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ダンジョン探索部、爆誕す 5




「……綺麗?」

 

ブレイズくんはぽかんとした顔をした。


 我もあまりピンと来ぬ。アーガイラムの姿は、まさにおっさんであった。豪放磊落を絵にしたような姿で、ダンディズムこそあれどパパのような清潔感はあまりない。


「ほ、本当だってば! 宝石みたいな体を持ってて、全身がキラキラしてるんだよ! それに暗黒領域の綺麗な山は、巨人の本体なんだって!」


「なるほど、そういう意味であれば納得じゃ」


 本体としての巨人は、確かに美しい。


 アーガイラムの本体、つまり銀嶺アーガイラムという山の美しさは、巨人のみならず暗黒領域に住まう魔物も、暗黒領域に入り込む人間の冒険者たちも認めるところだ。銀嶺の美しさを詩にしたためた者や、風景画の題材にする者も決して珍しくはない。


 こやつは宝石とか綺麗なものが好きであるし、何か文化的なものに触れるうちに巨人の美しさを知ったのであろう。


「宝石の体……? それは、この最下層にいるというジュエルゴーレムとは違うのか?」


「ゴーレムは別物じゃぞ。自然物とか鎧とかに動作命令や魂の模造品をつめこんで無理やり動かしている。ゆえにどこか歪じゃ。見た目も創造者次第である」


「お前……たまに妙に博識だな。普段からそうしていればよいもの」


「やかましいわい。一方で巨人は、宝石や結晶など、天然のものが長い年月をかけて自然に満ちる力を浴び続けて魂が自然発生したものじゃ。自然の美、大地の美を司っていってると言っても過言ではなかろう」


「そーそー! そーだよね!」


 トリアナイトちゃんが手を取ってぴょんぴょんして喜ぶ。

 マイナーな趣味に理解してもらえて嬉しいのであろうが、こやつ距離感が近い。


「さて、巨人のお話はそのくらいにして、先を目指しましょう」


 会話を見守っていたシャーロットちゃんがぱんと手を叩く。

 ちょっとお喋りに興じすぎていたようだ。

 のんびりしていたら夜になってしまう。お喋りするにしてもここの攻略について考えなければ。


「うむ、そうじゃな。とりあえず我とシャーロットちゃん、あとミカヅキが前衛という形でよいかのう。普通に物理攻撃が効くようであるし」


「ええ、賛成です。ブレイズとトリアナイトさんは援護……という形でどうでしょう?」


「わかりました」


「うん、わかった」


 こんな形で我らはダンジョンの奥へと進んでいった。







 かつんかつんと石を踏む音が響き渡る。


 【星光】に照らされた回廊を進んでポルターガイストを倒し、さらに新たな魔物が出てきた。

 キラーラットだ。

 猫よりも大きな体と鋭い牙を持つネズミの魔物で、さほど強くはないが不意打ちされれば危うい。


「じゃっ!」


 だが、ミカヅキの索敵とママ仕込みの槍捌きがあればさほどの問題はなかった。シャーロットちゃんの手を煩わせるまでもない。

 罠もなく、通路は歩きやすく、広い。問題なく歩みを進めていく。


「ソルちゃん、気を付けて。そろそろ上層のボスが来ます」


「うむ」


 地下三階層に出ると、そこは大広間になっていた。


 恐らくここが神殿として機能していた頃は信徒たちが集まっていたのであろう。一番奥の壁側には祭壇があり、壁には燭台の痕跡らしきものがある。


 祭壇のところには一体の骸骨がいた。


 神官のような服を身にまとい、まるで祈るように手を合わせて佇んでいる。これがアンデットプリーストと呼ばれる魔物である。事前情報の通りだ。


「この神殿に溜め込まれた祈りと怨念が合体して神官の形となった存在じゃの。ここから数十年か数百年経てばリッチに進化して自我や意識を持つこともあろうが……それは救いではない」


「そうですね……」


 仮に自我や意識を持ったとしても、怨念と妄執に苛まれてアンデッドプリースト自身がより長く苦しむことになるであろう。シャーロットちゃんもそれを知っているのか、静かな表情で我の言葉に頷いた。


