ダンジョン探索部、爆誕す 2
「……つまりお前は、僕、お前、こいつで冒険者パーティーを組みたいと」
翌日の放課後、我は空き教室にブレイズとトリアナイトを呼びつけて三者会談を行った。
教室に面した廊下では我の友達やブレイズ、トリアナイトの友達がはらはらしながら見守っている。ケンカ厳禁を厳命したゆえ、相手派閥を時折睨んだりしつつもちょっと距離を取って衝突を避けている様子であった。
「そういうことじゃ。それぞれ我は前衛ができる。おぬしは後衛ができる。トリアナイトちゃんはどちらもそこそこできる……と、得意分野が別れておる。学園長の言うような『協力して取り組む課題』にはぴったりであろう」
「しかし……『無貌の女神神殿』に行くのか」
ブレイズくんが意味深な名を口にした。
「なんじゃそりゃ?」
「遺跡の名前だ。自分の目的地の名前くらい調べておけ……と言いたいところだが、仮の呼び名に過ぎないからな」
「古い遺跡なら名前くらい残ってそうなものじゃがのう……?」
「そもそも知られていなかったからな。学校の敷地を作るために森を切り開いたとき、偶然見つかったらしい。工事関係者や学校関係者が、『無貌の女神神殿』と名付けた」
なるほど、と頷く我の横で、トリアナイトちゃんがちょっと怯えておる。
「ネーミングがなんだか仰々しいね……ちょっと怖い響きだし……」
「ふん。お前にはわからないかこのセンスが」
ブレイズくんがそんな憎まれ口を叩く。
ぷくーと頬をふくらませるトリアナイトちゃんをなだめつつ、我は話を促した。
「で、なぜ無貌の女神神殿と呼ばれるのじゃ」
「賢神にも太陽神にも属さない、古き女神を祀っているからだ。入口に女神像があるからすぐわかるらしい。当然、神を祀る司祭も信者もいない」
「ますますおもしろいではないか」
「だが……あそこは野良の魔物も出るし、生きている罠もあるらしい。危険を犯すようなことに許可を出してくれると思うか?」
ブレイズくんが淡々と問いかけた。
「何か言い出す前に諦めてどうするのじゃ。消極的ではいかんぞ」
「なんだと! トリアナイト、お前も何か言ってやれ」
「うーん、お洋服汚れるのわたし好きじゃないし……」
びっくりするくらいノってこなかった。
「では二人とも反対なのか」
「……行きたくない、とは言わない」
ブレイズくんが逡巡しておる。
「うむ?」
「だがここには高名な冒険者がいるし、教師陣もそれなりに実戦を経験してる。あえて生徒に調査を任せてくれるかというと……やはり難しいと思う」
「ではディルック先生とユフィー先生を説得すればよいのじゃ。二人が『生徒だけで行って良い』と太鼓判を押してくれたなら問題はなかろう」
「説得できるとは思えんが……。それに」
ブレイズがちらりとトリアナイトの方を見る。
こやつ、枝毛をいじっておる。早く話が終わらないかなーという態度だ。
「ええい、真面目に話を聞かぬか!」
「だって疲れそうだし……もうちょっと華やかなのがいいなぁ。ダンスバトルとかにしようよ」
「華やかであればよいのだな? 例えばおぬし、宝石は興味あろう?」
「もちろんあるよ!」
トリアナイトが自慢げに胸元から何かを取り出す。
水晶のネックレスだ。服の下に隠していたのであろう。
「またそうやって宝飾品を身に着けて……先生に怒られたばかりだろう」
「ふむ、魔力を感じるの。何か防御魔法をつけておるのか?」
宝石や何かの結晶には魔法をかけやすい。
そうしたアイテムは人間のみならず魔物たちも愛用していたりする。。
「よく気付いたね? ソルちゃんもこういうの興味あるの? あるなら嬉しいな……えへへ」
「なんだと……!」
トリアナイトが驚き、ブレイズがくやしそうな表情を見せる。
