ダンジョン探索部、爆誕す 4
本日、快晴。
学園の校庭から森に分け入り、獣道よりはややマシといった程度の小道を歩いて行く。
小一時間も歩いたところに、情報通りの目印の石像があった。
名も無き女神像だ。
長年の風雨にさらされたためか、元は美しかったであろう顔は漠然とし、かろうじて人間の女性の姿をしているとわかるだけだ。
そして女神像の横には、黒々とした大きな穴が我らを待ち構えていた。
その我らとは何か。
「我ら迷宮探索倶楽部! 番号! いち!」
「わぉん!」
「なんでお前が一番なんだ。シャーロット姉さんだろうが」
「わ、わたしは最後がいいかな……」
「まあまあみんな、仲良く行きましょうね」
我、ミカヅキ、ブレイズくん、トリアナイトちゃん、シャーロットちゃんの五人パーティーは、無謀の女神神殿の入り口で作戦を練っていた。
「なぜ我が最初かと言うと、前衛であるからの。魔法使いや治癒魔法使いが先頭ということはあるまい」
「ぐっ……! そ、その通りだが」
ブレイズくんが悔しそうに呻いた。
「確かに、迷宮に入るなら真面目に考えないとね。ところでシャーロット先輩は、治癒魔法が得意ってことでいいのかなぁ?」
「はい。それとソルちゃんほどじゃなくても力はありますよ」
トリアナイトちゃんの質問に、シャーロットちゃんは笑顔で頷いた。
ちなみにシャーロットちゃんは杖を持っている。
ねじくれた木の枝のようなものではない。尖端と石突きを金属で覆った、まっすぐな木の棒だ。
魔法の発動を助けるためのものでもあるようだが、打撃武器としても使うのであろう。振るう姿がサマになっておる。
「ま……前衛がお前と犬なのはいいだろう。せいぜい盾になってくれ」
「ふん。後ろに控えて指をくわえているとよいわ」
「あ、あのー、わたしがそうしたいんだけど、いいかな……いいよね……?」
「あのぅ、皆さん……他人任せも悪口もダメですよ」
おおっと、シャーロットちゃんを困り顔にさせてしまった。
「こほん。冗談じゃ冗談。お互い遺恨もあろうがここに一歩でも踏み入れれば我らは冒険者パーティー。家族も同然よ」
「それは、まあ……そうだが。だが先頭とリーダーは別問題だ。お前が仕切る必要はないだろ」
ちっ、気付きおったか。
このままイニシアチブを握れればと思っておったのだが。
「なら、リーダーはシャーロットちゃんがいいんじゃないかな……? わたしはリーダーとかイヤだし……」
トリアナイトちゃんがおっかなびっくりに提案する。最後の言葉はともかく、妥当なアイディアであるの。
「それなら文句はない」
「然り然り。年長者は敬うべきじゃな」
「わん!」
シャーロットちゃんが、仕方ないと苦笑しながらも頷いた。
元よりこういう流れになると想定していたのやもしれぬ。
「わかりました。じゃあみんな、怪我に気を付けて、安全第一で頑張りましょうね」
「「「おー!」」」
我らの初めての冒険は、こうして始まった。
「姉さん、お祈りを忘れています」
「あらあら、恥ずかしいわ」
まだ始まってなかった。
ブレイズくんが妙な指摘をして、シャーロットちゃんが照れている。
「お祈りじゃと?」
「なになに、どしたの?」
「ユールの絆では、冒険や探索を始める前にお祈りをするんです。ちょっと待っててくださいね」
二人が太陽の方角を向いて跪いた。
「「天に召します我らが偉大なる太陽神よ。我らの冒険を見守り、そして大いなる戦果をご照覧あれ」」
シャーロットちゃんとブレイズくんの祈りの声が重なる。
つまりこやつら、我を祈っておるのだ。
は、恥ずかしい……! 普通にここにいるから止めてほしいのだが……!?