「……ですが、復活するたびに倒していれば祈りも怨念も消し去ることができます。……トリアナイトさん。援護をお願いできますか?」


「任せて! 【硬化】!」


 トリアナイトちゃんが我ら二人に魔法を付与した。

 生身の部分の防御力を上げて、傷がつきにくくなるシンプルな補助魔法だ。まるで薄皮一枚の鎧を纏うような不思議な感覚に包まれた。

 トリアナイトちゃんはキレたときに自分の肉体を強化する魔法を無意識に使うようだが、冷静なときでも使えないわけではない。むしろ攻撃魔法よりこうした支援魔法の方が得意な様子であった。


「ほほう。意外に動きの邪魔にならぬものじゃの……。では、準備もできたところで勝負といこうではないか」


 我らの戦意に反応するかのように、アンデッドプリーストががらんどうの目で睨みつける。

 そして、大柄な体に似合わぬ俊敏さで我らのところまで踏み込んできた。


「なにっ!?」


 こちらを殴りかかってくる右腕が二本ある。

 見れば左腕の方も二本の、合計四本腕だ。増えた……のではない。ゆったりとした服の中に隠しておった。ずるじゃ。


「ぐっ……」


 かろうじて二本の拳は止める。

 じゃが一本の拳は少し食らってしまった。


「ソル!」


「ソルちゃん!」


「大丈夫じゃ。ミカヅキ、すまんの」


 吹き飛ばされはしたものの【硬化】によって傷は防げたし、パンチそのものの衝撃も十分に殺せた。あやつの拳が当たる瞬間、ミカヅキが体当りして衝撃を殺してくれたからだ。どちらかというと尻餅をついて汚れたことのほうが腹立たしい。


「変異種かしら。その割に魔力は大きいわけでもないし、妙ね……?」


 シャーロットちゃんが警戒を強めた。

 同時にブレイズくんとトリアナイトちゃんが、浮ついた気配を消して構えた。


「そろそろ手伝うか」


「そうだね」


 だが、おぬしらの出番はまだであるぞ。


「いいや、魔力は温存しておくがよい。まだまだ先は長いのじゃからな」


 我も少々力を温存しすぎていた。

 いや、もっと言えば舐めておった。

 相手にも無礼なことだ。


「わんわん!(おいおい、加減しろよ。ママにも言われてるだろ)」


「大丈夫じゃ。問題はない」


 竜身顕現を使うなとは言われておる。この約束を破るつもりはない。

 だがその手前まで、自分の肉体に巡る魔力を高めて、ちょっとだけ身体能力を上げる程度であれば何の問題もない。


「ソルちゃん、援護しますよ」


「ありがたい!」


 シャーロットちゃんが棍を構えると、ただそれだけで威圧感が放たれる。

 ゴーストプリーストも我とシャーロットちゃんに囲まれて攻めあぐねている様子であった……と、思っていた。


「む……!?」


 意を決してシャーロットちゃんの方に飛び込んできた。

 加勢せねばと思ってシャーロットちゃんの横に並ぶ。

 二人の力をもってすれば十二分に倒せる。


「「ぐぉぉぉああああ!」」


 あれ?

 咆哮が二重に聞こえる。

 気のせいか……と思ったが違った。


「なにっ、分離したじゃと!?」


 腕が四本あったのではない。神官服の中にもう一体隠れ潜んでいた。

 骸骨の体であるがゆえにコンパクトに収まっており気付くのが遅れてしまった。

 というかそもそも四本腕の骸骨という時点でちょっとおかしかった。


「危ない!」


 分離した骸骨がシャーロットちゃんの背後に回り込む。

 このままではまずい。

 くっ……!


「わぉん!」


 周囲を警戒していたミカヅキが猛ダッシュで割り込もうとするが、距離が遠い。

 こうなれば……爪にだけ竜の力を宿して……!


(ソルフレアの炎よ、我が爪に宿れ!)


 詠唱を聴かれぬように小声で囁き、ごく僅かな炎の斬撃を放つ。

 シャーロットちゃんの背後に回った一体のゴーストプリーストは両断した。

 そしてもう一匹は……あれ?