ふふふ、現代魔法ならともかく、こういう古い魔法には詳しいのである。
「ブレイズも精進が必要じゃのう」
「そう言うならお前はもっと取り巻きを抑えろ。喧嘩っ早いやつらが多い」
「ぐぬぬ、おぬしこそ減らず口を……!」
「と、ともかく、どんな宝石があるの……?」
トリアナイトちゃんがまあまあと宥めてくる。
おほんと咳払いをして、我は再び話を始めた。
「噂では永劫の金剛石が眠っているという」
「……えっ!? そ、それホント!? 嘘じゃないよね!?」
トリアナイトちゃんが、キレるとかではなく純粋に驚いて突飛な行動に出た。
我の肩を掴んでがくんがくん揺さぶる。
「これ、やめい! デリカシーがないぞ!」
「あっ、ごめんごめん」
トリアナイトがぱっと手を離す。
「あくまで噂に過ぎぬ。だが具体的な石の名前が出てくるのは気になる。金銀財宝が隠されているとするなら、もっと別のものでもよいはずじゃ」
永劫の金剛石の見た目はダイヤモンドと同じはずだ。確かに素晴らしいが、迷宮の奥に眠っているものとして考えたとき、少々中途半端だ。
この石の本質は巨人族の治療薬であり、あるいは鉱石魔法を強化するマジックアイテムでもある。あえてそれが封じ込められているという話が伝わっているのは、信憑性があるような気がする。
「どういうことだ?」
ブレイズはぴんと来なかったようだ。
「嘘を吐いて人間をおびき寄せるならば、他にもっとよいエサが幾らでもあるということじゃ。ただの宝石ではなく宝石をあしらった王冠であるとか、あるいはもっと輝かしく稀少な宝石であるとか」
「そんなもののために危険な場所に踏み入る愚か者の気が知れないな」
ブレイズにとってはどちらもさほど価値は無いのであろう。露骨につまらなそうだ。
「では、行かぬのか? 他に何かアイディアがあるなら乗ってやってもよいが」
「行けるなら行くが……やはり先生たちが認めるかどうかが問題だと思う」
「我は、ディルック先生は交渉の余地があると思う。ユフィ―先生はちと難しいかもしれぬが」
「……確証はあるんだな?」
「ある」
ブレイズくんの表情が変わる。
これはもう一押しといったところかの。
「であれば……シャーロット先輩を通して学園長に談判する。ディルック先生と学園長が良しと言うならば、他の人も否とは言わないだろう」
「そういえばおぬし、シャーロットちゃんと知り合いなのか?」
「……僕やシャーロット先輩のように、学園長に引き取られた子はこの学園にたくさんいる。学校を創設したのも、学園長が引き取った子供らに教育を受ける場を与えるためだ」
「ほう……」
そういえば篤志家であるという評判であったのう。
物腰の柔らかさに比して妙に強そうな不気味な気配を感じたが、ブレイズくんが心から信頼を寄せているのも当然であったか。
「だから僕は学園長の期待を裏切りたくない。この学園の評判を穢す人間も嫌いだ」
冷たい目線を我とトリアナイトちゃんにぶつける。
だが、うむ、そういうことか。
こやつの中にある炎は義憤。
他者のための怒りだ。
シャーロットちゃんがこのような高慢な子供をどこか気にかけている素振りを見せたのも、なんとなく納得する。
「意外と義に厚い男子ではないか。我は好きじゃぞ」
「なっ……そ、そういうことを言うな!」
「まあまあ、よいではないか」
ばしばしとブレイズくんの背中を叩くが、妙にくすぐったそうに逃げた。
「と、ともかく。ひとまず休戦だ。無貌の女神神殿に行く案が現実的なら協力もやぶさかじゃない」
トリアナイトちゃんに続いて、こうしてブレイズくんも仲間に入った。
「よし! 迷宮冒険部、結成じゃな!」
「変な名前をつけるな」
「みんな、先生たちの説得をがんばって……わたしも応援するから……!」
「お前も働け」




