ダンジョン探索部、爆誕す 1
お説教が終わる頃には今日の授業も終わっており、寮の部屋に戻るとエイミーお姉ちゃんがミカヅキと遊んでいた。
「エイミーお姉ちゃん、ミカヅキが困っておろう。お腹の臭いを嗅ぐのはセクハラじゃぞ」
「えー、たまにはいいじゃん。でも堪能したからいっか」
ミカヅキのお腹からエイミーお姉ちゃんが顔を出す。
『まったく、抱き枕代わりだな……。それじゃ俺は厩舎で休んでるぜ。娘二人の部屋じゃどうにも落ち着かねえしな』
はぁやれやれと言わんばかりにミカヅキは部屋から出て行った。
ミカヅキのような動物は、別の部屋が用意されている。馬や牛を連れてくる生徒もいて、そのための厩舎のようなものが用意されていた。もっともミカヅキは足ふきマットでちゃんと足を拭いて寮に出入りするし番犬代わりになってくれているので、厩舎と寮の往復については誰もとやかく言わない。むしろ皆に可愛がってもらっておる。
「うむ。ゆっくりするがよい」
ミカヅキがマズルで扉を押して静かに開けて、そしてちゃんと戸締まりをして廊下をトコトコ歩いていく。犬としてはちょっとお利口すぎるのではないか。
「ミカヅキちゃん賢いよねー。なんか言ってることわかる気がする。んで、今日は妙に遅かったけどなんかあったん?」
「なんでもないのじゃ」
「またケンカして怒られたやつだ」
「なんでもないと言っているのじゃ!」
「まあまあ、お姉ちゃんに話してみなよぉ」
今度はミカヅキのかわりに我がエイミーお姉ちゃんの抱き枕にされる。
まったくワガママな子らが多くて困る。
しかし、よくよく考えてみればお姉ちゃんに黙っていても仕方の無い話である。
あのナマイキな連中のことも話したいところであったし。
「かくしかじかということなのじゃ」
「……なるほどねー。ウマの合わないクラスメイトと仲間になれ、と」
「学園長はそう言うておったが、何をして良いかもわからぬ」
しかも一週間以内という期限付きである。
「じゃあ、クラブ活動みたいなのやればいーんじゃないの?」
「くらぶかつどー?」
耳慣れぬ言葉が出てきた。
「放課後、授業とは別に何か好きなことをやるんだよ。学校が部屋とか道具とか貸してくれたりもするんだって」
「いまいちピンと来ぬ」
「えっとね、剣術の訓練をするクラブとか、なんかボール投げてそれを木の棒で打ったりするクラブとか、踊りまくるクラブとか」
「ほほう。剣術か。それはよいのう」
「でも他の子はどう?」
「うーむ……嫌がるじゃろうな」
あやつらに負けたくはないが、得意分野で勝ってもあやつらに勝ったとは言えぬ。あやつらにはあやつらの秀でているところがあるし、それゆえに他の子らも付いてきておる。クラスメイトもディルック先生たちも納得せぬであろう。
「もう少し、こう……三人全員が乗り気になるような公平な勝負で、けど最終的に我が大勝利を収めて尊敬の念を集めるようなものはないであろうか」
「だいぶワガママっていうか正直だねぇ。譲ってあげる気はないんだ」
エイミーお姉ちゃんがカラカラと笑う。
「我の方からあやつらに傅いたり頭を下げたりする気は無いもん」
「まーケンカするだけしてみたらいいよ。あたしはソルちゃんがケンカできる相手を見つけられてちょっと嬉しいし」
「嬉しい?」
エイミーお姉ちゃんは時折よくわからぬことを言う。
「なんでもなーい。それよりソルちゃんが大勝利を収められるかどうかはさておき、ちょっと思いついた」
「ほほう。なんじゃ?」
エイミーお姉ちゃんがちょいちょいと我を手招きする。この部屋でひそひそ話をする意味はないのだが、とりあえず我は耳をエイミーお姉ちゃんの口元に寄せた。
「……この学園って、怪談話があるんだよね」
◆
ユールの絆学園の歴史はそこまで深くはない。
だがそれでも子供たちが寝食を共にしていれば、大人たちが想定するものとはまた違った学園の社会が作られる。例えば、屋上の花壇は生徒会が管理するものというイメージが作られて一般生徒が迂闊に立ち入りしてはいけないという空気があるが、それは何か規則があるわけではない。
食堂のおばちゃんに年齢を聞いてはいけないという暗黙の了解があるが、こんなもんただのマナーとかエチケットである。
ディルック先生はタバコ休憩をしているフリをして、数千年の時を経て復活する魔神と戦う準備をしているという噂があるが、本当にただのタバコ休憩である。とはいえ数千年の眠りから復活した我と戦ったのも事実だ。
学園長は実は世界征服を企む集団の首領というであるという噂がある。太陽神教にかぶれた不良青少年を更生させ、あるいは治安の乱れた街の復興に尽力し、学校を創設した篤志家が実は大悪党という噂は多くの学生に受けたが、学園長のファンや恩義を感じている学生の怒りを買ったために学園七不思議における欠番となったらしい。
「そもそも学園七不思議ってなんじゃろ」
「なんかあるらしいよ。そもそも七不思議全部知ってる人がいないとか、実際は6個だとか、100個あるとか」
「適当じゃのー」
ともかく、エイミーお姉ちゃんの話しによれば学校にはたくさんの噂があるようだ。
中にはおどろおどろしいものもある。
「運動場の北側に森があって、そこを切り開いて新しい建物を作るらしいんだけど……計画だけがあってずっと難航してるらしいんだ。なんでも森の奥に遺跡があって、そこから魔物とか悪霊が出るんだとか」
「対峙すればよいではないか」
「遺跡がすごい迷宮になってて、並の冒険者じゃ手出しできないらしいよ。罠とか仕掛けがあって古代の知識がないと先に進めないとか」
「ふむふむ」
「で、しかも……その遺跡の一番奥には封印されたお宝が眠ってるんだとか。学校が冒険者ギルドとかに依頼しないのも、その秘密を解き明かして学校が独り占めしたいだろうって噂もあるんだよ」
「そういえばアップルファーム開拓村でもパパが洞窟探検に行ったりしてたのじゃ。まあ中にあったのはコカトリスの巣で親子丼になったのじゃが」
「あれ美味しかったねー! あ、いや、ここにあるのはそういうお宝じゃないんだよ! すっごいんだよ、多分!」
つまり大したことはなさそうである。
なんかミカヅキがおやつにしそうな肉とか骨とか転がっておるなら興味なくもないが。
金銀財宝があったならばパパやママが喜ぶかもしれぬが、今のところシャイニングルビーで儲かっておるようだし。
そもそも我、前世でいろんな献上品を見てきておるからお宝より冒険の方が興味あるのだ。
「あ、全然興味ないって顔してる」
「ちょっとやそっとのお宝では我の心は動かぬのじゃ」
「なんだとー! 絶対驚くし! なんとそのお宝っていうのはね……」
エイミーお姉ちゃんは自信満々に小さな胸を張って耳打ちした。
我は人生で初めてエイミーお姉ちゃんに敗北した。
こればかりは驚かざるを得なかった。
「なぬ……!? 永劫の金剛石があるじゃと……!?」




