ダンジョン探索部、爆誕す 3
いざ説得、と我ら三人はディルック先生とユフィー先生のいる部屋を訪れた。
「子供たちだけで探検だぁ!? ダメダメ! 反対!」
「落ち着きなさいよディルック。探検実習は学校でもカリキュラムにあって、それがちょっと早くなるだけじゃない。それにこの子たちの実力なら申し分ないわ」
「どんなに実力があったって子供は子供。俺ぁ認めないぜ」
「ったく、頑固なんだから」
会議室でディルック先生が腕でバッテンを作り、ユフィー先生がやれやれとため息を吐く。
「我、子供じゃないし!」
「俺たち目線じゃ子供だ。全員そんな末っ子オーラ出てるぜまったく」
「末っ子じゃなくて一人っ子じゃし!」
説得できるとか言っておいてなんだこれ……みたいな白けた目線をブレイズくんが送ってくる。
やめよ……我は前世の頃からそういう視線がめちゃめちゃ苦手である……!
「ちょ、ちょっと二人で話がしたいのじゃ」
「構わんが……」
我は焦ってディルック先生を廊下に連れ出し、ひそひそ話を始める。
(ほれ、我の正体を知っておるなら、わかるじゃろ?)
(わかるさ。だがお前の正体がバレかねないってことだぞ)
(むっ……)
(ここは『ユールの絆』、太陽神を崇め奉る人間の学校だってことを忘れたか? もしお前の正体が知られたら厄介なことになるし、太陽神教の総本山に呼び出されて親元に長く帰れなくなる……とかもありえるかもしれないぞ)
(そ、それは……困るが)
(他の洞窟でいいなら案内してやる。とりあえずそれで我慢するんだ)
と言って、ディルック先生が廊下から会議室に戻る。
まだ話は終わっておらぬ、と言いたいところだがあんまり二人きりでも怪しまれる。ここは一度、引き下がるしかないかもしれぬ。
「……冒険したいなら、俺たちが引率してもっと適した場所を見つけてやる。だが未探索の迷宮に行くのは教師としても冒険者としても反対だ」
二人で共に部屋に戻る。
そしてディルック先生は我に言ったことを繰り返した。
「で、でも! あそこでしか見つからないものがあるのじゃ! 永劫の……ふごふご」
我が反論した瞬間、トリアナイトちゃんが我の口を塞いだ。
(ダメだよそれを大人に言ったら!)
(なんでじゃ!)
(大人たちが先に永劫の金剛石を取ったらまずいよ……わたしたちのものにはならないかも……!)」
むむむ、確かにそれは困る。
我はアーガイラムの病を解決するのが目的であって、冒険そのものは楽しみであるにしても手段に過ぎぬ。トリアナイトちゃんやブレイズくんにとってはわからぬが、我は譲るわけにはいかぬ。
そしておそらくトリアナイトちゃんにとっても、何か譲れぬものがある気配を感じる。
「おいおい、内緒話か? 何か企みがあるのかもしれないが、俺の目の黒いうちは……」
「まあまあ、ディルック先生。それもまたよいではないか」
そのとき扉が開いて、鷹揚な声が我らに届いた。
ベルグトゥー学園長である。
「彼らは自分たちの絆を深めるために知恵を絞り、行動し、先日のようないがみ合いを捨てて一致団結している。今の彼らを評価できぬのであれば、何を評価すればよいのだろうか」
「おと……学園長!」
ブレイズくんが嬉しそうな顔でお父さんとかお父様と言いかけた。
普段ならば煽っているかもしれぬが、こやつの身の上を聞いた今となっては笑う気にはなれぬ。トリアナイトちゃんも真面目な顔で……いやこやつ笑いを堪えておる。あかんやつじゃ。でも堪えているならば許してやるとしよう。
「学園長、実は彼らが……」
と、ユフィ―先生が説明しようとしたところを学園長は遮った。
「ああ、大丈夫だ。仔細についてはブレイズから聞いている」
「その上で賛成なさると?」
ディルック先生の目が険しくなる。
折れてほしいところではあるが、おちゃらけた顔の裏に一本筋の通ってるのはディルック先生のよいところだ。いやでもやっぱり折れてほしい。
「いや、ディルック先生。未探索の迷宮に子供たちだけで行かせることに反対するのはもっともな話だ。であれば私も当然反対するが……あそこは私がすでに探索していて、地図を起こしているのだよ」
「そうなのですか?」
「学園の噂も、おそらくどこかで私が無貌の女神神殿を探索したことを知ったのだろう。そうでなければ子供たちも知りようがない。ああ、もちろん私が世界征服を企んでいるという噂も本当かもしれないね」
「子供は想像力豊かなですから」
学園長の冗談に、ユフィー先生がくすりと笑う。
「全貌を把握している、ということでよろしいのですね?」
ディルック先生が落ち着いた素振りで確認し、学園長が頷く。
「ああ。地図もある。魔物の配置が記されたものをね。ただ子供が遊びで入っては困るから詳細を皆に発表するのは控えて、入口も封鎖していたのだ」
「その口ぶりですと魔物はいるのですね」
「ああ。魔力が澱んでいて低級の魔物が自然発生する。恐らくボスと呼ばれるような魔物もいて、ボスは一度倒してもしばらくすれば復活する。私が倒した魔物もすでに復活していることだろう。ゆえに戦闘は避けられない」
学園長は真面目な表情で語り、だがふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「だが、彼らが力を合わせることができれば問題はないだろう」
その言葉に、ブレイズくんが後ろで鼻を高くしている。
学園長に評価されるのが嬉しいのであろう。
「でも、探索済みとはいえ子供だけというのは……」
と、ユフィ―先生が反論しかけた。
「無論、彼らだけで行かせはしないとも。……シャーロット」
「ええ、学園長。お任せください」
シャーロットちゃんが前に進み出る。
「もしかしてシャーロットちゃんが引率……?」
「こう見えても私、けっこう強いんです。治癒魔法でしたら冒険者の方々に引けを取りません」
えへんとシャーロットちゃんが胸を張る。
控えめで優しいシャーロットちゃんがこんなにも自信満々な態度を取るのは珍しい。
「治癒魔法の腕前は疑うべくもないが、前衛は……いや、まあ、なんとかなるか」
ディルック先生が我をちらりと見る。
むふん。我の力を存分に頼るが良い。
「ソルちゃんの愛犬がいれば大丈夫そうね」
「そっち!?」
ユフィー先生の言葉に、皆が一様に頷く。
「だって、ミカヅキちゃん有名よ? 賢くて強くて……入学した子供たちの中でトップなんじゃないかって」
馬鹿な……!
と思ってミカヅキを見ると、やれやれと言わんばかりにあくびをしていた。