「……破ッ!」


 シャーロットちゃんが一瞬で倒していた。


 頭蓋骨が見事に棍で砕かれておる。

 ちょっと見てなかったけど、思った以上の技量じゃ。

 死体啜りで出会ったあやつを思い出す。


「ソルちゃん、大丈夫ですか!?」


「うむ、問題ないぞ」


「おや……一撃で倒してますね? 盾に真っ二つとは……すごい技量です」


 シャーロットちゃんが、我の倒した方の骸骨を見て賛嘆した。


「よく見えなかったけど、なんか気付いたら骸骨が粉々になったり真っ二つになったりしてたね……? 二人ともそんなに強かったんだ」


 トリアナイトちゃんがほへーと間の抜けた褒め言葉を出した。


 ……竜の力を使ったこと、バレておらぬよな?


『バレちゃいないが目立ってたぜ』


 ミカヅキが気を付けろと念を飛ばしてくる。


「仕方なかろう、非常事態じゃ」


『ソルフレアってのはユールの絆にとっては神様そのものなんだぞ。ママさんとの約束抜きにしても、厄介事を招くから気を付けろよ』


「むぅ……それは確かにそうじゃのう」


 ミカヅキが念を我に送ると同時にわんわんと鳴いてツッコミを入れる。


「おまえなんで犬と喋れるんだ?」


「付き合いが長くなれば以心伝心になるものよ」


 ブレイズくんの疑問に、少々強引な答えた。

 そういうものか……? と首をひねりながらも引き下がった。ヨシ。


「で、ミカヅキはなんて言ってるんだ?」


「え? えっと、妙な敵がいるから気を付けろと言っておるのじゃ」


「確かに……ゴーストプリーストがあのような形を取るなど、聞いたことがありませんね」


 シャーロットちゃんが心配そうに頷いた。


「偶然じゃないのかなぁ……? 特別な強化をされたというより、魔物が増えたり強くなったりする過程の珍しい現象に出くわしただけ、みたいな?」


 トリアナイトちゃんの言葉にも一理ある。


「確かに、強化されてるとも言い難いの。一体一体は普通の強さであったし」


「それにゴースト系のアンデッドが産まれるってことは、魔力が豊富だってことだよね? 永劫の金剛石がやっぱりあるんじゃないかな……?」


 トリアナイトちゃんが目を輝かせる。


「だとしても、以前の調査よりも魔物が強くなっていることの証明にはならないんじゃないか?」


「わからぬぞ? 魔力を持った宝石が誰にも持ち去られることなく在り続けたら、魔物は少しずつ強力になってく。ここが冒険者たちがわんさかくるダンジョンならともかく、全然人が来ないのだから魔物が強くなることもありえよう」


「む……そうか」


 怒って反論するかと思いきや、ブレイズくんは納得したようだ。


「なんじゃ、いつもより大人しいではないか」


「お前は前衛として問題なく振る舞っているんだ。魔物や迷宮についての知見を今更疑う必要はない」


「そーそー! だから永劫の金剛石のために協力しようよ!」


 さっきからトリアナイトちゃんのテンションが高い。

 だが正直、ちょっとこやつに対しては懸念がある。


「一応聞いておくが……なぜおぬしがもらう前提なのじゃ?」


「そうだ。戦利品は公平に分配するものだろう」


 あ、いや、公平な分配もちょっとよろしくない。

 これはアーガイラムに届けねばならぬものだし……。

 宝石が複数あるならばともかく、たった一つだけならば問題だ。


「し、しかし、分配が公平でないこともありえようぞ。もっとも活躍した者が、もっとも多くの利益を得るなどな」


「今回は調査だ。平等であるべきと思うが」


「か、活躍した人が報われないことこそ不公平だよ! ねーソルちゃん!」


「そうじゃそうじゃ!」


 友の命が掛かっておる。

 少々無茶な理屈に思うが、こればかりは譲るわけにはいかぬ。


「うーん、宝探しが目的ではないから難しいところなのだけど……」


 シャーロットちゃんが困った表情を浮かべた。


「だ、ダメかのう……?」


 おっかなびっくりに尋ねると、シャーロットちゃんが悩んだ末に結論を出した。


「ダメとは言いません。でも、いいとも言いません」


「どういうことです?」


 曖昧な言葉に、ブレイズくんが問いかける。


「意見が割れたときに合意を得られるかどうかも学園長は見ておられるわ。三人で協力できるかどうかが目的なのだから。だから私からは何も言いません。冒険をしながら、三人で結論を出してごらんなさい?」


 ますまず難しい話になってしまった。


 どうしよう……と思いながらも、我らは先を進むしかなかった。




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