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ダンジョン探索部、爆誕す 7




 反射的に力を使ってしまった、だがそのおかげで間に合う。

 爪から放った白炎の斬撃がスライムを両断する……はずだったが、到達するのとほぼ同時にスライムが突然炎に包まれる。


「あれ?」


 我の放ったものとは別の炎だ。

 それらが混ざりあった強力な円柱がスライムを燃やしていく。


「まずい、ちょっと勢いが強すぎるのじゃ!」


 シャーロットちゃんを助けるはずが、このままではシャーロットちゃんごと燃やしてしまう。


「任せて……! 【圧壊】!」


 トリアナイトちゃんが魔法を詠唱し、炎に包まれるスライムに向かって放った。

 すると、まるでスライムを起点に景色が歪む。

 まるでそこにある空間だけが小さくなるかのような不思議な光景が広がった。

 炎そのものがシャーロットちゃんに届かぬように小さくなる。


 これは……アーガイラムの重力魔法に似ておる。

 炎の勢いが弱まっているのではなく、そこにある空間自体が小さくなっている。

 そして炎はシャーロットちゃんを燃やすことなく消えていった。


「なあ、今の技はなんだ……?」


 ブレイズくんが疑惑の目で我を見る。


「我のは、その、アレじゃよ……【竜身顕現】じゃ。竜人族に伝わる奥義みたいなもので、一時的にその身に竜の力を宿すことができる。……魔力の消費が大きいので、多様はできぬが」


 ソルフレアとしての力をちょっぴり使ったことは流石に隠した。

 魔力の質で違和感に気付かれるかもと思ったが、【竜身顕現】は訓練を重ねた竜人族であれば誰でも使える。ごまかせるであろう。多分。


「なんか見たことあるような……気のせいか……?」


「おぬしこそあれはなんじゃい。さっきは詠唱に時間をかけておったくせに、即座にあんな炎が出せるとは。手加減しておったのか?」


「そ、そうじゃない!」


 しかもなんか見たことあるような気がするのじゃが。


「誤解させてしまったかしら。ブレイズは手加減していたわけじゃないの」


「シャーロットちゃん、大丈夫かの?」


「もちろん。助けてくれてありがとうね」


 少し袖が焦げてしまったようだが、シャーロットちゃん自身に怪我はなさそうだ。よかった。


「今のは道具を使ったものよね?」


 なんかシャーロットちゃんに圧がある、気がする。


「え、ええ、そうです。詠唱を省略して火柱を作るというもので、回数が限られているので多用はできません」


 なるほど……。マジックアイテムであれば不思議ではないか。どうも火に通う魔力が乏しかったように思うが、我の出した火と混ざりあったのでちょっとよくわからぬ。


 うーむ……。


 何か、引っ掛かる……ような気がする。

 深く考えると、頭に何かもやが掛かるような、不思議な気分だ。


「まあ、よかろう……それよりも」


「トリアナイトも珍しい魔法を使ったな。あれは大地属性の魔法……とも違うような気がしたが」


 ブレイズくんが我と同じ疑問を抱いたようだ。

 と言っても、我は何の魔法かほぼ見当がついておる。

 アーガイラムなどの巨人族の特技、重力魔法だ。


 決して人間が使えないというわけではないが、巨人族はその魔法をあまり外に出したがらぬ。人間に教えた者がおるとするなら明らかに国の法に反するであろう。


 だが巨人族は、【分身体(アバタール)】を使えるものが多い。魔力を具現化して作り出した人間の身体に意識を宿して自由に活動できる。人間社会に溶け込むことができる。


 だから可能性としては二つ。

 こやつが巨人族である。

 そしてもう一つ。


「……巨人族の中には暗黒領域から去って、人間に交わって生きる者もいると聞く。トリアナイトちゃんも、もしかしたらそうした師匠がいるのではないか?」


「えっ……?」


 トリアナイトちゃんがめちゃめちゃ意外そうな顔を浮かべた。


「んむ? 違うのか?」


「いや、このタイミングの質問って……『トリアナイトちゃんはもしかして巨人?』って感じじゃない?」


「ないない、それはない」


「そうですね、それはないかと」


「違うだろ」


「わぉん」


 全会一致で否定された。


「な、なんでぇ……?」


 トリアナイトちゃんは妙にショックを受けている様子だ。


「巨人族とは暗黒領域の古豪の代表格じゃぞ。もう少し、なんというか……神秘性があるものじゃろう。いや我が見たことあるわけではないが。我が見たことあるわけではないが」