「そういえばユールの絆の人、けっこうお祈りするよねー。日曜礼拝とか何やってるの? こんなふうにお祈りとか?」
「はい。こうして太陽に祈りを捧げて聖歌を歌ったり……あとは球技大会なんかもすごく盛り上がりますね」
「球技大会じゃと!?」
「あっ、たまに日曜日に道場から変な音が聞こえるのってそれだったんだねぇ。えっちなことしてるのかと……」
「しているわけがないだろ!」
なんじゃそれ!? 楽しそうではあるが……あるけど……。
「はい。一年に二回ほど大会をしてますよ。普段は道場などを借りて練習もしてます。太陽をモチーフにしたボールを使って……ソルフレア様の復活を願いながら籠にボールを入れた回数を競い合うのです」
他にもユールの絆の謎の風習を、シャーロットちゃんとブレイズくんが嬉しそうに語る。
そんな話を聞き終えてからようやく冒険が始まった。
◆
「暗黒を切り拓き我らの歩む道を示せ、【星光】」
シャーロットちゃんが両手で杖を持ちながら祈り、呪文を唱えた。
すると少し青みがかった光が我らの頭上に浮かび上がる。
暗黒の洞窟の全貌が少しだけ明らかになった。
「なんか格好良いのう」
「探索が終わったら教えてあげますね。そんなに難しい魔法ではありませんし」
「やったのじゃ!」
きらりとした光を放つのはなんか格好良い。
ぜひとも覚えたいところだ。
「しかし……意外と綺麗だな」
ブレイズくんがぽつりと言った。
確かに、意外に綺麗だ。土埃や砂で多少の汚れはあるものの、丁寧に切り出された石が整然と並んで通路を形成している。野生動物や虫に荒らされた形跡もない。まるで動物たちもここに足を踏み入れるのを恐れているかのようだ。
「天井も高いね……息苦しくないのはいいかな」
トリアナイトちゃんが普段と同じように、明朗な声で喜ぶ。
怖がりな割に、暗い洞窟は割と平気のようだ。ちょっと意外である。
「少し声を抑えろ。魔物が出ることはわかってるだろう」
「うむ。気を付けるべきは……上層のゴーストプリースト、中層を守るアーマードビートル。そして最下層にいるジュエルゴーレムじゃな」
学園長から受け取った地図には、注意するべき魔物の情報も記載されていた。しかも定期的に復活する類の魔物らしく、戦わなければ先へは進めないようだ。
またそれ以外にも迷宮内をうろつくザコな魔物もけっこういるらしい。
「ボス格の魔物は危険だが、そうじゃない魔物にも気をつけろ」
「と……言ってるそばから来たようじゃな。前情報通り、ポルターガイストのようじゃのう」
ポルターガイストとは、さまよえる魂である。
人間の魂であることは滅多にない。小動物や小型の魔物の怨念や害意が魔力と結びついたものがほとんどで会話はまず通じない。さっさと倒してやるのがポルターガイストへの供養というものだ。
『ゴガアアッ!』
「しゃっ」
槍で三体を打ち払う。
確固たる肉体を持ってないので軽い手応えではあるが、無敵というわけではないようだ。というか、なんか普通に効いた。そしてポルターガイストたちはその姿を保てず消えていく。
「ソルちゃん、まだまだ来ますよ」
「うむ!」
戦闘に刺激されたのか、ポルターガイストたちが続々と集まってきた。十、いや、十五体ほどか。
我が倒されることはないにしても撃ち漏らして後衛の方に行ってしまうかもしれん。
まあポルターガイストごときであれば大丈夫か……と思ったが、そうでもなさそうだった。
「ヤダー! なんか見た目かわいくないよー! こわいよー!」
「やかましい! 戦闘中だぞ!」
……トリアナイトちゃんが駄々をこねておる。
ブレイズくんが宥めようとしているが無駄になっておる。
「はい皆さん、落ち着きましょうね。冷静に対処すれば問題はありませんよ」
シャーロットちゃんが前に出てきて杖……というか棍を振るった。
一切の無駄のない動きで後続のポルターガイストたちを的確に突き、倒していく。
