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ダンジョン探索部、爆誕す 6




 無貌の女神神殿の地下四階層から七階層は今までの神殿らしい姿から打って変わって、陰鬱な洞窟のような景色になった。ぴちょんぴちょんと、どこかで水音が聞こえる。


 そして出現する魔物もまた異なる。


 今まではポルターガイストやスケルトンなどの霊に属する魔物が中心であったが、ここからは物理攻撃を無効化するスライムや、強酸を身にまとうイモムシのアシッドワーム、猛毒の粘液を身に纏った巨大ナメクジのポイズンスラッグなどが現れる。


 こやつらの特徴は、どいつもこいつも物理攻撃に強いことだ。殴っても斬っても死なない魔物や、毒や強酸を身にまとっていて迂闊に近接戦を仕掛けられぬ魔物など、厄介なものばかりである。


「さあ行くよ! 大地魔法、【鋭刃乱舞】!」


 特にポイズンスラッグの毒は強力で、吐き出したり噴霧したりしないかわりに、直接触れれば意識を失いかねぬ。即座に撤退しなければいけないことになる。


 だがトリアナイトちゃんが踊って歌って魔力を高めて魔法を唱えた。

 トリアナイトちゃんの手元から黒曜石の刃が生み出され、そのまま敵へと射出された。五本ほどのブーメランのような刃がアシッドスライムを斬りつけ、その体を分断していく。


「今だよ!」


「わかってる、任せろ……【業炎】」


 アシッドワームは分断されてもうねうねと動いてこちらに近づいてくる。

 だがそこをブレイズくんが魔法を放った。

 人間ほどの大きさの火柱が生み出されて、アシッドワームの肉体を焦がしていく。


 虫の焦げる匂いはくちゃい。めちゃめちゃくちゃい。


「なかなか鮮やかな手並みではないか。くちゃいけど」


「我慢しろ。ポイズンスラッグやアシッドワームは燃やすのが一番確実なんだ」


 魔物が放つ毒にも色々あるが、ここに出現する毒虫の毒は熱で分解するものが多いらしい。

 ブレイズくんは毒の飛沫がこちらに届かぬよう、炎の勢いを調整しながら魔物の死体を焼き尽くしている。トリアナイトちゃんのような瞬発力のある魔法と、ブレイズくんの繊細かつ強力な魔法のコンビネーションは、想像以上にうまく回っていると言えよう。


 問題は、それなりに魔力を消費してしまうことだ。


「わぉん!」


「みなさん、次が来ますよ!」


 ミカヅキとシャーロットちゃんが警戒を促す。


「くっ……思った以上に数が多いな」


 次にやってきたのはスライムの群れだ。

 たまにスライムが雑魚だと誤解する者がおるが、少なくともこの地のスライムはそれなりに強い魔物である。生まれて百年未満では自我もなく自動的に捕食活動をするだけで、そこらの動物より頭は悪い。だが、頭の悪さを補って余りある耐久力が厄介だ。


 そしてもう一つ厄介なのは、こやつ、何でも食べる。植物や動物はもちろん、天然石の結晶や魔力結晶などもバクバク食べる。暗黒領域でもっとも幅を利かせる巨人にとってさえ天敵に近い。高い防御力を持ちながら石でもなんでも貪り食う。


