学園の三悪人 5
「入学早々、凄いなお前ら」
「他のクラスは平和なのに……」
ディルック先生とユフィー先生の二人がやれやれと溜め息を吐く。
今日はお叱りなので飴玉はくれぬようだ。我、悲しい。
「我悪くないもん! 止めようとしたもん!」
「それはこっちの台詞だ」
「わ、わたしだって悪いことしてないもん……」
「おぬしが授業を乗っ取って単独リサイタルとか始めるからじゃろがい! ていうか途中でブチ切れて凄いことになってたじゃろうが!」
「だってみんな歌ってほしいって雰囲気だったし……殴ってきたのそっちだもん……」
「ソルたちは短慮すぎるし、トリアナイトたちは責任を回避しすぎだ。友達が騒いでるなら友達を諌めるべきだろうが。嘆かわしい。教室の質が下がる」
「お前らとて嫌味を言って挑発しておるではないか」
ええい、我が何かを言えばこやつらは負けじと返してくる。
大いなる太陽の化身に対してなんと無礼なことよ。
「……こうして見ると、年相応のガキだなぁ。似たもの同士というか」
「「「似たもの同士じゃない!」」」
ディルック先生の言葉に思わずハモってしまった。
「どうしたものかしらねぇ」
ユフィー先生が苦笑いを浮かべる。
ディルック先生も同じように苦笑していたが、表情を引き締めたて語りかけてきた。
「お前たちは、学園の中でも特に優秀だ。成績については非の付けようがない」
「それほどでもあるがのう」
「だが、まだ子供だ。能力に相応しい振る舞いを身に付けるべきだ」
ディルック先生の言葉にブレイズが憮然とした表情を浮かべる。
トリアナイトは、「まだ子供だもん」と言いたげに肩をすくめる。
我はというと、まあ、正直そうだろうなと思った。
人間社会の大人というものがまだよくわからぬ。
「僕はこいつらより大人だ。突っかかってくるから反撃しているだけだ」
「だが同じクラスメイトだろ? 学園長も言ってたじゃないか。同じ学園に暮らす人と家族のような絆を作ってほしいって」
「ぼ、僕が学園長の言うことを軽んじてると言うんですか!」
ブレイズが珍しく激高した。
我もトリアナイトも驚いて目を丸くする。
今までも怒ることはよくあったが、どちらかというと呆れを滲ませてちょっとクールぶってるところがあった。今回はどうにも本気の怒りを感じる。
んん……? なんか、見たことがあるような気がするのう。
「そうじゃない。だが実践できてると自分自身で思うか?」
ディルック先生の口調は穏やかだ。
だが決して茶化しもせず本気で聞いてるのが伝わってくる。
「おっと、もちろんお前たちにも聞いているぞ。一人だけ怒られてると思うなよ?」
にやっと笑いながら我とトリアナイトを指差す。
ブレイズの表情が少しだけ緩む。
こういうところは大人であるのう。
「……そうありたいとは思っています」
ブレイズが小さな声で答えた。
「そうか。じゃあこれからどうすればいいと思う?」
「それは……ん? 誰か来たな」
そのとき、会議室の扉がおもむろに開いた。
真面目な話をしているところなのに誰じゃろうか。
「であれば、苦楽を共にする……というのはどうだろうか?」
「ベルグトゥー学園長!?」
ユフィー先生が驚いて振り向いた。
そこにいたのは、入学式で挨拶をした学園長であった。
その隣にはよく見知った顔もいる。
「シャーロットちゃん!」
「久しぶりですね、ソルちゃん。ブレイズも、トリアナイトくんも、お元気?」
楚々とした様子で学園長の後ろに控えている。
再開を喜びたいところではあるが、何やら学園長が話がある様子だった。
「冒険者稼業が長いのに教師の姿も板についている。お招きした甲斐があったというものだ」
「ご覧の通り、生徒が思いの外優秀でしてね」
学園長の褒め言葉に、ディルック先生が笑いながら肩を竦める。
うむ、我はたしかに優秀であるがゆえ。
「能力ある子が目立つのはある意味必然。授業を乗っ取るのは、少々いけないことだがね」
「……ごめんなさーい」
ちくりと注意されたトリアナイトが、バツの悪そうな顔で謝る。
「責めているわけではない。ここから学び、成長し、巣立っていくためにこの学園はあるのだから。だから我らが学びの場を創り出すことが肝要だ」
その落ち着きのある声に、皆が耳を傾けた。
パパほどではないが、なんとなく「話を聞いてみるか」という気分にさせてくる男だ。
こういうやつは古代にもおったのう。
祭祀や占術師に多いタイプで、聖人君子のこともあれば腹に一物も二物もある者だったりした。
学園を創設して子供らの面倒を見てるとなると、どちらにせよ中々の傑物なのであろう。
「学園長、何かお考えが?」
ディルック先生の言葉に、学園長が口に微笑みを浮かべた。
「いや、考えというほどの物ではないのだが……何か共同作業をするようなものがあれば仲も深まるだろうと思ってね」
「受業ではそうしていますが……」
ユフィ―先生の言葉に、学園長が小さく首を横に振る。
「だが受業では人数が多くて、彼らは彼らの友人に囲まれてしまうだろう? そうではなく、例えば違う職能を持った人間同士が集まって協力するような……そう、君らのような冒険者パーティーのような活動があればよいだろうと思ったものでね」
「流石に冒険者というのは早いかと」
「はは、物の例えだよ。だが……」
学園長はそこで言葉を切った。
「きみらに必要なものは対立ではない。敵ではないのだから。出し抜き、勝ち抜き、勝ち上がることがきみたちの目標なのかな?」
「そ、それは違います」
ブレイズが焦って否定した。
我もトリアナイトも、そこにはまったく異存はない。
いけ好かない二人ではあるが、戦うために来たわけではないのだ。
「何か探してみるといい。仲間として手を携えるにはどうすればよいかを」
そう言って、学園長は静かに微笑んだ。
パパほどではないが、大人の魅力というものが溢れている男であった。
「と言っても、授業が成り立たない状況が続いちゃ困る。もう少し具体的に詰めませんか?」
ディルック先生の言葉に、学園長が鷹揚に頷いた。
「そうだな……では期限を設けようか」
なぬ?
なんだか厄介ごとの匂いがするのう……。
「一週間以内に、三人が協力して取り組むことのできる課題を考えてみるんだ。それを今回の罰ということにしようじゃないか」




