吹き飛び、我の姿がシャーロットちゃんにバレるかもしれぬ……いやしかし、強敵を前にして加減することはできぬ。本気の一端を出さずに勝てる相手ではなく、なによりも無礼である。仕方ない……と半ば諦めていたとき、土煙が螺旋状に立ち上る。


「これは……大地属性の魔法……?」


『トリアナイトだ。砂の結界を作って視界を封じて、ついでにお前たちの決戦の舞台を作ったんだろうよ』


「ありがたい!」


 そして我はアーマードビートルだけを見ることにした。

 細く引き締まった体。

 黒い甲冑を脱ぎ捨てた姿は細身だが、引き絞った弓の弦のごとき緊張感と危うさをはらむ。

 アーマードビートルが槍を構えて一直線に我のもとへと疾駆する。


「竜夏槍術奥義……灼光!」


 交錯する瞬間、我は竜の翼を刃に変えてソルフレアの炎を纏わせる。

 炎の刃と化した翼はアーマードビートルを断ち切り、同時に我の額に槍傷が付く。

 これがもう少し踏み込まれていれば逆だったやもしれぬ。


「ギャギャ……」


 勝った。


 と、思った。

 だが魔力は消えておらず、むしろ危うい気配はより大きくなった。


「まずい……殺しきれなかった……!」


 相手は人間のような体をしているだけで、昆虫系の魔物だ。しぶとさは人間とは比較にならぬと今更気付いた。

 アーマードビートルはあと数分もすれば死に至る。それでも、視界の利かぬ中で全力を振るえば、誰かを道連れに攻撃するくらいはできよう。この視界が閉ざされた中ではブレイズくんかシャーロットちゃんの身が危うい。


「まだ生きておるぞ! 気を付けるのじゃ! トリアナイトちゃん!」


 視界が魔法で遮られている。

 このままでは……。


「破ッ!」


 だが鋭い声が響き渡り、小爆発のような地響きが鳴った。

 同時にアーマードビートルの魔力が完全に途絶えるのを感じた。


「みなさーん、大丈夫ですかー?」


 そして、心配そうな声が響いた。シャーロットちゃんだ。


「大丈夫じゃー!」


「大丈夫だ」


「問題なーし!」


 しばし待つうちに炎と土の煙幕が消えて、ようやく視界が戻った。

 アーマードビートルは我の翼によって袈裟懸けに引き裂かれ、そして恐らくはシャーロットちゃんの打撃によって絶命した。

 戦闘の時間こそ一瞬であったが、それでも強敵であったことには変わりない。


「あっぱれであった。おぬしの命、無駄にせず先に進もう」


 倒れ伏した敵に祈りを捧げる。

 戦士として立ち会った果てに遺恨はない。

 シャーロットちゃんも同じように祈りを捧げていた。


「……しかし、随分と戦意のある魔物だったな」


「もしかしたらガーディアンだったんじゃないかな」


 ブレイズくんの疑問に、トリアナイトちゃんが意味深な答えを出した。


「ガーディアン?」


 どうやらブレイズくんは知らぬようだ。


「高位の魔物や精霊の護衛のようなものじゃな。眷属となる魔物に加護を与え、寝所や拠点を守らせておるのじゃ」


「……無貌の女神のことでしょうか? それとも永劫の金剛石か……あるいはもっと邪悪なもの?」


 シャーロットちゃんが心配そうに呟く。


 うーむ、どうであろう。


「すでに学園長が探索済みのようであるし、我らの想像を超える邪悪な存在がいるとも思えぬが」


「わぉん」


「ほれ、ミカヅキもこう言っておる」


「わかるわけないだろ」


 ブレイズくんがちょっと呆れている。

 まったく、犬とのコミュニケーションがわかっておらぬのう。


「強大な魔物や精霊がいるならすぐに気配でわかろうものよ。だがここまで来て感じないとなると、ガーディアンというのは早とちりやもしれぬ」


 復活間近であればミカヅキのときにわかるであろうが、そうでなければわからぬ。

 というか余人に気付かれるようでは我とてどこかで見つけられて転生は不可能だったであろうし。


「大事なことは、伝承や眠っている宝物にそこそこ信憑性が増したということじゃな」


「探る価値はあるか」


 ブレイズくんの言葉に、皆が頷く。

 ここには目当ての物があるかもしれない。


「うむ。先へ行こうぞ」




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