 ママであれば何か打開策があるかもしれぬが、少なくとも普通の槍術では無理だ。我本来の力を解放しない限りはかなり手こずる。


『あいつら二人に任せておけ。お前は牽制するくらいで、全力は出すなよ』


 焦れている我を見て、ミカヅキが忠告を飛ばす。


「むむ……そうじゃが……。あ、そうじゃ。二人とも、武器へのエンチャントは使えぬのか?」


「こっちは攻撃で手一杯だ! 倒せなくていいから牽制だけでも頼む!」


 ブレイズくんが魔法の詠唱に入った。

 恐らく強力な魔法を使って一掃する気なのであろう。


 なるほど、間違ってはおらぬ。

 問題は詠唱が完了するまでに凌げるかどうかだ。


「トリアナイトちゃんは……」


「わーわー!? スライムちょっと苦手なんだけど!? ヤダーもー! こっちくんなし!」


「……ダメそうじゃの」


「あらあら」


 シャーロットちゃんも困ったという顔を浮かべておる。


「仕方あるまい……【火球】!」


 火魔法を放って近寄ってくるスライムを撃退する。

 だが多すぎてキリがない。

 ええい、直接攻撃できないのがもどかしい。


「やだよーこわいよー!」


 トリアナイトちゃんの悲鳴が響き渡る。

 けっこうガチで怖がっておる。今までのような演技のぶりっ子ではない。


「トリアナイトちゃん! もっとフォローするのじゃ!」


「で、でも……スライムほんとう苦手なんだもん……!」


「ええい! おぬしも男であろう! もう少し気張らぬか!」


「男とか女とかどうでもいいもん!」


「どうでもよいなら尚更頑張れ! 理由は知らぬが、永劫の金剛石がほしいのであればもっと気張らぬか!」


「あっ、そ……そうだ……頑張らないと……!」


 我の言葉に反応してトリアナイトちゃんが立ち上がる。


「エンチャント行くよ! 【破砕力付与】!」


 トリアナイトちゃんの呪文によって、我の槍とシャーロットちゃんの棍の先端が光り輝く。


「これは……大地属性の支援魔法ですね……。それもかなり高度な……」


「なかなか面白い魔法を使うではないか。では行くぞ!」


 槍でスライムをつくと、スライムは弾き飛ばされ、そして爆散した。


「ピギーッ!?」


 スライムの体内で爆発が起きたようなものだ。【破砕力付与】が施された武器で攻撃すると、攻撃力がそのまま敵の内部に到達し、更に凄まじい振動を発する。鎧や外殻をスルーして心臓だけを攻撃するといった芸当もできるし、スライムのようにとらえどころのない敵にもダメージを与えられる。


「初めて使いましたが、これは便利ですね……!」


 シャーロットちゃんの嬉しそうな声が響く。

 すでに棍で何匹か倒したようだ。


「あっ、すみません、はしたない」


「そんなことないよ! わたしも……てーい!」


 トリアナイトちゃんが武器を取り出した。

 それは鞭だ。


 ……なんかふりふりの衣装を持った子が鞭を振り回すの、絵面としてちょっとどうかと思う。


「そりゃそりゃ! あっちいっちゃえ!」


 だが、鞭を使う理由もわかる。

 【破砕力付与】と鞭の相性がいい。刀剣を振るうよりも遥かに効率的にスライムを撃退することができる。こんな強かったのであればもうちょっと早く動いてほしかったのだが。


「ハァ……ハァ……ぜぇ……ぜぇ……」


「バテるのが早いのじゃが」


「こ、このエンチャント、けっこう魔力消費するんだもん……!」


 それはそうであろうの。

 ちょっと呆れつつも納得した。


「まだまだたくさんのスライムがいるのだから、ギアを上げすぎても困るしの。そろそろ終わるであろうし一息つくが良い」


「で、でも……」


「大丈夫じゃ、ほれ見てみるがよい」


「聖なる炎よ、敬虔なる我らを守護し、敵を焼き尽くせ……【火神槍】!」


 ブレイズくんが詠唱を終えて右手を突き出す。

 そこに、白く輝く球形の炎が生み出された……と思いきや、そこから炎の槍が生み出され、そして射出された。味方を避け、スライムだけを正確に貫いていく。


 気付けば何十というスライムの群れは、ほとんど炎の槍に串刺しにされていた。瞬間的に真夏のような熱気に包まれたが、魔法が終わればまたすぐに洞窟特有の冷気がやってくる。


「ふう……うまく行ったか」


 ブレイズくんが額の汗をぬぐう。

 周囲にはスライムの死体が何匹か積み重なっていた。本能的に危ういと気付いてスライム同士で集まり、火の槍を防ごうと思ったのであろう。だがそれは無駄に終わったようだ。


「でかした。やるではないか……む? どうした、痛むのか?」


 ブレイズくんが右手をかばっている。

 今、怪我をしたということはないはずだ。


「……戦って怪我をして、たまに痛む。それだけだ」


 そういえば前に喧嘩したときや剣術の授業でも、右手の力が左手と同じか、やや弱いように感じた。右利きであるのにだ。

 それを克服するかのように、ブレイズくんは時折、右腕を鍛錬していることがある。これはもしかして、切り落とされるくらいのことをされて、治癒魔法で治したばかりではなかろうか。


「それだけということはなかろう。魔物が人間かはわからぬが、ひどいことをするやつがいたものよ」


「そうだな……二度と会いたくはないが、そうもいかないだろう」


 ブレイズくんが悔しそうに呟く。

 その目には、次は負けないとでも言いたげな光があった。

 こういう人間の不屈の精神というものは、我は好ましく思う。


「うむ、気張るがよいぞ。それより……」


「ええ。まだ生きているスライムもいるかもしれません、気を付けて確認しましょう」


 シャーロットちゃんが棍の先端でスライムの死体を確認する。

 だがそのとき、スライムの死体の山が動いた。


「むっ……!?」


 緑色の粘性の体が凄まじい速度で飛び出す。


 まずい、スライムが生き残っておった!

 スライム同士が重なり合い、ダメージを避けておったのだろう。


(ソルフレアの炎よ、我が爪に宿り敵を疾く撃ち滅ぼせ!)




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