我の死角を絶妙にカバーしてくれるおかげで我も動きやすい。シャーロットちゃんがどう動くのか手に取るようにわかる。ここにいてほしいところに、いつもシャーロットちゃんの気配がある。
更にポルターガイストが追加で現れたが何の問題もなく倒せた。
「こんなものかのう」
「ですね。お疲れ様でした」
シャーロットちゃんと微笑み合うが、その後ろでブレイズくんがちょっと冷めた目をして見ていた。
「……いや、なんでポルターガイストみたいな実体のない敵を物理で倒せるんだよ」
「それは修練を積んだからに決まっておろう。逆に倒せなかったらおぬしらが頑張るしかなかったのじゃが? でもおぬしらは我らに任せて眺めておっただけなんじゃが?」
「そ、そういう話ではなくてだな……!」
ブレイズくんが慌てて否定する。
だがシャーロットちゃんが「めっ!」と言わんばかりにブレイズに語りかえkた。
「ブレイズ、それにトリアナイトちゃん。これはあなたたちにだってできることなのですよ。しっかりと修行を詰めば、刃の切っ先、拳や指先にも魔力を宿し、肉体を持たない敵であってもダメージは与えられます。多少の例外もありますが」
ですのでトレーニングしましょう、とシャーロットちゃんの目が語っている。
体育会系の光を放っているのう。
「例外?」
「例えば、そうですね……霊体ではなく自然現象や純粋な物質の化身には魔力を乗せた攻撃も通じにくいところはあります」
ああ、それは確かにそうじゃのう。
我やミカヅキの全盛期であれば、魔力の乗った拳も剣も効かぬ。
日食や月食を作り出したり、あるいは攻撃する側が絶亭有利な場所に我を召喚したり、何かしら特殊な手順を踏まなければ我らのような大自然の化身に打ち勝つことは難しい。
「でも、自然現象の化身と会う機会なんてないじゃないかなぁ……? もしかしたら太陽竜ソルフレア様が復活しないとも限らないけど、倒そうとかって思わないし」
トリアナイトちゃんが的確な指摘をする。
「そうですね。偉大なる太陽神と戦うなど恐れ多いことです。……ですが、高位の魔物の中には神ではなくとも自然の力を有している種族がいますよ」
「高位の魔物で物質の化身となると……巨人族かのう」
「そうですね。巨人族の長は美しき銀嶺。直訴の巨人アーガイラム。当初は鉱石の化身だったものが、成長して山そのものの化身になったと言われています。その子供らもまた、ダイヤモンドやルビー、あるいは黄鉄鉱や花崗岩といった石の化身で、一体一体が非常に強力であるとか」
流石に暗黒領域の国主ともなれば人間界にもその名は響いておるようだ。
「でも……巨人と会う機会なんてないんじゃないかな……? 暗黒領域の中でじっとしてるって話だよ?」
トリアナイトちゃんの言葉に、ブレイズくんが反論した。
「そうとは限らない。勢力の問題や政治的に動かないだけで、本来の活動範囲や生息域は人間とそう変わらない。石のない場所なんてこの世には空の上くらいだからな。だからこの世にもっとも多い大自然の化身は、石や山を司る巨人族だとも言われてる」
ブレイズくんが知識を披露する。
我の記憶ともほぼ一致しておるし、こやつ勉強は得意じゃのう。
「頑丈で生半可な攻撃は通用しないが、総じて鈍重らしい。仮に出会ったとしても魔法使いならいくらでもやりようはあるさ」
「それは違う。物理的な衝撃にもすべての属性の魔法にも耐性を持つ巨人もいる。避ける必要がないだけじゃ。甘く見ると痛い目を見るぞ」
巨人は、堅牢である。
そこらの体力自慢や硬さ自慢の魔物とはレベルが違う。
前世の我やミカヅキのような神のごとき力を持つならば力押しで倒すことはできようが、ただの人間では傷一つつけられぬであろう。
そんな我の説明にブレイズくんがぐぬぬ顔を浮かべるが、そこにトリアナ糸ちゃんがぬうっと割って入ってきた。
「そんなことより、巨人は……綺麗なんだよ!」