「お前はシンプルに通俗的なんだ」


「そうですね……。暗黒領域の凶悪な魔物の雰囲気も、大自然の化身のような絶対的な神格のようなものはないかって、私も思います」


 三者三葉の否定に、トリアナイトちゃんがますますショックを受ける。


「そっ……そうです……。わたし、巨人にあこがれててぇ……。昔、人間の国をこっそり旅してる巨人に魔法を教えてもらったことがあってぇ……」


「なるほど……それで珍しい魔法を習得していたのですね」


 シャーロットちゃんが納得するように頷いた。


「のう、シャーロットちゃん……。トリアナイトちゃんが何か悪いことをしたわけでもないし、ここはひとつ……」


「ソルちゃんは優しいですね」


 にこりとシャーロットちゃんが微笑む。


「もちろん私もそう思います。みなさん、これはここだけのお話として、胸に秘めておきましょう」


 その慈愛の満ちた言葉に、トリアナイトちゃんは胸をなでおろした。

 ユールの絆は魔物に対してけっこう過激という話もあったからドキドキしたが、寛容ではないか。もっとも、シャーロットちゃんの優しさがあってこそであろう。


「僕も異存はない。身に着けた技で助けてくれた以上は……まあ、そういうことだ」


「ブレイズ、こういうときはありがとうと言うものですよ」


「まだ探索は終わってもいませんから」


 ブレイズが恥ずかしそうにぷいと横を向く。

 減らず口が多い分、こういうときは素直ではないやつよ。


「あっ……ありがとう……!」


 トリアナイトちゃん顔から微妙に不満そうな表情が消えて、ぱっと明るくなる。


「しかし……お前がそういう格好をしているのも、師匠の影響なのか?」


「これは純然たる趣味」


「お、おう」


 ブレイズくんの質問は普通に真顔で返された。

 男の子がふりふりの衣装を着て、ステッキもやたら可愛らしいとなると疑問に思うのも仕方なかろうが、シンプルに好きだから着ているようだ。まあ……似合っておるしの……。


「この階層の魔物はほとんど倒せたようじゃし、少し休憩せぬか?」


「わぉん」


「うん」


「そうだな」


「そうですね、少し消耗してしまいましたし」


 皆、疲れが出ていたのか素直に賛同してくれた。

 実際のところ、あやつに話を聞くための方便ではあるのだが。







 お昼ご飯を食べることにした。

 なんとシャーロットちゃんがサンドイッチを作ってきてくれたのだ。

 ローストした豚肉と野菜を挟んだものと卵を挟んだものが絶品であった。

 口に合うとよいのだけど、などとシャーロットちゃんは謙遜していたが、これに文句を言う者がいるならば我は許せぬ。

 また、デザートとして我はりんご、というかシャイニングルビーを振る舞った。

 シャーロットちゃんやミカヅキはもちろん、ブレイズくんもトリアナイトちゃんも舌鼓を打って堪能していた。ふふふ、我が村の特産品、とくと味わうが良い。


 で、お昼ごはんを堪能したところで、我はそろそろトリアナイトちゃんとこっそり話をしたい。向こうの方もチラチラと我の方を見ておる。残る二人に聞かれたくない話をしたいのはトリアナイトちゃんも同じのようだ。


 どうすれば怪しまれることなく二人だけ……いや、二人と一匹だけになれるか……と悩んでいたところに、助け舟が来た。


「すまん、ちょっと席を外す。姉さんと相談がある」


「ん? 構わぬが……」


 ラッキーである。

 ちょっとと言わず、ゆっくりしていてほしい。


「どうしたの?」


「二人で相談したいことも色々とあるの。ごめんね」


 シャーロットちゃんとブレイズくんは昔からの知り合いのようだし、そういうこともあろう。

 シャーロットちゃんを姉として慕って内緒話ができるブレイズくんがちょっと羨ましいが。


「気にするでない。ただあまり離れ過ぎもよくないから気をつけるのじゃよ」


「ありがとう、ソルちゃん」


 そしてブレイズくんとシャーロットちゃんが離れたところで、我はトリアナイトちゃんに向き直った。

 ついでにミカヅキも我の隣に静かに座った。


『む……連中、防音効果のある魔道具かなんかを使ってるな。向こうの会話は聞けないが、こっちの会話も届かないぜ』


「なんじゃろ……? まあ、今のうちじゃな」


「今のうち?」


 トリアナイトちゃんが首をひねる。

 ふふん、そうしらばっくれずともよかろうて。


「トリアナイトちゃん。先程、巨人族の師匠がいるであろう……という話は、シャーロットちゃんたちをごまかすための方便である。おぬしこそが巨人……つまりアーガイラムの子の一人であるな」


「ええええー!? ちょっとちょっと! 気付いてたんなら言ってよぉ! めっちゃくちゃ恥ずかしいよぉ……ひどいよぉ……!」




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